第70話:星の下で
夕食を終えたヒュッテの食堂には、まだ温かな空気が残っていた。窓の外はすっかり夜の帳が下り始めていたが、空にはまだ薄明るさが残っている。
ふと、壁に飾られた一枚の写真に、美藍の目が留まった。満天の星と、天の川がくっきりと写った、幻想的な夜空の写真だった。
「里奈、見て。ここから見える星空、こんな感じなんだって」
「えー! こんなに星が見れるとー!?」
里奈も写真に駆け寄り、目を輝かせた。
「天の川まで、はっきり写っとるばい……すごい」
「暗くなるの、楽しみだね」
美藍がそう言うと、里奈も大きく頷いた。
「うん! 早う真っ暗にならんかなぁ」
名方は、そんな二人の様子を見ながら、静かに腕時計を確認した。
「その前に、少し失礼する。会社に、状況の報告をしておきたい」
「あ、そうですよね。リフトが止まったこと、ちゃんと伝えておかないと」
美藍が納得したように頷くと、名方は軽く頭を下げ、上着を羽織って席を立った。
「すぐ戻る」
そう言い残し、名方はヒュッテの外へと出ていった。
美藍と里奈は、しばらく食堂に残り、写真の星空を見ながら、名方の帰りを待っていた。だが、十分、二十分と経っても、名方は戻ってこない。
「遅いね……」
美藍が窓の外を見やりながら呟くと、里奈も少し心配そうな顔をした。
「電波、悪いんかな。それとも、道に迷っとるとか?」
「ちょっと、見に行ってみようか」
美藍が立ち上がると、里奈も頷いた。
「うん、行こう」
美藍はふと、傍らに置いていた、あの藍染めのチューリップハットに手を伸ばした。そっと頭に乗せ、鏡に映る自分の姿を確かめる。
「よし」
里奈もまた、上着のポケットを、そっと確かめた。
二人は上着を羽織り、ヒュッテの外へと足を踏み出した。冷たい夜風が、頬を撫でていく。空はすでに、写真で見た通りの、満天の星に覆われ始めていた。宝蔵石神社の方角に向かって、二人は歩き出した。




