3あくまでも、元悪魔です2
「……なぁんでゾロゾロとついてくるんだよ!」
ヨルが学校を出るとその後ろを他の生徒たちがついてきた
思い切り顔をしかめて、ヨルは振り返る。
「そりゃ、帰ろうぜって誘ったろ」
「まあ、お前はな」
最初に答えた少年は古谷健。
ヨルに帰ろうぜと声をかけていた子である。
ケンに関しては一緒に帰ることになっていたのでヨルも文句はない。
「途中まで一緒だしいいだろ? ゲート怖いし……」
「ね……ヨル君ならモンスター出てもなんとかしてくれそうだし」
他の子たちはなんとなくヨルについてきていた。
ゲートやモンスターは子供にとっても恐怖の対象であった。
ヨルはどんな時でも堂々としている。
自分で何かをしてなんとかするということに長けているとみんなが知っていた。
モンスターが出ても、ヨルと一緒ならなんとかなるかもしれない。
同級生たちのそんな期待がヨルにはあった。
「なんとかするわけあるかよ! 誰か囮にして逃げるよ」
「そんな卑怯なことダメだよ!」
「ちゃっかりついてきてるくせにそんなこと言ってんじゃねーよ!」
ついていている少年の中にはセイギもいるし、なんならタケオまでいた。
人についてくる集団の一員のくせに偉そうにされてもムカつくだけ。
ヨルだってみんなを守ってやるつもりはない。
自分の身を守るのに、一番鈍臭い奴より足が速ければそれで生き残れる。
他の奴らもヨルと一緒に帰ってみたかったからとか、場の流れとかそんな理由だ。
所詮小学生なんてそんなものだと、ヨルはため息をつく。
「チッ……さっさと帰るぞ!」
こうなったら早く帰るしかない。
盛大に舌打ちしてヨルが歩き出すと、みんなが後ろをついていく。
意図せず集団下校になって、見守りの大人たちが生暖かい目でヨルたちのことを見ていた。
別にこんなふうにガキと仲良しこよししたいわけじゃないのに、とヨルは内心でイライラしている。
ただ悪魔ってやつはやたらめったらに力を振りかざしてやればいいというものでもない。
強さを誇示するのは弱い悪魔のやることだ。
悪魔には悪魔の矜持がある。
「……我慢だ…………」
悪魔であることを忘れて行動なんてしない。
体は人間でも心は誇り高き悪魔なのである。
「だがモンスター現れたら誰か差し出してやるからな……」
生き延びるのに悪魔の矜持もプライドもない。
その時は真っ先に逃げてやるとヨルは歯を食いしばる。
「んでさ、タケオのやつ何して……」
ケンがヨルの隣に来て呑気に会話を始める。
ヨルの苛立ちなど、ケンには伝わっていなかった。
ただケンが話しかけ始めた瞬間、ヌッとヨルとケンの上に影が落ちた。
「危ねぇ!」
「ぐぇっ!?」
ヨルがケンの襟を掴んで後ろに跳ぶ。
「モ、モンスターだ!」
上から降ってきたそれを見て、誰かが悲鳴のように叫んだ。
ずんぐりむっくりとした巨大なカエルのようなモンスターが、突然ヨルたちの前に現れた。
「全員逃げろ!」
残って俺の代わりに食われろ、とはヨルも言わない。
弱肉強食の世界でも、全員生き残れるならそれがいい。
恐怖に体が動かず逃げることもままならなくならないように少しだけ背を押してやる。
自分の足が一番遅いなら、自分が食われてもしょうがないとはヨルも思っている。
変に成長した大人よりも子供の方が直感的に動く。
ヨルの声に弾かれるように小学生たちは走り出した。
「俺たちも逃げるぞ」
「あ、ああ!」
ヨルのおかげで命拾いしたケンも走り出す。
意外と動揺が少ない。
数少ないまともに絡んでくれる奴がちゃんとモンスターから逃げれるようで、ヨルも少し安心した。
もちろん、ヨルも逃げる。
「おー、ただのカエルじゃないか」
見た目は薄汚いカエルだが、人を丸呑みできるような大きさがある。
だがデロリと舌で顔を舐めるのに口を開けた瞬間、ただのデカいだけのカエルじゃないとすぐに分かる。
カエルの口の中には黒っぽい歯が並んでいる。
歯が生えたカエルなど普通の人なら嫌悪感を抱きそうなものだけど、元悪魔のヨルにとってはなんの感情を抱かせるにも足りない気持ち悪さだった。
「あっ!」
ギョロリとしたカエルの目がヨルたちを捉える。
誰かが狙われる。
そう思っていたら望まずとも囮になった一人が現れた。
足がもつれてタケオが転んだ。
普段から運動が苦手な奴だったので転んでも不思議ではない。
「た、助けて……!」
カエルが大きく口を開ける。
「ヨル、アーティファクトあげるから!」
カエルが舌を伸ばして、タケオを狙った。
「本当にくれるのか? ……ん」
『悪魔の契約
求めるはタケオを助ける
代償は短期記憶のアーティファクト』
カエルはタケオを捉えたと思っていた。
獲物にするには小さいが、それだけ逃げ足も鈍い。
自分の舌から逃げられないと余裕すら覚えていた。
しかし舌の先にはなんの感触もなかった。
タケオはいつの間にか戻ってきたヨルと共に舌先の少し横にいた。
「なんだこれ?」
空中に半透明な画面が浮いているようで、そこに文字が表示されている。
「……まさか、俺、覚醒したのか?」
ヨルは空中に浮かぶ不思議な表示を見て首を傾げる。
「ヨ、ヨル? アーティファクトやるから、助けてくれよ!」
カエルが舌を戻す。
タケオは泣きそうな顔をしてヨルにすがりついた。
「先払い」
ヨルはさっと手を出す。
「うぅ……分かったよ!」
タケオはポケットに手を突っ込み、ヨルの手にアーティファクトを叩きつけるようにして渡した。
「いいだろう。悪魔は契約を守る」
『契約が成立しました!』
ヨルは笑い、カエルは再び舌を伸ばす。




