30小隊戦3
「は……はい……」
ほんの一瞬抵抗しようかとも考えた。
けれど、ヨルの目を見て震える手で霊薬を差し出した。
殺される。
大人しく従わなきゃ、こいつは俺を殺すのだ、と恰幅のいい青年は感じた。
「ん、良い子だ」
ヨルは三つになった霊薬を見て笑いながら、恰幅のいい青年の頬を軽くペチペチと叩く。
ただ目の奥は笑っていないことを正面にいる恰幅のいい青年だけが分かっている。
「この部屋は俺が使う。文句ある奴はいるか?」
ヨルは振り返ってその場にいた全員のことを見回す。
レオナやコウヤ以外は目を逸らしていて、誰も答えない。
「おい、お前はどうする? 俺は利用料なんてケチケチしたことは言わないぞ?」
ヨルは恰幅のいい青年を見下ろす。
霊薬を要求していた時の深い闇のようなものは感じなくなっているが、心に刻まれた傷はもはやしっかりと残っている。
「で、出ていきます……すいませんでした……」
「そうか。じゃあゴミは拾っていってくれ。お前のせいで出たんだからな」
ヨルは首の折れた青年と顔面を殴られて血まみれの青年を恰幅のいい青年の前に投げ捨てる。
恰幅のいい青年は折れた足を引きずって、床に倒れる仲間たちをなんとか部屋の外に運んでいく。
様子を窺っていた暗天の覚醒者たちが恰幅のいい青年たちを連れていくのが、チラリと見えた。
「お前らはどうする?」
ヨルがベッドに腰掛けて、他の子供たちを見る。
恰幅のいい青年の仲間ではなく、ただどこか部屋を探してここにやってきて巻き込まれた子供たちも青い顔をしている。
まさか平和な時だと思ったのに、いきなり目の前で死人まで出たのだから胸中は複雑だろう。
「お、俺は違う部屋探します……」
「僕も……」
霊薬をコロコロ回してニッコリとするヨルは機嫌が良さそうに見える。
逃げるなら今しかない。
子供たちはそそくさと部屋を出ていく。
結局十人寝られる部屋にはヨルたち四人しか残らなかった。
「んー……じゃあ私もここで寝ていいわね!」
レオナは嬉しそうな顔をしてベッドをずらす。
二つのベッドをくっつけて大きなものにする。
「では自分はここに」
「じゃあ、俺はこっちに」
部屋の左右に五つずつベッドが並んでいる。
左の奥側の二つをヨルとレオナが使う。
コウヤは右側の真ん中、タクマはヨルから遠い右側の一番手前のベッドを選んだ。
「おい、こい」
「え、な、なんですか?」
ヨルはタクマを呼び寄せる。
「ほらよ」
ヨルは霊薬を一つタクマに投げる。
「こ、これは……」
「言ったろ? 強くなれって。俺にはまだあるしな」
投げ渡したのは首の折れた青年の分の霊薬。
動かす時に抜き取ってあった。
レオナとコウヤは見張りの子たちの分を奪い取っていたので、タクマだけ自分の分しか持っていなかった。
「……ありがとうございます!」
タクマは目を潤ませて頭を下げる。
ほんの少し前まで恐怖に震えていたのに、霊薬をわざわざ分けてくれるヨルに感動していた。
むしろ恐怖を感じるような相手だからこそ、優しくされると深く感じ入ることがあるのかもしれない。
「さて、お前ら見張りしろ。誰かに狙われる前に腹に収めちまうぞ」
「お任せください」
「分かりました!」
なんとなくタクマの忠誠心が少し上がったような気がした。
「なあ、これいっぺんに飲んだらどうなると思う?」
コウヤとタクマが部屋の入り口を塞ぐように立つ。
ヨルは手のひらに乗せた三つの霊薬を見つめる。
本来なら一個ずつ摂取するのが正しいやり方である。
しかし同じ霊薬を続けて摂取しても魔力を吸収する効率は落ちてしまう。
それなら一気に摂取してしまえばいいのではないかと考えたのだ。
「それは……流石に危ないかもしれないわよ? 本来霊薬は一つで安定的に摂取できるようになってるはずだから」
ヨルの言うことならなんでも肯定的な流石のレオナも少し困り顔をする。
作られた霊薬というのは、自然にあるものと違って計算ずくで考えられている。
二つや三つ同時に取り込んだらどうなるのかはレオナにもわからない。
「せめて……二つにしといたら?」
「そうするか」
霊薬飲んで死にたくはない。
大丈夫そうなら三つまとめて飲むつもりだったけれど、二つに抑えておくことにした。
「それじゃあ、いただきますか」
ヨルは血まみれの霊薬を二つ、口に放り込む。
液体のものと違う丸薬タイプなので、しっかりと噛み締めて飲み込む。
「レオナ、気をつけろ。かなり不味いぞ」
ヨルは顔をしかめる。
液体タイプのものはまだなんとか飲めたものだったが、丸薬は青臭くて苦いだけの塊で飲み込むのも大変。
もう二つも口に入れたことを後悔するぐらいの味だ。
「ぐっ……」
なんとか霊薬を飲み込む。
今回は楽にあぐらをかいて魔力の吸収に挑む。
「ふぅ……」
喉を落ちていく霊薬が胃にたどり着く。
みるみると霊薬が魔力になっていき、まるで体の中が燃えるような熱さに襲われ始めた。
「くっ……」
「ヨル……大丈夫?」
ヨルの額から汗が噴き出す。
体の中から魔力が暴れて出ていきそうで、あっという間に指先まで魔力の熱が広がる。
ヨルは魔力が逃げてしまわないように、自分の魔力で霊薬の魔力を包み込む。




