49孤独な戦い2
「まあ俺には関係ないがな」
孤独な悪魔だった時代もある。
最大でも半年の孤独など屁でもない。
「フルで入るつもりもないしな」
あまり時間をかけるとレオナがどうするか分からないというところもあるが、試験を合格するつもりは当然ある。
試験を合格したなら出ることになるし、半年待たずに出ることになるだろう。
「まあ、ちょうどよかったな」
ヨルは手首のバングルを見る。
クイーンのバングルの力を試すのに周りの目がなく、かつモンスターが相手である環境はうってつけだった。
「さてと……」
ヨルはスッと手を伸ばす。
すると空間が歪んで手が飲み込まれていく。
横から見るとヨルの腕が途中で無くなってしまっているかのようにも見える。
「こりゃ便利」
ヨルが腕を引き抜くと、手にはお菓子が握られていた。
試験をクリアしていくと少しずつ待遇が良くなってきた。
第三段階を早めに合格した子たちにはお菓子とジュースなんてものまで与えられたのだ。
「デカくて不便だったけど、こうなりゃなんも関係ないからな」
しかしお菓子を第四段階に持ち込むことなんて許されていない。
それでもヨルはお菓子を持ち込んだ。
「腹パンパンになったけど良いもん食えてよかった」
ヨルがお菓子を取り出したのは、インベントリ、マジックボックスなどと呼ばれるスキルからだった。
亜空間に物を保管しておける能力で、便利なスキルを考えた時に誰かは名前を出すだろうものである。
急にそんなスキルがヨルに芽生えたわけじゃない。
これは宝物庫で得られたスキルだ。
二つと言われていたが、ヨルは三つ目のアーティファクトを持ち出していた。
手に持ってなんて方法ではなく、ヨルはアーティファクトを食べて持ち出したのだ。
喰らって持ち出したのが、この亜空間のアーティファクトであった。
宝物庫で見つけた時は両手で抱えるようなデカい箱だった。
中は亜空間が広がっていて、箱の見た目よりも多くのものが入るという説明があったものを、ヨルは喰らって自分のものにしたのである。
「まあ、あんなデカいもん持ち出したとは誰も思わないだろうな」
次にジュースを取り出す。
亜空間の箱を食らったのは便利そうだったから、という理由もあるが、かなりでかいものだったので食って持ち出せば逆にバレないと考えたのだった。
結果的に亜空間収納スキルを手に入れたヨルは、悠々とお菓子やジュースを口にしている。
「軽く体動かしたら、早速動くか」
ヨルは剣を抜く。
月影と名付けられた黒い刃の剣のことは割と気に入っている。
天井も高いので剣を振り回してもぶつかることはない。
「こんなことなら剣魔に習っとけばよかったかな」
悪魔を大きく分けると三種類いる。
大きな勢力は二つ。
魔法をよく使うものと身体的な能力に任せて暴れるものである。
そして最後の一つが武器や技術を用いる悪魔だった。
ヨルは魔法タイプになる。
ただちょっと武器を使うのではなく、武器をメインにした悪魔は非常に少ない。
ヨルも親しい悪魔の中にそんな悪魔はいなかったので、武器を軽く扱えてもマスターしているとまではいかなかった。
「……呼び出すのにはリスクが高いしな」
剣魔と呼ばれる悪魔がいた。
剣を使う悪魔で、身体的な能力はそれほど高くもないのに恐ろしく強かった。
身近に習えるような存在がいなかったので使ってこなかったが、魔法も身体能力も武器も何か一つではなく全部使えば高い効果を発揮する。
もうちょっと剣魔と戦うことでもあれば、動きを真似できたのかもしれないと剣を振る。
「ふぅ……」
軽く汗をかいてきたところでヨルは剣を振るのをやめた。
月影は手に馴染むようで、扱いやすい。
他にも剣を扱える人はいるだろうからチャンスはある。
剣以外でも武器を扱う達人がいるなら技を盗んでやるつもりだった。
「次はこいつのことを試すかな」
ヨルは剣を収めてバングルを触る。
バングルの力をヨルは無理矢理作り変えた。
今はヨルの力ではなく、他の生き物の生命力を必要とする存在になった。
どんなモンスターが試験で待ち構えているかは知らないが、バングルのエサになってくれると期待している。
「行くか」
離れた寂しさでレオナが受け取った下着の匂いを嗅いでいるとは知らないヨルは、部屋の奥のドアをゆっくりと開く。
部屋の奥には細い通路があった。
短い通路の奥にはまたドアが見えている。
「罠はなさそうだな」
何もない無機質な通路はヨルに警戒心を抱かせた。
トラップでもありそうに感じるが、軽く様子を窺う感じではとくになにかがありそうでもなかった。
ゆっくりと通路を歩いていく。
特に罠もなく次のドアの前までやってくることができた。
「ここから選ぶのか」
ドアの先は広めの部屋になっていた。
複数のドアがある。
ヨルが出てきた側にいくつか普通のドアが並び、対面する側には三つの大きめの扉がある。
大きく数字が書かれた扉の上にはモンスターを倒せとも書いてあった。
「他の奴らの部屋も繋がってるのか」
横のドアはヨルと同じく試験に挑む子供たちの部屋に繋がっているのだろうと思った。
「……無理か」
ふと悪い考えが頭をもたげた。
他のやつを潰せばこれから先も楽になるんじゃないかとドアに手をかけたけれど、開かなかった。
どうやら自分から襲いに行くことは出来なさそうだ。




