↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/81

第9話:今夜はここまで

 眉山の展望台で、しばらく夜景を眺めていた名方が、不意にスマホを取り出して何かを確認した。


「……よし。どうやら、さっきの連中は撒けたようだな」


「え、本当ですか?」


「ああ。知り合いに頼んで、周辺の道を軽く見てもらってた。あのセダンらしき車は、もう市街地の方には見当たらないそうだ」


美藍はほっと胸を撫で下ろした。張り詰めていた気が緩んだ途端、どっと疲れが押し寄せてくる。時計を見ると、すでに午前一時を回っていた。


「名方さん、時間、もうこんなに……」


「ああ、悪かったな、付き合わせて。家に送るよ」


名方は煙草の吸い殻を携帯灰皿にしまいながら、柔らかく笑った。


「明日は藍染工房へ?」


「ああ。明日の昼にでも、案内するよ。今日はもう、色々ありすぎただろう。ゆっくり休め」


美藍は少し迷ったが、正直なところ、身体はとっくに限界に近かった。バイトの疲れ、教授とのやり取り、逃走劇――一日の中に起きたことが多すぎて、頭の中が飽和状態になっている。


「……分かりました。じゃあ、お言葉に甘えて」


二人は車に戻り、名方は美藍の自宅へ向けて車を走らせた。窓の外を流れる夜の街並みを眺めながら、美藍はふと、名方の足元に置かれた風呂敷包みに視線を落とした。


「その古文書、名方さんがずっと持っておくんですか?」


「ああ。念のため、俺が管理しておく方がいい。万が一ってこともあるからな」


「そう、ですよね……」


美藍は少し名残惜しい気もしたが、名方の言うことにも一理あると納得した。


やがて車は、見慣れた美藍の自宅の前に停まった。


「着いたぞ。今日はほんとに、色々巻き込んで悪かったな」


「いえ……。むしろ、私の方こそ、ありがとうございます。こんな面白いこと(?)に、巻き込んでもらって」


美藍は苦笑しながら、シートベルトを外した。


「明日は何時頃、迎えに来てもらえますか?」


「昼の一時にしよう。それまでゆっくり寝ておけ」


「はい。じゃあ、おやすみなさい、名方さん」


「おう、おやすみ」


美藍は車を降り、名方の車が走り去るのを見送った。静まり返った住宅街に、エンジン音が遠ざかっていく。


家の玄関の鍵を開けると、リビングの明かりが漏れていた。どうやら母が起きて待っていたらしい。


「……ただいま」


小さな声で呟くと、美藍はそっと家の中へ入っていった。長かった一日が、ようやく終わろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。