第73話:対峙
夜の帳がいよいよ深まる中、宝蔵石を囲む六つの影は、それぞれの想いを胸に、緊迫した対峙を続けていた。
美藍は、震えを抑えるように大きく息を吸うと、意を決したように、前へと一歩踏み出した。
「何が、聞きたいの?」
正則が慌てて止めようとしたが、美藍はそれを制するように、続けた。
「私の知ってることなら……全部、教えてあげる」
教団の男は、その堂々とした態度に、意外そうに眉を上げた。
「物わかりの、いい娘だ」
「だったら、教えてもらおう」
男が一歩前に出る。
「名方くんに聞いても、はぐらかすばかりで。……君たちだけで、見つけ出そうとしてるんだろう」
「何を?」
美藍が、あえて問い返すと、男は薄く笑った。
「白々しい」
「アークを探し出し――力を手に入れようとしているんだろう」
美藍は、真っ直ぐに男を見つめ返した。
「アークが、力を授けるとでも?」
「そうだ」
男は迷いなく答えた。美藍は、しばらくその言葉を、静かに噛みしめるように考えていた。
「うーん……」
美藍はそこで、ふっと肩の力を抜くように、軽い調子で言葉を継いだ。
「本当に、何が聞きたいのか、私には分からない」
「たぶん――古い箱ですよ(笑)」
その突き放したような一言に、教団の男の表情が、わずかに険しさを帯びた。夜風が、宝蔵石の周りを、静かに吹き抜けていった。
教団の男は、腕を組みながら、面白そうに美藍を見つめた。
「初めて会うのに……堂々とした娘さんだなぁ」
「初めて?」
美藍は、その言葉に、小さく首を傾げた。
「んー……」
「私は、今日で四回目だと思ってますが。違いますか?」
「えっ……何を」
男の表情が、初めて動揺の色を見せた。美藍は、静かに続けた。
「それまでに会ってたかは、分からないけど」
「黒い車で追いかけて来た時、ハッキリ顔は見れなかったので……それは、会ってないことにして」
美藍は、指を折りながら、淡々と数え上げていく。
「お遍路宿で、一回。モカで、二回目。マドラスで、三回目」
「そして、今日で――四回目」
「違いますか?」
「な……何だと」
男が、思わず後ずさった。
「気付いていたのか」
「最初は」
美藍は、少し困ったように微笑んだ。
「偶然かなー、と思ってたけど」
「マドラスで、確信したわ」
美藍の視線が、静かに名方へと向けられた。
「名方さん」
名方は、身じろぎ一つせず、その視線を受け止めていた。
「わざわざ、市内のレストランに連れて行くんだもん。何かあると思うじゃない」
「知らんかったばい……」
里奈が、呆然とした様子で呟いた。
「うちは、お遍路宿は……気がつかんかったばい」
「お前ら、いつから……」
名方が、絞り出すように声を出す。美藍は、少し悪戯っぽく笑った。
「だってー」
「名方さん」
「その人たちと、おんなじブレスレットしてるんだもん」
名方が、思わず、そっと自分のブレスレットに手を触れる。その仕草が、何よりの答えだった。
美藍は、そのまま隣の里奈へと視線を移した。
「里奈も、ありがとうね」
「いつも心配して……見守ってくれてたんだよね」
「うち……うちは」
里奈の声が、震えていた。
「うんうん」
「ありがとう」
美藍は、優しく里奈の手を握った。
「マドラスでは、フォークを、力いっぱい握りしめてたもんね」
「えっ……」
「だって、美藍がオムライス頼むけん……」
里奈は、涙を堪えるように、言葉を続けた。
「スプーンじゃ、戦えんばい」
「暑いのに、熱々のミートソース食べることになったんよ……」
「うちも、オムライス食べたかったんよー……」
その声は、次第に涙声へと変わっていった。夜風の中、張り詰めていた空気が、一瞬、温かなもので満たされていく。
そんな二人の様子を、教団の男たちが、訝しげに見つめていた。
「……何を、話し込んでる」




