26暗天の大きさを知る3
「お任せください」
嘘のように魔力が感じられなくなった天主が部屋を去る。
天主の後ろに控えていた男女のうちの男の方が前に出てくる。
鮮やかな赤い髪やヒゲをした中年の男も、かなり強い魔力を持っている。
髪やヒゲが赤いのは染めたりしているからではない。
魔力の影響によって赤く染まってしまっているのだ。
レオナが本気を出した時に髪が白く染まったのと同じような現象で、普通の魔力ぐらいじゃ起こらないようなものである。
それだけ強い力を持っていることの証にもなる。
「ヨル、大丈夫?」
「ああ……強いな」
レオナが心配そうにヨルの顔を覗き込む。
多少鼻を打ちつけたものの、天主も本気ではなかったので怪我はない。
これ以上悪目立ちはしないようにヨルも膝をつく形で起き上がった。
悔しいが、負けは負け。
今の状態で敵わないことは分かっていたし、しっかり顔見ただけでもよしとしようと思った。
負けを認められないほど度量は狭くない。
ヨルの生まれは弱小悪魔だ。
苦杯を喫したことも辛酸をなめさせられたこともある。
それらを全て乗り越えて強くなってきた。
神のリセットが始まってしまったために戦う機会がなくなったが、他の大悪魔とだって肩を並べるとまで上り詰めたのだ。
今回だって強くなってみせる。
神を倒すというだけではなく、純粋な強さへの渇望。
ヨルはクソッタレな神のせいでどこか忘れかけていたものを思い出した気分になった。
越えるべき壁となる圧倒的な強者が近くにいるのは、とてもいいことである。
「静かにしろ!」
赤髪の男の声にも魔力が込められている。
全員を押さえつけるようなものではないが、広い部屋の中にしっかりと赤髪の男の声は届いている。
「俺は天主様の専任護衛、赤石大悟だ。お前たちは第一段階を通過した。しかし、それはあくまでもただの第一段階に過ぎない」
これから何が始まるのか。
ようやく分かりそう。
「これからお前たちには五段階の試験を受けてもらう!」
セキイシは甲を前に手を広げる。
「合格した段階によって、暗天の中での序列と立場が決まる。各試験を通過すると職位が与えられる。下級兵、上級兵、小隊長、大隊長、そして幹部だ」
「これは……ただの捨て駒育成じゃなかったのか」
子供たちを集めたのは強い覚醒者を育てることが目的である。
しかしその中でもさらに使えそうな子供は、暗天で役割を与えられる。
覚醒者の育成と同時に暗天幹部候補の育成でもあった。
「試験に挑めるのは各段階で一度だけ。失敗すれば脱落だ」
「だ、脱落って……家に帰れるんですか?」
脱落が本当にただの脱落なのか。
一人の青年が手を挙げて質問をぶつけた。
「うっ……」
セキイシに睨みつけるように見られて、青年はたじろぐ。
「もし望むなら、そのような可能性もあるかもしれないな」
「ほ、本当ですか!?」
セキイシの答えに子供たちがざわつく。
もはやほとんど諦めていたが帰る希望が出てきた。
「本当か……?」
一見すると甘い言葉だけれども、これまでの暗天を考えた時にそんな甘いものじゃないだろうと思う。
セキイシの怪しい笑みも気になる。
ここまで連れてきて、脱落したからただ家に帰しますなんて絶対やらないだろう。
死体袋に入れて返します、なんてことかもしれないとヨルは思った。
しかし他の子供たちはセキイシの怪しい笑みと答えにも気づかず、ただ希望に喜んでいる。
「それに各段階を通過すれば他にも褒美をくれてやる。第二段階と第四段階に合格すれば霊薬を、第三段階と第五段階に合格すれば暗天が保有するアーティファクトをくれてやる」
「ほぅ?」
「さらには第六段階を突破するものには……スキルブックをくれてやる!」
「スキルブックだって!?」
「マジかよ。本当にそんなものもらえるのか?」
子供たちのざわつきがより一層強くなる。
使えばスキルが手に入れられるという特殊なアーティファクトは、子供たちでも一度は聞いたことがあるようなものである。
たとえ才能に恵まれなくともスキルブックでスキルを手に入れて一発逆転、なんてことも夢ではない。
「早速第二段階を始める」
セキイシが手を振ると、箱を持った暗天の覚醒者たちが入ってくる。
「一人一つ取れ!」
差し出された箱の中には小瓶が入っている。
小瓶は薄く色がついていて、中に液体が入っているということぐらいしか分からない。
「その中に入っているのは毒薬だ!」
全員に小瓶が行き渡った。
「これからそれを飲んでもらう」
「ど、毒を飲めっていうのか!」
「死んでしまうだろ!」
「静かにしろ! いいか、この毒は一定以上の魔力があれば霊薬になる。これを飲んでも無事だったものが第二段階合格とする!」
要するに毒薬に耐えろというのが試験らしい。
しかし一定以上の魔力の一定以上とはどれぐらいなのか、誰にも分からない。
「こ、こんなもの、飲めるか!」
みんながそれぞれ様子をうかがう中で、一人の少年が瓶を床に叩きつけた。
魔力に自信がなく、毒薬を飲んでも耐えられるか不安だった。
それなら脱落してしまおうと考えた。
「これで脱落だろ! 早く俺を家に……へっ?」
「ならば帰してやろう」
少年の体に火がつく。
瞬く間に火は大きくなり、少年を包み込む。
「ただし、生きて帰すとは一言も言っていないがな」
「うああああああっ!」
腕を振っても、転がっても火は消えないどころか勢いを増す。
そして呻き声の一つもあげずに動かなくなっても炎は燃え続け、少年は真っ黒な消し炭になってしまった。




