29小隊戦2
「俺が先に飲むからお前たち見張りを頼むぞ」
残念ながら今回部屋は男女でも分かれている。
孤島の時はレオナが勝手にヨルの部屋に入り浸っていたが、流石に大部屋じゃそれも難しそう。
ひとまず交代で見張りをして部屋で霊薬を飲むことにした。
「ちょっと多いが……まあいいか」
「ん?」
ベッドが並べられただけの部屋にはもうすでに他の子供たちがいた。
男女で分かれている他は自由なので、どこの部屋を使うかも自由である。
実際には別に構わないのなら男が女のところで寝てもいいし、逆も構わないのだった。
適当な部屋に入ると、何人かの子供が出入り口を塞いだ。
「お前ら、ここを使いたきゃ利用料を払え!」
部屋の奥にあるベッドに座る恰幅のいい青年がニヤニヤとした笑顔を浮かべている。
「利用料?」
部屋の中にはおよそ十五人ほどがいて、四人が恰幅のいい青年に協力している。
もうすでに仲間を見つけているようだ。
「分かるだろ?」
恰幅のいい青年は手を出して、寄越せとジェスチャーする。
「さっき良いもの貰っただろ? それを寄越すんだよ」
「あー、なるほどな。先を越されたか」
相手の要求は霊薬である。
他の奴が五人組を作ってまとまる前に、まとまって霊薬を奪おうとしているのだ。
利用料なんてカッコつけてるのか知らないが、それなら正面から霊薬寄越せと言えばいいのにとヨルは思う。
「これが欲しいのか?」
コウヤやタクマはヨルがどうするのかと様子を見ていた。
ただで霊薬を渡すわけがないと思っていたのだけど、ヨルは渡された霊薬を取り出す。
「そうだ。それだよ。物分かりがいいじゃないか。お前は長生きできそうだな」
ヨルが霊薬を渡すものだと思って恰幅のいい青年はニヤリと笑う。
「欲しいならくれてやるよ」
ヨルは何かを考えながら、霊薬を指で転がしていた。
すると突然霊薬を放り投げた。
天井近くまで上がった霊薬をみんなが目で追う。
「ただし……俺を倒せたらな!」
「ぶげらっ!?」
霊薬を投げ上げると同時にヨルは走り出す。
手前のベッドを踏み台にして跳躍すると、恰幅のいい青年の頭を蹴り飛ばした。
「ぶっ、ぶっ殺せ!」
転がってベッドから落ちた恰幅のいい青年が口から血を飛ばしながら叫ぶ。
ヨルは余裕の顔をしながら自分が投げ上げた霊薬をキャッチする。
「こいつ!」
「あーあー……」
タクマは渋い顔をして、ヨルにかかっていく青年たちのことを見ている。
同じ孤島の子供でヨルにかかっていく人はいない。
なぜならヨルの怖さを知っているから。
ヨルの異常さが明確に浮き彫りになった出来事はやはり三番殺害事件である。
ヨルが三本目の霊薬をゲットして、不満が最高潮に高まっている時だった。
その日は誰が強いのか決めるために、いつもよりもハードな戦いを許可された。
最初の頃にヨルに突っかかったこともある三番はヨルを相手に指名して戦い、そして返り討ちにあって殺されることとなる。
血を浴びて高笑いをするヨルの姿をタクマは忘れられない。
「へっ?」
骨が砕ける音が響く。
「悪いの俺じゃなくあいつだ。相手の実力も分からず、自分も実力がなく、ただブクブクと豚のように太ってるあいつがな」
ヨルは飛びかかってきた青年の拳をかわすと両手で頭を掴んで一気に逆にねじる。
無理矢理骨を砕きながら首が反対を向き、驚いた目が恰幅のいい青年を見た。
「なっ、なんだよあいつ……」
ヨルはもう一人の青年を殴り飛ばして倒すと、そのまま胸ぐらを掴んで顔面を何度も殴打する。
顔を覆うようにガードしても隙間から拳を捩じ込んで殴る。
「た、助け……やめ……お願い…………お……」
何度も殴っているとだんだんと抵抗が弱くなっていく。
防御しようとしていた腕がだらんと落ちて、ノーガードになる。
それでもヨルは何回か殴りつけ、それを止める人は誰もいない。
「ここでやめといてやるよ。代わりにこれは貰っていくぞ」
ヨルは青年の懐を漁る。
そして霊薬を見つけて取り出す。
霊薬に滴る血を舐めて、胸ぐらから手を放す。
「私一人でも大丈夫なのに」
「いえ、そのようなわけにはいかないので」
出入り口を塞いでいた二人はレオナとコウヤに倒されていた。
「ひ、ひぃっ!?」
血のついた手で二個の霊薬を転がすヨルが迫り、恰幅のいい青年は後ずさる。
「まだ、利用料が必要か?」
壁際に追い詰められた恰幅のいい青年を見下ろす。
「い、いや! そんなもの必要ない!」
「必要……ない?」
「ああああああっ!?」
ヨルはスッと足を上げると恰幅のいい青年の足首を踏みつけた。
骨が折れ、恰幅のいいの青年は悲鳴を上げる。
「な、何を……」
「必要ないです、申し訳ありませんでした、だろ?」
ヨルは恰幅のいい青年の髪を掴む。
恰幅のいい青年は高校生ぐらいだろうか。
明らかにヨルの方が年下であるけれど、こんなところでは年齢の上下など関係ない。
弱い方が下。
一度でも敵に回ったなら、弱肉強食のルールに則ってもらう。
「す、すいませんでした……」
「そうか、謝るってことは……迷惑かけたってことだよな?」
「へっ?」
「迷惑料。分かるだろ?」
ヨルは血まみれの手を出す。
すっかり血に塗れた霊薬が二つ、手のひらを転がる。




