7暗天1
「ようやくお手手が自由だな」
船から降りて、手を縛っていたロープが解かれた。
本当に暴れないようにしっかりと縛ってあったので手首がロープの形に赤く変色している。
手首をさすりながら、こんな感じの黒い模様がある悪魔がいたなとヨルは思い出していた。
「あいつら、目つきが違うな」
近くの砂浜に移動する。
そこにはすでに多くの人がいた。
ヨルが見た感じでは三種類の人に分けられる。
まずは大人と子供。
大人は目つきの悪い男と同じく、どうにも一般の人たちには見えない連中だ。
そして子供たちには二種類がいる。
一種類はヨルと一緒に連れてこられた子供たちのように怯えた顔をしている奴ら。
何が起きたのか分からないような顔をして、ビクビクと大人の顔色をうかがっている。
そして、もう一種類の子供たちは怯えた子供たちと距離をとっている。
怯えたような様子はない。
さらに大人たちと同じく冷たい目をしていた。
「どっちが好みかって聞かれたら、あっちなんだがな」
メソメソしたガキどもよりも冷たい目をしたガキの方がヨルは好ましく思う。
しかしこんな状況に動じていないガキが普通のガキなはずはない。
だからヨルはどちらにもあまり近づくつもりはなく、怯える子供の後ろで状況を見守る。
「あんたら……一体何をするつもりだ!」
勇気を出した一人が全員の疑問を代弁する。
大人たちの視線が集中して少年は顔をひきつらせる。
「……そうだな。説明をしていなかったな」
額に大きな傷がある男がスッと前に出てきた。
大人たちは全員ヤバそうとヨルは感じるのだけど、傷の男は中でも危険な雰囲気がある。
「俺はシノヤマだ。そして我々は暗天。新たな世界を切り拓く、偉大なる開拓者だ」
子供たち全体に向け、傷の男は自分たちの正体を明かした。
「暗天……なんだか聞いたこともある気がするな」
人に生まれ変わってからではなく、悪魔の時にそんな名前を耳にしたことがあるような気がした。
「お前たちにはこれから……我らが暗天の刃となってもらう」
「暗天の刃……?」
「そうだ。時代を切り拓くにはあまりも邪魔が多い。そのために争いは必要だ。そして、戦うための刃が必要なのだ。これからお前たちには争い合い……強くなってもらう」
シノヤマの体から魔力が溢れ出す。
殺気混じりの魔力はまるで上から押し付けるような圧力となり、ヨルは強い耳鳴りのようなものを感じていた。
「争いに敗れたものは死。生き残りたければ強くなれ。他人を蹴落とせ、横のやつを殺せ。鋭い刃になることこそがお前らに残された唯一の道だ!」
シノヤマは凶悪な笑みを浮かべる。
まるで悪魔の世界のよう。
急にとんでもないところに放り込まれたなとヨルは思った。
「もうすぐ夜が明ける。強くなってもらうためにはちゃんと食べないとな」
シノヤマは空を見上げる。
白かった空はだいぶ明るくなってきていた。
「この後ろに道と山が見えるな?」
砂浜からは道が伸びていて、その先には山がある。
「山の頂上には旗が立ててある。旗を持ってきた奴にはメシをくれてやる」
何が何だか。
説明してやると言いながらも、まともな説明など一つもない。
そんなことを思っていたら冷たい目をしていた子供達が走り出した。
「ほら、遅れるぞ」
「……チッ」
シノヤマたちにいいようにコントロールされている。
そのことに苛立ちを覚えながらもヨルも走り出した。
争いに敗れたものは死ぬと言っていた。
朝食をかけたかけっこで殺されるなんて悪魔にも笑われそうな死に方などゴメン被る。
ヨルが走り出したのを見て、他の子供たちも走り出す。
「さあ……暗き天が世界を覆わんことを願って」
走り去る子供たちの背中を眺め、シノヤマは手で他の大人たちに指示を出す。
頷いた大人たちも子供の後を追いかけていく。
「力はできるだけ温存した方がいいな」
ヨルは比較的すぐに走り出したので、冷たい目をした子供たちの最後尾に追いつきつつあった。
これから何が起こるかも分からない。
時間停止は大きな力であるが、連続して使えないし使用回数にも制限がある。
日常の生活の中ならともかく、こんな極限の状態では切り札は持っておくに越したことがない。
「ガキにあそこ登れって……? 暗天ってのは悪魔かもな」
目の前に見える山は意外と高い。
走っているうちに道の傾斜も少しずつ増していくのを感じていて、山の頂上まで走っていくのはかなり大変そう。
「……日頃から体鍛えておいて正解だったな」
人間の体はあまりにも非力だ。
悪魔だった頃に比べると、身に染みて弱さを感じる。
だから少しでもマシになればと日頃から体を鍛えている。
孤児院が貧乏ですることもないから暇だったという事情もあるが、そこらのガキには負けないつもりである。
「監視されてるな。ムカつく……」
道の左右は森になっている。
走っている他の子供たちは気にする余裕もないのか気づいていないが、大人たちが時々ヨルたちのことを監視するように見ていた。
その視線もまた腹が立つとヨルは思った。
「ふぅ……」
いつの間にかすっかり山登りになっていて、ペースを落とさぬヨルは先頭の集団の背中を捉えていた。
先頭の子供たちとなると、それなりに鍛えているようで体力もあるみたいだ。
ヨルも汗だくになっていて、煩わしそうに汗を拭う。
「そんな冷たく見ることないだろ」
少し速度を上げて先頭集団の真後ろについた。
するとチラリと振り返って子供たちはヨルを見て睨むような顔をした。
お友達になりたかったのに、なかなか難しそうである。




