40小隊戦13
「……騙されるな! こっちは九人だぞ!」
それぞれが腹に色々な思惑を抱えている中で、18組のリーダーの子は冷静に状況をコントロールしようとする。
「今相手は四人しかいないし、全員でかかれば倒せる! 旗を奪われても奪い返せばいいんだよ!」
「じゃあお前が前に立って戦うのか?」
ほんの少し、またまとまりかけてきた。
だからヨルはまた突っつく。
「そこにあるのはお前らの旗だろ? じゃあ積極的にお前らが前に立って戦わなきゃな? まさか、34組を盾にはしないよな?」
みんな分かっているはずだ。
たとえ九人いて人数優位でも全員無事で戦いを終えることが難しいということを。
全員無傷ならいいが、負傷者がどちらかの組に偏ってしまうこともあり得る。
そうなった時にもまだ互いに手を出さない協定は守られるのだろうか。
たとえ九人で戦うとしても怪我したい奴はいない。
自分の組の被害が少ない方がいいに決まっているのは当然で、お互いに前に出て欲しいと思うのも普通の考えである。
今は18組の旗を守り、34組の旗を危険に晒して睨み合いをしている。
34組としては自分たちの旗を守りにいきたいところであり、18組には積極的に動いてほしい。
「俺たちは四人でもお前ら九人を倒す自信がある。18組の旗渡せば……俺たちはお前らに手を出さないと約束してやるよ」
「あいつ……!」
ヨルの弄ぶような笑みに18組のリーダーは怒りを覚える。
「約束を守る保証はどこにあるの!」
34組のリーダーは女の子らしい。
初めてヨルに返事を投げかけてきた。
18組のリーダーは34組の心変わりを感じて顔をしかめ、レオナは女の子が対応することに睨むような目をしている。
「保証? そんなもんないよ」
「じゃあどうやって信じろっていうのよ!」
「なんで俺たちを信じる必要がある? 信じるのはお前たち自身だろ」
何を言ったって口約束にしかならない。
だから今18組と34組は分裂し始めている。
ヨルだって自分の言葉を保証してやれるものなんか、何もないのだ。
「信じるのは自分の選択だ。俺を信じる自分を信じるしかないんだよ。だが……何を信じるのか選択を誤ればお前たちは全滅する」
「……あんな奴の言葉を信じるな! 俺たちと一緒にあいつらを倒せば……なっ!」
「これで……残り三人ね」
「良い選択だ」
女の子は近くにいた18組の子の頭を木剣で殴り飛ばした。
そこそこ容赦のない一撃で殴られて、糸が切れた人形のように崩れて倒れた。
「こいつらを倒すわよ!」
34組はどうやらヨルのことを信じるらしい。
「……あっちが勝ったら本当に助けてあげるつもり?」
「俺は契約を守る悪魔だぞ? こんな小さな約束だって守るさ」
レオナは女の子に手を出さないというヨルの判断にすごく不快そう。
ただヨルは本当に自分たちで手を出すつもりはなかった。
「くそっ……裏切り者め!」
三人対五人。
数の有利はだいぶ大きい。
34組が半分奇襲するような形にもなったし、18組は大いに不利だった。
しかし18組のリーダーの子もタダじゃやられない。
多少はやるようで、34組の子の一人を倒した。
「ヨル……!」
「ふぅん、ここで動くか」
残るは18組のリーダー一人。
対して34組は四人残っている、という状況。
このままいけば34組が順当に勝つだろうと思われたのだけど、イレギュラーが発生した。
なんとサルが飛び出してきた。
「あれは……ウチの旗!」
手には旗を一本持っている。
34組の旗だった。
ここで睨み合っている間にサルは34組の拠点に行って旗を奪ってきたらしい。
「……あれを取り戻すのよ! な、邪魔をしないでよ!」
「はっ……お前らだけ行かせるかよ!」
もはや完全に敵対してしまっている。
34組はサルに向かおうとしたのだけど、18組のリーダーはその隙を狙ってさらに一人倒す。
もはやこうなれば道連れ目的。
裏切りの代償である。
「コウヤ、旗持ってこい」
「はい」
ヨルはコウヤに指示を出し、ロウキには戻ってくるように手招きする。
コウヤが走り出して拠点に向かう。
壁を蹴って一気に旗のところまで飛んでいき、18組の旗を地面から抜き取る。
「グフっ!」
一方で18組、34組、サルで混戦が起こる。
相変わらず武術的なものを感じさせる動きでサルは34組の一人を蹴り上げる。
「これでお前らも脱落だな!」
18組のリーダーはサルではなく34組のリーダーを狙う。
人間の醜さが現れていて、非常に美しいとヨルは目を細めていた。
「こちらを」
「ご苦労さん」
戻ってきたコウヤが旗をヨルに差し出す。
ヨルは旗を受け取ると、またタクマに持たせる。
流石に旗も三本になると結構な荷物であったが、誰もタクマを助けて旗を持つことなんてしない。
「この……あっちを狙いなさいよ!」
34組のリーダーがヨルたちの方を指差す。
サルの目的は旗であるから、もう旗を持たない18組も34組も戦う理由はなくなっていた。
「…………」
「じゃあ、あれも奪うぞ。あいつらには手を出さないと約束したが、サルが持ってる旗は別だからな」
約束は果たす。
34組の奴らに手を出すことはない。
けれどもサルは別だ。
そしてサルが持ってる旗もまた別である。
「タクマ、それ奪われるなよ?」
「が、頑張ります!」
サルがヨルたちの方を向いて咆哮する。
空には状況を映し出すためのドローンが集まってきていた。
18組でも34組でもなくモンスターのサルが第三段階の試験における、ヨルたちの最大の敵として立ちはだかるのだった。




