31小隊戦4
「ヨル!」
ヨルの鼻から血が垂れる。
しかし変に触れると集中が乱れてしまうとレオナはただ見ていることしかできない。
対してヨルは鼻血を出したことにも気づかず、凶悪に暴れる魔力を制圧しようとしていた。
油断すると体を突き破って魔力が出ていきそう。
それを自分の魔力で無理やり抑え込む。
「たかだか魔力のくせに……」
全てを飲み込んでやる。
自分の魔力に暴れる魔力を混ぜ込んで全身をグルグルと巡らせる。
全身に力が入って血管が浮き上がる。
魔力が血管を突き破りそうになるのを、魔力で血管を強化して耐える。
「……ここに初日から大暴れしている奴がいるのか」
「ここには入らないでください」
ヨルが魔力を取り込んでいる間、部屋の外で数人の青年たちがヨルのことを覗き込んでいた。
「霊薬の吸収中か……先輩として挨拶してやろうかな?」
整った顔立ちをした軽薄そうな青年はヨルの姿を見てニヤリと笑う。
「入らないでください」
軽薄そうな青年をコウヤが止める。
「お前、鉄甲拳の息子だろ? 俺に触るなよ」
胸を押すようにして止めたコウヤのことを睨みつけるも、コウヤは険しい顔をして引かない。
まだヨルは霊薬の魔力と戦っている。
今邪魔をさせるわけにはいかない。
「ふーん……」
軽薄そうな青年はコウヤとタクマのことをジロジロと見る。
「あいつの顔には見覚えがない。あれだけの顔なら見れば忘れないはずなんだけど、それでも見覚えがない。ということは雑魚の関係者か、余所者かだ」
軽薄そうな青年は指でコウヤの手を押して退ける。
「それなのにもう虫けら従えてるのか。それにあの女まで……」
「部屋に入らないで……」
「おい」
軽薄そうな青年は再び部屋に足を踏み入れようとする。
だからコウヤはまた軽薄そうな青年を止める。
「触るな、と言ったよな?」
胸に触れる手を一瞬見下ろし、軽薄そうな青年は凍りつくような目でコウヤのことを睨む。
「道を開けさせろ」
「何を……」
「うげっ!? こんなことになるのかよ!」
軽薄そうな青年の後ろにいた二人の青年が動き出す。
「くっ!」
「ほう、なかなかやるな!」
「ぶにゃっ!」
「こっちは雑魚」
コウヤは相手の拳を受け止め、自分も反撃に顔面を狙う。
相手の青年もコウヤの拳を受け止めて、互いに睨み合う形となった。
背の高いコウヤにも負けないぐらいに体格のいい青年は力の押し合いになって楽しそうに笑う。
「つまらない……」
タクマの方にも一人向かった。
迫り来る相手に対してタクマは顔面を守るように腕を上げたものの、冷静に横から顔を殴られてぶっ飛んでいく。
片目に髪を垂らした青年が呆れたようにため息をつく。
「よう、レオナ」
「……鷹宮」
コウヤが体つきのいい青年を相手にしている間に、タカミヤは部屋の中に入ってくる。
タカミヤの後ろにはレオナよりも年上っぽそうな女の子がいる。
「なんだ。他人に興味なさそうだったのに、そいつに入れ込んでるのか?」
「この人は特別よ」
「ふーん」
ヨルはまだ魔力を吸収している。
タカミヤは片方の口の端を上げて笑う。
「じゃあそいつが廃人になったら大変だな」
タカミヤが一気に走り出す。
伸ばされた手の先にはヨル。
「……何するのよ?」
「暗天の先輩として挨拶してやろうと思ったんだ」
レオナは怖い目をしてタカミヤの手首を掴んで止める。
「ユカ!」
「はい」
「なっ……うっ!」
タカミヤが大きく腕を振ってレオナの手を振り解き、ユカと呼ばれた女の子がレオナの顔を殴り飛ばした。
「やめ……」
「行かせない」
レオナの前にユカが立ちはだかる。
「はっはっ! 不用心だったな!」
タカミヤは手に魔力を込める。
ただちょっと触れて集中を乱すだけじゃない。
無防備に食らえば死んでしまうぐらいの一撃を喰らわせるつもりで拳を振り下ろした。
「死ね! ………………あれ?」
タカミヤの拳がヨルに迫る。
けれど、拳を振り切った時、そこにヨルはいなかった。
確かに目の前にいたはずなのに。
拳を振り下ろしたタカミヤは目を動かしてヨルを探す。
「タカミヤ様! 後ろです!」
「うし……」
ユカの声が聞こえてタカミヤは振り向こうとした。
首が横に向いたタイミングで、魔力の塊のようにも見える拳が迫ってきていることに気づいた。
「ふぅ……」
「ヨル!」
顔面を殴られてタカミヤがぶっ飛ぶ。
壁に衝突してベッドから転げ落ち、姿が見えなくなってしまう。
タカミヤを殴ったのは、ヨルだった。
「チッ……なんだ?」
イラついた顔をして親指で鼻血を拭う。
「テメェ……何しようとしやがった?」
ギリギリのタイミングだった。
拳が当たる前のほんの一瞬早く、霊薬の吸収が終わった。
ヨルは時を止めてタカミヤの攻撃をかわして後ろに回り込んでいたのである。
状況は分からないが、言い逃れもできないほど間近に拳があったのだからぶん殴った。
「貴様……」
「部屋に入るなって言われなかったか? 母親でもノックするぞ」
鼻を押さえてタカミヤが立ち上がる。
ボタボタと鼻血が落ちているが、まだ無事であった。
増えた魔力も含めて結構本気で殴ったのに、気も失わなかったのは少し意外だった。
強い。
霊薬をいくつも飲んできたのに、タカミヤはヨルよりも魔力が多いようであった。




