47悪魔の遺物
「はぁ、流石に疲れたな」
宝物庫から戻ってきたヨルはベッドに寝転がる。
試験はあまり疲れはしなかったが、宝物庫の方はかなり疲れた。
「それ、なんなの?」
レオナはヨルの隣に飛び込み、ヨルは腕を持ち上げてバングルを見つめる。
宝物庫ではヨルもヘロヘロしていたので、レオナもバングルのことを聞かなかった。
なぜわざわざ命の危険を冒してまでバングルを取りに行ったのか、謎であった。
「見てみろ」
ヨルがバングルに魔力を込めると模様が光る。
「……これって……!」
レオナはバングルの模様を見て驚いたように目を見開く。
「デモンコード……悪魔が使う、魔法のための言葉」
ヨルが横を向くとすぐそばにレオナの顔がある。
間近で見つめ合う。
「しかもこれは、クイーンのだ」
魔法を使う時に魔法陣という補助を用いることがある。
それに似たようなもので、悪魔にはデモンコードという魔法を使うための言語がある。
この世界における悪魔の召喚なんかにも使われるもので、バングルにはその悪魔の言葉が刻んであった。
さらにはバングルに悪魔の言葉を刻んでいるのは、回帰前ヨルとレオナを拾ってくれた悪魔のクイーンだったのだ。
なぜヨルがバングルに惹かれたのか。
無意識のうちにクイーンの力を感じていたのだ。
「……クイーンの。それにはどんな効果があるの?」
「クイーンの力を引き出すことができる。ただし代償はあるけどな」
「クイーンの力だものね。何が代償なの?」
「寿命、それに精神だ」
ヨルが得たバングルは説明書きには、呪いの魔道具として記載がされていた。
強い力を得られる代わりに精神がおかしくなり、最終的には衰弱して死んでいくという代物だった。
しかし実際は裏に悪魔がいる。
悪魔の力を引き出す代わりに、寿命を奪われて精神を汚染されるというのが本当の効果なのである。
「どうするの、それ?」
使うと寿命を奪われる。
悪魔の時なら寿命なんてものないに等しかったから気にすることもないが、今は人間の体、つまりは寿命がある。
ヨルが早く死んじゃうのは嫌だなとレオナはちょっと顔を近づける。
「書き換える」
ヨルは笑った。
もちろん寿命なんてくれてやるつもりはない。
だが使わないのも勿体無い。
「お前はあんまりデモンコード得意じゃなかったかもしれないけれど、俺はこういうのも得意なんだ」
強くなるためにはなんでもした。
あまり真剣に学ぶようなものではないデモンコードだってマスターしたのである。
他の悪魔に笑われようとも、使える武器は一つでも多く持っておいたことが今役立つ。
「無条件で力を使うときっとクイーンが怒る。今はまだ……クイーンを説得できるだけの力がない。だから少し歪めてやろう。俺じゃない奴の寿命を奪い取ってしまえるように、な」
ヨルは指先に魔力を込めてバングルに触れる。
するとバングルが鳴くような音を立てる。
机を引っ掻いたような甲高い音に、同室のロウキは不快そうな顔をして、コウヤやタクマもヨルたちの方を見る。
バングルに刻まれた文字が変化していく。
「ついでに吸収した寿命は溜め込んでおけるように……」
バングルの鳴きが強くなる。
「うるさい!」
ロウキはあまりの音に枕を頭に被せて耳を塞ぐ。
「よし、これで完成だ」
他の人が見ても何も分からないだろう。
しかしバングルの力は確実に変化した。
もしかしたらクイーンにもバレているかもしれない。
ただクイーンはこんなことで乗り出してくるようなこともない。
「これで俺の寿命は吸い取られない。どうだ?」
「んー、ステキ」
バングルを加工する真剣な眼差しがとても良かった。
レオナはトロンとした目でヨルのことを見つめていた。
「あのバカップル……何してんだよ?」
「知りません……何をしていようと、俺は気にしないだけです」
「良い子ちゃんにしてんな。すっかりあいつの犬に成り下がってさ」
「この判断が間違ってるとは思いませんからね。今もきっと、俺たちには想像もつかないことをしているんですよ」
「ただベッドでいちゃついてるだけだろう」
ようやく音が止んだ。
側から見たらヨルとレオナがベッドでイチャイチャしているようにしか見えず、ロウキは呆れた顔をして横になる。
「なんなんだよ、アイツ……」
よく分からない力を持っている。
自分も大概同年代の子供なんかより精神的に冷酷ではあると思うけれど、時にヨルが見せる顔には敵わないと思わされる時がある。
だから余計にロウキはイライラとする。
またもう一つ、ヨルが先に進んでしまったような気がしていたのだった。




