45宝物庫もまた試練4
「大丈夫?」
「ああ、そろそろ限界かもな」
もう一つ下に降りる階段の前までやってきた。
レオナもその綺麗な顔をしかめているが、まだもう少し余裕がありそう。
ヨルの方はだいぶ苦しくなってきている。
「一体何が俺たちを攻撃してるんだ?」
不調を引き起こしている原因が分からない。
全身に魔力を巡らせても楽にような様子すらなく、対抗する術が思いつかない。
「私も分からないわ……」
何をされているのか、レオナも知らない。
「何かがあるはずなんだ」
ただ耐えるだけじゃなく、対抗する方法があるはずだとヨルは考える。
こんなふうに防ぎようもなく全ての人を不調にする攻撃など都合が良すぎる。
「……耳に聞こえる音に惑わされるな」
「えっ?」
ヨルはふとトウジンの言葉を思い出す。
耳のそばで聞こえる不思議な伝言のことを言っているのかと思ったが、もしかしたら違ったのかもしれない。
今もひどく耳鳴りがしていて、レオナの声も聞きにくい。
「……耳鳴り、音、か」
宝物庫に入った時から耳鳴りのような音がしていた。
何かの攻撃による不調が引き起こすものだと思っていたけれど、逆だったのかもしれないと考えた。
「……ふっ、宝物庫の試験の正体みたり」
ヨルは耳に魔力を集めた。
そしてニヤリと笑う。
「なに?」
「音だ」
ヨルは耳を指差す。
「音が俺たちを攻撃してるんだよ」
「音が……?」
耳鳴りだけでなく全身がチクチクとしたような感覚に襲われている。
どこからか発せられている音の振動が体にダメージを与えているのだ。
「原理は知らないが、音に魔力を乗せてる。奥に進むに連れて魔力が強くなり……耐えられないと体に不調をきたすみたいだな」
「あっ……少し楽になった」
耳を魔力で覆うと体全体の不調が楽になる。
ただ音を遮断しているわけではないし、おそらく体からも音は浸透している。
全部を防ぎ切るのは難しい。
ヨルは耳を中心にしながら体も魔力で覆い、音に対抗する。
「とりあえずこれなら次には行けそうだ」
ヨルとレオナはもう一つ階段を降りていく。
「くっ……かなりキツイな……」
耳鳴りが反響したように聞こえてきてヨルは顔をしかめる。
「うぅ……」
レオナもかなりキツそうにしている。
「ここらで探すか……」
先に進みすぎるとアーティファクトの説明文すら読めなくなりそう。
奥に進むことは諦めて、手前でアーティファクトを探すことにした。
「あまり長いこと持たないな……」
耳を保護する魔力が削られている。
音の攻撃によってヨルの魔力はどんどんと減っていっていて、悠長にアーティファクトを眺めている暇もなさそうだった。
「こういうのもいいな」
壁には剣がかけられている。
一般人として過ごしてきたヨルにはもちろん自分の武器などない。
しかし暗天の子供の中には親から武器を与えられている子もいるそうだった。
支給される平凡な武器よりも良い武器の方が強いのは当然のことだ。
武器というのもヨルにとっては大きな選択肢になる。
「月影……」
黒い鞘に収められた剣の名前は月影というらしい。
いいじゃないか、とヨルは思った。
夜に月影。
なんとも雅である。
風流を解する気持ちなんて微塵もないが、カッコ良さには惹かれるところがある。
長々悩んでいられない。
こんな時は巡り合わせも大事だとヨルは月影を手に取った。
「へぇ、いいじゃん」
軽く抜いてみると黒い刃が見えて、思わずニヤリとしてしまう。
これなら刃に血がついても目立たなさそう。
「もう一個……なんだ?」
一つは決まった。
次に何にしようとかと思っていたら、ふと何かの気配を感じた。
宝物庫のもう少し先に何かがあると本能が言っている。
「ヨル?」
「行かなきゃ行けない」
今本能を無視すると後悔する。
そんな気がしてヨルは宝物庫の先に歩みを進める。
「くっ……」
耳鳴りが酷くなって、視界が歪む。
頭の中が何かで締め付けられて激しく痛んで、帰れと言われているような感覚が襲いくる。
それでもヨルは突き進む。
鼻からドロリと血が流れるも、ヨルはもはやそれにも気づけない。
「これは……」
ヨルは宝物庫の真ん中付近までやってきた。
そこにあるのはバングルだった。
金属で作られ、表面には何かの模様が刻んである。
「確かめるのは……後だ」
限界を超えている。
ヨルの目から血が流れて、気を抜くと死んでしまいそうだ。
とりあえずバングルを掴んで、早足で宝物庫を戻る。
「ハァッ! ……ハァッ……」
「ヨル! 大丈夫!」
「平気だ」
これで二つ。
これ以上はもう魔力もないので、ヨルは宝物庫を出ることにしたのだった。
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「相当無茶したようだな」
やはりタクマが一番早く、続いてコウヤとロウキ、最後にヨルとレオナが宝物庫から出てきた。
ヨルの疲弊具合を見てトウジンは目を細めて笑う。
楽な段階でアーティファクトを探すとは思っていなかったが、自分を限界ギリギリまで追い込んで宝物庫を探索したことは見ればわかった。
「何を持ってきたのか、確認させていただきます」
宝物庫を守る男がヨルの前に立つ。
「剣と……これだよ」
ヨルは手に持った剣と腕に身につけたバングルを見せた。
「…………失礼します」
宝物庫を守る男はバングルを見て、ほんの一瞬眉をひそめた。
しかし何もいうことなく、今度はヨルのボディーチェックを始めた。
宝物庫を守る男の魔力が体に流れ込んでくる。
ただ触るだけじゃなくて、何か別の方法でも確かめていることをヨルは感じていた。




