51孤独な戦い4
「無駄だよ」
アリはギチギチと音を立てて抵抗を見せるが、足が半分しかないのだから軽く体をよじることしかできない。
だんだんとアリの抵抗が弱くなり、そのまま命はバングルに食い尽くされて死んだ。
「これじゃ足りなさそうだな」
バングル全体が淡く光を放っている。
しかし死にかけのアリ一匹ではバングルを使えるようなエネルギーにならない。
「……チッ、意外と不便だな」
ヨルは舌打ちするも、よくよく考えればおかしくもない。
寿命、つまりは生命のエネルギーはそれぞれのものが持っている大事なものである。
自ら悪魔に捧げるならともかく、無理やり奪うのは簡単なことじゃない。
つまり相手の寿命たる生命のエネルギーを奪うためには、相手を弱らせねばならないということになる。
仕方ないとはいえ、ちょっと面倒になった。
「まあいい。ここにはエサがたっぷりありそうだからな」
カサカサとした音が近づいてくる。
テリトリーに脅威が侵入してきたとアリが気づいたようだ。
「たくさん食わせてやるからな」
ーーーーー
ヨルはバングルを左手に付け替えた。
右手には剣を持つので、生命力を吸収しながらだと不便だったのだ。
直接手で触れずとも一応剣を通じて、生命力を吸収することはできる。
ただ若干効率は落ちてしまうので、バングルをつけた左手で触れた方が早くて効率が良い。
「チッ! 汚ねえな」
ヨルはアリの頭に突き刺した手を抜いて、付着した体液をわずらわしそうに払う。
そこらにはアリの死体が転がっている。
ヨルによって弱らせられ、バングルに残りの命を吸い取られたアリはピクリとも動かない。
「ようやく一回分……てところかな?」
ヨルは命を吸い取って薄く光るバングルを見つめる。
どれほど吸い取ったのか目に見えるわけではないが、一回ぐらいなら使えそうという感覚がある。
試してみたいところだけど、散々アリを踏み潰してようやく一回分ということを考えると勿体無い気もする。
「だが……確かめたいな」
クイーンが今どうなっているのか、ヨルは気になっていた。
時間の回帰もタダじゃない。
クイーンは自分を犠牲にしてヨルとレオナを回帰させた。
時間が戻ったのならクイーンも戻っているはずなのだけど、正直言って確実にそうなったと言える自信はない。
バングルを使えばクイーンの力を借りることができる。
無事使えたならクイーンも無事であるといえる。
「…………まあ、もう少し取っておくか」
切り札は多い方がいい。
ひとまずバングルの力を使うのは後回しにすることにした。
「それに……歓迎は続いてるからな」
カサカサと音がする。
アリどもはどれほどやられようとも学習しないらしい。
「……ん? ちょっと赤くなったか?」
ここまで出てきたのは黒いアリだった。
それに比べるとうっすら赤い。
ここに入る時に見た討伐対象のアリかと思ったけれど、それにしては赤みが薄くて黒に近い。
それに写真の赤アリはもっと顎が発達していたが、目の前の半端な赤アリは顎も中途半端。
「まあ、雑魚の奴らの中でも強いやつ……なのかな?」
狙いのアリではないが、これまでの黒アリとは違う。
強めの雑魚ということなのだろうとヨルは解釈した。
「何だろうと関係ない。お前らも……クイーンに捧げてやるよ!」
ヨルは走り出す。
高く飛び上がると天井近くで一回転し、剣を振り下ろしながら赤アリの頭に乗る。
アリの脳天に剣がブッ刺さり、赤アリは大きく体を揺らす。
ヨルは刺した剣を支えにして、振り払おうとする赤アリに抵抗してバングルの力を発動させて生命力を吸収する。
バングルが淡く光り、赤アリは命が奪われていく感覚に恐怖するように激しく抵抗を見せる。
「無駄だよ」
抵抗虚しく、赤アリの動きは鈍くなっていく。
他にも赤アリがいて、最後まで吸い尽くしてやるのは面倒になってきた。
「楽にしてやるか」
ヨルはため息混じりに呟くと、剣を頭から抜いて赤アリの首を斬り落とす。
「好調好調」
ヨルはそのまま赤アリを倒し、生命力を奪う。
まとめて出てくる割には特に連携を取るわけでもなく、攻撃だって小さい顎で挟んでこようとするぐらいのものだけ。
「良いおもちゃ……だな」
ヨルは赤アリの体をバラバラに切り裂いてニヤリと笑う。
これだけアリがいるならバングルに二回分の生命力をチャージできるかもしれない。
「おっと……」
もうちょっとぐらい倒したら一度引き返して休憩しようか。
そんなことを考えているこれまでのアリよりも赤くて、大きな奴が出てきた。
「お前が……狙いか」
写真と同じ真っ赤な体をしていて、クワガタみたいな顎をしている。
討伐対象のうちの一匹がヨルの目の前に出てきてしまった。
「……まあいいか」
どうしようかな、ほんの少しだけ迷った。
けれどもヨルはボスアリを倒してしまうことにした。
「後でやろうと、今やろうと同じ……なら今のうちにぶっ潰しておくか」
引っ込んでおけばよかったものを、と思いながらヨルは顎を打ち鳴らすボスアリに斬撃を飛ばす。
軽く様子見の一撃。
「まあ、雑魚とは違うか」
普通のアリだったら頭がかち割られていた斬撃を、ボスアリは顎を振り上げて打ち消してしまった。
それを見てボスアリが少しはまともな敵なのだとヨルはは思わず口の端を上げる。




