37小隊戦10
「あのサルなかなかやるな」
人が死のうと最終的には旗さえ確保していればいい。
サルに一人やられて四人になったが、まだ人数の有利がある。
旗を取り戻さねば、と四人でサルに立ち向かっていた。
「……何か習ってんな?」
四人を相手にしてもサルは負けていない。
動きを見ると武術的なものの片鱗を感じる。
サルが旗を狙うのもそもそもおかしいが、野生のモンスターというわけではなさそう。
ゴールドラインウルフの時もそうだったけれど、暗天はいくつかモンスターを飼い慣らしているのかもしれない。
「他のところも動いたわね」
二人を残し、三人で出発したグループは自分のところが襲われたのではないかと疑う。
猿に襲われていない残る二つのグループはどこかがどこかを襲ったのだと考えた。
状況を知らない二つのグループからすると、二つのグループが争い合っていることになる。
一カ所は空、一カ所は争っているならリスクはあっても動くメリットが大きいようにも思えるのだろう。
二つのうちの一つが動く。
その間に三人組は拠点に戻る。
『な、なんだこれ……』
『何があったんだ?』
動いたグループがたまたま向かったのはサルに襲われたところだった。
移動している間に一グループが全滅した。
もうすでにサルの姿はなく、旗もない。
ただ倒れた子たちがいるだけで困惑するしかなかった。
「四つのグループに旗を狙うサル、か」
その後、いろいろな思惑の下にそれぞれのグループが動いて、一つのグループが旗を奪うことに成功した。
二時間が経って試験が終わり、旗を奪うことに成功したグループと旗を死守したグループが勝ち残った。
旗を奪われたグループは敗退で、旗をサルに奪われたグループも当然敗退である。
そもそも死んだら終わりなので敗退も何もないのだけれども、サルに旗を奪われるのもダメなことがハッキリした。
「しかし……なーんでなのかな……」
ヨルは次の試験を暇そうに眺めながら呟きを漏らす。
「どいつもこいつも……マヌケだな」
ーーーーー
「お前たちの拠点はここだ」
二つ目の組みはより保守的だった。
サルの力を知った子たちは互いに争うのではなく、他のグループに声をかけてまとまることを選んだ。
難色を示したグループもいたのだけど、他の三組が手を組むことにしたら仕方なく従うしかなかった。
サルの襲撃もあった。
けれども他のグループと協力して旗を守り切ったのである。
これも立派な戦略だけどヨルはつまらないと思ったし、見ていた大人たちもなんだか不満そうだった。
ただいち早く動いて他のグループをまとめ上げた奴はちょっとだけ注目だなとは思った。
そして次は三番目のヨルたちの出番である。
「……始まりだ」
ヨルを案内した暗天が時計を眺め、なんともあっけなく試験がスタートする。
「よし、さっさと武器選べ」
ヨルは並べられた木製の武器の前に立つ。
剣だろうと槍だろうとヨルは武器にこだわりがない。
どれでも扱える。
とりあえず扱いやすい剣を一本と何本かのナイフを手に取った。
「早く選べ」
「うるさい、命令するなよ」
ロウキはヨルに忠誠を誓ったわけじゃない。
ひとまずグループのリーダーとしては認めるが、あれこれと細かな命令に従うつもりはなかった。
ロウキは小型ナイフを中心に、レオナは剣、コウヤは拳のプロテクター、タクマは槍を選んだ。
「ほんじゃあ、いくぞ」
「えっ!?」
武器を選んだヨルはサッと自分たちの旗を抜き取った。
タクマは驚きに目を丸くする。
「は、旗取っちゃっていいですか?」
ここまでの戦いで自分で自分の旗を取った人はいなかった。
「俺はずっと謎だったんだ」
ヨルは長い旗を肩に担ぐ。
「旗を取られるな。旗を取れって言うけど、自分で持ち歩くな、なんて言われてないだろ? 旗は取れるんだ。自分で持ち歩いて守ったっていいだろ」
「…………確かに」
余計なことをセキイシは説明しない。
言わないことはやってはいけないのではなく、言わないルールは自分で想像するしかないのだ。
ここまでは旗取りというか、まるで陣地を守るようにみんな戦っていた。
だが打って出るためには旗を残していく不安が付きまとう。
ならば旗を持っていけばいい。
ヨルはそう考えていた。
拠点があって多少なりとも守りやすくなっていることとなんの説明もないことで、旗を持っていってはいけないような空気になっていた。
けれどもそんなことはないはずなのだ。
仮に戦力的に劣れば自分で旗を持っていくということになるだけ。
「目標は全滅だ。他の旗、全部奪うぞ。そう、全部、な」
「ははっ! お前、面白いな!」
言われてみれば、とロウキも思った。
守っているのは性に合わない。
旗を取りにいく方がよほど面白い。
「うぅ……」
「きっとついて行った方が安全だぞ」
ヨルの下にいる以上は楽なことなんてない。
タクマもそうは思っていたのだけど、開始数分で戦いに行くことになるとは思いもしなかった。
「ま、待ってくださいよぅ!」
ヨルはさっさと歩いて行き、タクマは一人出遅れた。
行くしかない、とため息を一つ置き去りにして、走って追いかける。




