4あくまでも、元悪魔です3
「うわああああっ!」
カエルの舌が迫ってきて、タケオは丸くなるようにして悲鳴を上げる。
「ははっ! こんなもんただのオモチャだな!」
受け取ったアーティファクトはペンの形をしていた。
戦いに有用な力を持つものではなく、アーティファクトがあったところで一般人がモンスターと戦うのは辛い。
だが、ヨルは笑ってペンを振り下ろした。
ギュッと握られたペン先は伸ばされたカエルの舌先に突き刺さった。
「さっさと立って逃げろ! しがみつかれてると邪魔なんだよ!」
「うぇあ、ああ!」
カエルが驚いて舌を戻す。
その隙にヨルはタケオの襟を掴んで無理やりたたせた。
「今度は転ぶなよ? まっ、それなりに鋭い形で助かったよ」
タケオが逃げていく。
次転んでカエルに狙われたら助けてやんねえと思ったが、足音は順調に遠ざかる。
ヨルはクルクルとペンを回す。
綺麗なペン回しをしながらカエルと睨み合う。
「魔力で武器作れりゃ良かったんだけど……まだそこまでいかなくてな」
教室でアーティファクトを要求した時とは、欲しい理由がちょっと違うのだ。
「オモチャも魔力込めりゃ一応武器だ」
ヨルは元悪魔だからだろうか。
普通の人と違って小さい頃から魔力があった。
悪魔の頃に比べれば微々たるもので、まともな量でもなかったけれどもそれでも魔力は魔力。
ただ肉体を強化するのにも、攻撃をするのにも全然足りない。
だから魔力を込めて使える武器が欲しかった。
ただのペンじゃ魔力に耐えられない。
アーティファクトなら魔力に耐えられるので、カエルと戦う武器にできる。
みみっちいペンだとしても、魔力を込めればなんとか相手をぶっ刺すぐらいのことは可能だ。
「来いよ。学校の先生が言ってたぜ。ペンは剣よりも強しってな」
馬鹿野郎。
剣の方がいいに決まっているだろ、とはヨルも思う。
地面を蹴って走り出したヨルは伸ばされる舌をかわす。
「全身穴だらけにしてやるよ」
ヨルはペンを握りしめた手を振り下ろす。
ペン先がカエルのややぬるりとした皮膚を突き破り、小さな穴を空ける。
ペン先を滑らせそうなぬめりがあるけれど、魔力をまとったペンはぬめりを貫通して皮膚に突き刺さる。
カエルは小さくとも鋭い痛みを感じて、身をよじらせる。
「はははっ!」
笑いながらカエルを突き刺していく。
舌を伸ばす速度はそれなりだが、カエルそのものの動きは鈍い。
「三秒……」
カエルの目に突然いくつもの穴が空く。
急に何回も目を刺された激痛に、カエルは奇妙な叫び声を上げた。
いつ刺されたのか、カエルには全く分からなかった。
「三秒だけ、俺は時を止められるんだ」
ヨルはペンの持ち方を変え、突き出すようにして刺した。
潰した目の側に回り込むようにして動き続けるので、カエルは全くヨルの動きに対応できていない。
人に生まれ変わり、ヨルは不思議な力を手に入れた。
時を止めることができるようになったのだ。
たった三秒、それも意外と制限はあるのだけど、それでも時を止められる力なんて規格外のものだった。
それは悪魔の時に持っていた力ではない。
思い当たる節はある。
ヨルはヨルビノシュであった時の最後に、懐中時計のアーティファクトをその身に取り込んだ。
それが今に影響を与えているんじゃないかと思った。
「へっ! 俺の前に現れたのが……運の尽きだったな」
穴だらけ、血だらけ。
カエルが大きくジャンプして下がるも、ヨルはすぐさま距離を詰めてアーティファクトを突き刺していく。
少しの手加減もない。
ただアーティファクトが小さいからトドメを刺さないだけで、カエルにとっては拷問のような時間でしかなかった。
ーーーーー
「子供が一人、他の子を逃がそうと戦っているようです!」
「早く向かうんだ!」
現場に駆けつけた覚醒者たちは顔を青くしてヨルを探していた。
他の子供たちが泣きながら訴えかけるには、タケオを助けようとヨルは一人残っていて、いまだにどこにいるのか分からないと聞いていた。
子供がモンスターに敵うはずがない。
もう助からないかもしれない。
そう思いながらも一縷の希望を捨てずに救出に向かっていた。
「あー……うん、あんま美味くねぇな」
「例の子供を発見! ……それにモンスター…………の、死体も……」
覚醒者たちが駆けつけた時、カエルは全身穴を空けられて出血死していた。
そしてヨルはカエルの上に座って、アーティファクトのペンをまるでお菓子かのように食べていたのであった。
何が起きたのか分からず覚醒者たちは呆然としてしまう。
「遅かったな。全部終わってるよ」
ヨルは覚醒者たちを冷たく一瞥するとカエルの上から飛び降りる。
「…………子供を無事、保護しました」
アーティファクトを噛み砕き、飲み込む。
質の悪いインクみたいな味。
こんなもの食べていたら頭が悪くなりそう。
『契約履行! 正式に代償を受け取りました!』
「あっ? 失敗したって俺のモンだよ」
ヨルの目の前に表示が浮かぶ。
それを見てヨルは顔をしかめる。
「そのうち来るとは思ってたが……俺もシステムの一部に組み込まれたってことか」
表示にツバを吐きかけたい気分だったが、人前だし我慢する。
そして、ヨルはそのまま覚醒者たちに保護されたのであった。




