25暗天の大きさを知る2
「霊薬なんかよりコーラかけた方がみんなやる気出るんじゃないのか?」
コーラを飲み終えたヨルはまたレオナの膝枕に頭を預ける。
子供たちの顔を見るに、ハンバーガーとコーラの方が争奪戦になるかもしれないと感じた。
不満はあっても、一年半に及ぶ教育はもはや洗脳に近い。
食事さえ与えられれば誰も文句は言わない。
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時々コンビニなどの食料が差し入れられながら、ヨルの体感で二日ほど走り続けた。
かなりの距離を走った。
「降りろ!」
トラックが止まり、後ろが開く。
外はちょうど日が出始める時間で、差し込む朝日の眩しさにヨルは目を細めた。
「んー……」
トラックを降りて体を伸ばす。
すぐ近くにはどこかの研究所のような大きな建物があった。
「もうすでに他の奴らは集まってる! さっさと移動しろ!」
孤島では数人しかいなかった暗天の覚醒者たちの姿もここでは多い。
久々に見るマナベの姿もあった。
研究所に入り、移動させられた先にあったのは真っ白な部屋だった。
学校などの体育館よりも大きいぐらいの広さはあるが、壁も床も真っ白で窓はない。
感覚が狂いそうになる奇妙な部屋であった。
「へぇ……多いな」
そんな白い部屋にはヨルたち以外の子供がいた。
その数はおよそ数百人。
そんなにたくさんの子供がいるとは思いもしなかった。
目の前の子供というよりも、これだけの数がいるということはヨルたちがいた孤島の施設のような場所が他にもいくつもあるということになる。
子供の数を見ると、一カ所や二か所の規模ではない。
つまり全国に暗天の施設があるのだ、ということにヨルは内心で驚いていた。
同時にこれは使えるかもしれないとも感じて、ニヤリと笑った。
「思っていたよりもヤバいし、デカくて……使えそうだな」
暗天という組織を飲み込めば利用できるだろうと思っていた。
しかしヨルの予想を良い方向に裏切って、暗天が飲み込むのも大変そうな巨大な組織だと思い知った。
その分手に入れられれば大きな力となる。
「お前ぐらい強そうなのが何人かいるな」
一年半の訓練でヨルの感覚も鋭さを増した。
子供たちの実力はピンからキリまで色々あるだろうが、子供たちの中にはレオナにも匹敵するような魔力の子が何人かいる。
「いないと思ってたけど、他にもこんなところがあったのね」
レオナも強い子供たちの顔には見覚えがあった。
暗天関係の子供が全員集まっているわけではないと感じていたが、他にも子供を洗脳して訓練する施設があったことは知らなかった。
「わざわざバラバラにしてた子供を集めて何をするのかな?」
レオナすら何をするのか知らない。
これから何が起こるのかと多くの子供たちは不安げにしている。
「静かに!」
ザッと暗天の覚醒者たちが白い部屋に入ってきて並ぶ。
その中にはシノヤマやマナベもいる。
「父さん……」
後ろに一組の男女を引き連れた男が最後に入ってきて、暗天の覚醒者や何人かの子供たちが一斉に膝をついた。
「あれがお前の父親……つまりは天主、ってやつだな?」
一人子供がいるようには見えないほどに若く見える男はレオナの父親だ。
暗天を率いるリーダーであり、暗天で最も強い覚醒者。
「うん」
「……ありゃ、強いな」
レオナに似て綺麗な顔立ちをしているが、今のヨルの実力では力を測ることもできないぐらいの相手だった。
天主はほんの一瞬レオナを見た。
感情のこもらない視線を向けられて、レオナも感情なく見返している。
そこに親子の情なんてものはない。
「よく、生き延びた」
「うっ!?」
天主が口を開く。
その瞬間、魔力が放たれた。
まるで上から大量の水でもかぶせられたような圧力を感じて、ヨルは思わず膝をつく。
子供たちの中に抵抗できるような人はいない。
一瞬にして全員が天主に向かって膝をついて頭を下げる形となった。
「ここにいる。つまりお前たちは第一段階を突破した」
見た目よりも低い声をしている。
「……なんか……ムカつくな……」
魔力に押さえつけられて頭すら上げられない。
それが無性にヨルを苛立たせる。
襲いかかっても勝てないことは分かっている。
しかし自分の意思でもなくされるがままに頭を押さえつけられているのには我慢ならなかった。
「あいつ……」
ヨルは体に魔力をみなぎらせる。
頭を下げろとは言われていないし、抵抗するなとも言われていない。
歯を食いしばり、顔を上げる。
その様子を見てマナベは驚いてしまう。
抵抗しようという意思を見せるだけでなく、本当に抗っている。
「……」
ヨルが顔を上げると天主と目があった。
そのままヨルはゆっくりと立ちあがろうとする。
手で体を支えて、腰を上げる。
床から手を離し、膝を押してそのまま上半身を起こしていく。
「ぐっ!?」
天主がヨルに向かって手を伸ばす。
より強い魔力がヨルにのしかかって、膝をつくどころか全身が地面に押さえつけられてしまう。
「ふっ……」
暗天の覚醒者たちは不遜ともいえるヨルに視線を向けている。
しかし天主は笑っていた。
誰も気づかぬ小さな笑みだった。
「あとは任せた」
天主が手を振ると魔力の圧が消える。
まるで最初から何もなかったかのように圧が消えても誰も顔を上げなかった。




