6誘拐事件2
「うっ……」
腹が痛いと思いながらヨルは目を覚ました。
地面が揺れている。
走る車の中にいるのだということはすぐに気がついた。
ヨルは手を後ろで縛られていた。
寝転がったまま、薄目を開けて周りを確認する。
何かバンのような車の後ろにいて、他にも何人かヨルと同じくらいの年齢の子がいる。
「チッ……うるせえぞ!」
子供がすすり泣くような耳障りな声が聞こえていて、ヨルもうるさいと思っていた。
すると運転席の男が怒号を発して、他の子供たちはビクンと震えた。
必死にすすり泣きを抑えようとしているが、怒られたことでさらに怖くなって押し殺したすすり泣きにしかならず運転席の男は盛大に舌打ちする。
「何が起きてんだ……?」
変な男に気絶させられたことはヨルも覚えている。
しかし気絶していたので、そこからどうなったのか分からない。
「誘拐されたっぽいな……」
状況から推測することはできる。
手も縛られているし、誘拐されたのだろうということは理解できる。
「俺なんかさらってどうするつもりだ?」
たださらわれた理由が分からない。
ヨルは孤児だ。
当然ながら金なんて持っていない。
孤児院も貧乏なので金なんてあるはずもなく、誘拐するような理由はなかった。
他のガキも数人いるが、裕福そうに見えるのは一人か二人。
どういう意図で誘拐したのか理解不能だった。
「それにまとめてさらうのか?」
こういう誘拐は一人ずつ丁寧に進めるものだろうとヨルは思った。
雑多に複数人誘拐するなんてあまりにもリスキーすぎる。
「……止まった?」
走り続けていた車が止まった。
運転手の男が降りて、どこかに行った。
「おい、お前ら状況は分かってるのか?」
ヨルは気絶していた。
他の子は起きていたので、何か分かることがあるかもしれない。
「わ、分かんない……家にいたら急に奴らがきて……」
「私は犬のお散歩中に……」
他の子も誘拐もされたらしいということは分かった。
「チッ……何で俺だけブン殴られたんだよ」
一つ言えるのは、殴って気絶させられたのはヨルだけのようだった。
あの目つきの悪い男の顔が頭に浮かぶ。
もう少しでも魔力があったならぶん殴ってボコボコにしてやると苛立ちを覚える。
「おいガキども起きろ!」
突然バンの後ろが開いた。
外はまだ暗い時間だ。
「波音……? 海?」
ここがどこなのか、ヒントを得ようとヨルは五感を研ぎ澄ます。
波音のようなものが聞こえる。
開け放たれたドアから香るのは潮のニオイである。
「早く降りろ!」
ただどこなのかと考える前に運転手の男が子供たちを脅して車から降ろす。
「港か」
他の子供たちはビクビクとしながら言う通りにしている。
ヨルもこれ以上殴られるのは嫌なのでとりあえず言うことに従っておく。
降りてみるとそこは港だった。
桟橋にボートが並んでいて、他に人気はない。
「ついてこい。逃げようとなんてするなよ」
運転手の男は荒々しくバンのドアを閉める。
腰に剣を差していて、わざとらしく子供たちに剣を見せる。
もう少しぐらい車を労ってやらないのかと、ヨルはこっそりため息を漏らす。
そのまま運転手の男についていくと、一隻のボートの前に数人の武装した男たちが待っていた。
その中にはヨルのことを殴って誘拐した目つきの悪い男もいる。
ヨルが睨みつけると、目つきの悪い男は鼻で笑って返してきた。
「ボートに乗り込め」
ボートに乗れ、というが車と違って海に出るなんてどこに連れて行かれるのか、より分からないところがある。
子供たちは流石にボートに乗ることをためらってしまう。
「早く乗れ!」
「おおっと……容赦なしだな」
子供たちが動かないとみるや、運転手の男は近くにいた女の子を殴りつけた。
女子供でも容赦なし。
悪魔的観点からすれば素晴らしい気質だが、他の子供たちはすっかり怯えてしまった。
「はぁ……」
このままじゃ全員殴られるかもしれない。
残虐性は別に構わないけれど、他者に向けるからいいのであって今向けられたいものじゃなかった。
ヨルはスッと前に出てボートに乗り込む。
「……お前らも乗れ!」
乗らなきゃ殴られるし、一人乗れば他の子供たちも慌ててボートに乗り込む。
殴られた女の子も乱雑にボートに放り込まれ、運転手の男や他の連中もボートに乗り込み、そして港を離れていく。
他の子供たちは不安そう。
海になんて出たらどこに連れて行かれるのか選択肢は広がる。
「僕たち……どうなっちゃうのかな……?」
「知らね。あいつらに聞いてみろよ」
男たちの目的はいまだに分からない。
殺さないで誘拐したってことは身代金目的かと考えていたのだけど、なんだかそんな雰囲気でもない。
流れに身を任せるしかない。
ヨルは揺れる船の上、ゴロンと寝転がる。
「図太いガキだな」
「泣き喚く方がお好みか?」
「いや、大人しい方が好きだ」
「じゃあ好きじゃなさそうだな」
目つきの悪い男がヨルのことを愉快そうに口の端をわずかに上げる。
大人しい方が好きというが、今は大人しくしてやってるだけでずっと従ってやるつもりはない。
大人しいのが好きなら、ヨルのことはきっと嫌いだ。
「……夜が明けてきたな」
仰向けになると空が白んできた。
夜が明け、太陽が登り始めたのだ。
「島が見えてきました」
「ふっ……こいつらは生き残れるかな?」
船はとある島に向かっていた。
ちょうど日が登る方向にあるその島に何が待ち受けるのか。
碌でもなさそうだな、とヨルは目つきの悪い男の顔を見ながら感じたのだった。




