32小隊戦5
「ぶっ殺してやる!」
「勝手に入ってきたのはそっちのくせに」
怒りに顔を赤くしたタカミヤは飛び上がる。
高く上げた足を一気に振り下ろし、ヨルは危険を感じて飛び退いてかわす。
かわされた蹴りはヨルが乗っていたベッドに直撃する。
しっかりしたベッドが真ん中からくの字に曲がってへし折れてしまう。
「ちょこまか逃げんじゃねえよ!」
「こんなもん食らってられるかよ」
タカミヤはそのままヨルに襲いかかる。
一撃一撃がタカミヤを殴り飛ばした時よりも凶悪な攻撃を回避していく。
表面上は余裕を取り繕っているが、タカミヤは素早くてギリギリの回避であった。
「威勢が良かったのは最初だけだな!」
「ぐっ!?」
タカミヤの繰り出した蹴りをかわしきれずに防御する。
太い金属の棒で殴られたような衝撃を腕に感じてヨルは顔をしかめる。
「これも受け切れるかな……?」
タカミヤの拳に込められた魔力がバチバチと音を立てる。
魔力を雷に変化させている。
「死ね!」
タカミヤがヨルを目掛けて真っ直ぐに拳を突き出す。
速度もまるで雷。
時間停止もまだ使えない。
とてもじゃないが今のヨルにはかわせないものだった。
「なっ……」
「チッ……切り札なのにな……」
しかしヨルにはまだもう一つ切り札があった。
タカミヤの攻撃はヨルの目の前で止まっている。
魔力で作られた薄い膜が雷纏う拳を防いでいるのだ。
「……お前、アーティファクトを持ってるな?」
タカミヤは攻撃を防いだものの正体を瞬時に見抜いた。
「正解……半分はな」
「ぐふっ!」
ヨルはニヤリと笑うとタカミヤのアゴを殴る。
タカミヤの攻撃を防いだシールドはヨルの力によるものだ。
以前孤島での争いに勝利してヨルはアーティファクトをもらった。
一日一度だけ攻撃を防いでくれるシールドを展開できる、という効果を持つものである。
指輪型のアーティファクトで携帯も簡単だったのだけど、ヨルはアーティファクトを食べていた。
盗まれる可能性なんかも否定できないし、ヨルの力はアーティファクトを喰らうことにある。
悪魔の時から持っている、ある種のスキルとも言えるアーティファクトイーターがヨルを悪魔の中でも成長著しい存在にしていたのだ。
シールドを展開する能力はすでにヨルのものとなっている。
まだ取り込んだだけであるので、アーティファクトと同じく一日に一度だけとなっている。
けれども細かい効果を教えてやるつもりはない。
また攻撃が防がれるかとせいぜい疑心暗鬼になればいい。
「スキルにしても、アーティファクトにしても、俺の攻撃を防ぐようなものが何回も使えるとは思えない」
タカミヤは両手に魔力を集め、先ほどよりも強い雷を発生させる。
「また防げるか、やってみようか?」
思ったほどタカミヤに動揺はない。
一度でダメなら二度三度と攻撃を仕掛けてくるつもりらしかった。
「……ちょっとまずいな」
奥の手のシールドはもう使えない。
今ヨルが持っているカードはもうなかった。
次殴られたら、されるがままになるしかない。
「無理にでも時間を止めるか……? いや、それでも倒しきれない……」
無理に使えば時間を止められる。
けれどもその三秒を使ってもタカミヤを倒し切れるか分からない。
倒しきれなきゃ、タカミヤはより怒り狂って攻撃してくることだろう。
自分の割と綺麗な顔が殴られるのは勘弁してほしいとヨルは思った。
「これも防いでみろよ!」
考え事をしている間にも時間は進む。
気づくとタカミヤは攻撃動作に入っていた。
「タカミヤ!」
次がなくとも、どうせやらなきゃやられる。
ヨルが時間を止めようとした瞬間、レオナが叫んだ。
電撃がバチバチと音を立てる拳がヨルの目の前で止められる。
「それ以上やるなら、この子の首へし折るわよ?」
レオナはユカの首を押さえて床に組み伏せていた。
最初に殴られたところ以外に怪我はなく、逆にユカの方は目の当たりに大きなアザができている。
「タカミヤ様……申し訳…………」
「豚がしゃべるな……」
「カッ……」
レオナが手に力を込める。
首が締まって、ユカは苦しそうに声を漏らす。
「先に突っかかってきたのはあなたよ。これ以上なるならこの豚を殺す。そして他の奴らも殺す」
ユカはレオナの手を掴むが、全く力が弱まる気配もない。
「……くそっ! そいつを放せ!」
少し悩んだようなタカミヤであったが、拳を引っ込める。
ユカという女には多少の情があるようだ。
「嫌よ」
「なんだと!」
「まずあなたが部屋を出て行きなさい。それに迷惑料として、霊薬も」
レオナに抜け目はない。
空いた手をタカミヤの方に差し出す。
「……この悪魔め」
「それ、褒め言葉?」
悪魔なんて言葉は罵倒にも何にもならない。
むしろ嬉しそうにレオナは笑う。
「覚えていろよ!」
タカミヤは霊薬を取り出してレオナに投げる。
そしてヨルのことを睨みつけて部屋を出ていく。
「早くユカを解放しろ!」
「殺してやりたいぐらいだけど……今タカミヤを怒らせるのは、得策じゃないわね。ねえ、あなたの霊薬は?」
レオナがユカの首を掴んだまま持ち上げる。
「み、右の……ポケット…………」
「んー、あった」
レオナはユカのポケットを漁り、霊薬を取り出す。
「じゃあ、返してあげる!」
レオナはユカを投げた。
「な……くっ!」
部屋の外までユカは飛んでいき、タカミヤがなんとかユカのことを受け止めた。
「……初日から嵐のようだな」
おかげでベッドが壊れてしまった。
ヨルはため息をついて、別のベッドに寝転がる。
「今日は疲れたから、お前らが霊薬飲むのは明日にしてくれ」
レオナ以外に強い奴がたくさんいる。
面倒だが、面白い。
「よいしょ……私も」
レオナはまたベッドを移動させてくっつける。
そしてヨルに寄り添うように横になる。
「助かったよ」
「ふふ、ならちゃんとお返ししてね?」
「……そのうちな」
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