24暗天の大きさを知る1
「チッ……またこれか」
誘拐されてからおよそ一年半が経った。
隔絶された環境、毎日の訓練、時折起こる命の奪い合い。
だんだんと子供たちの感覚も麻痺してくる。
ついてこられない子供たちは淘汰され、誘拐された子供も暗天の子供と同じような目つきになってきた。
ウェイトはさらに重くなり、いくつもの武器の扱いを叩き込まれ、それぞれのスタイルというものを見つけ始めている。
やはり暗天の子供たちの方が早めに色々やっていた分、先に進んでいることは間違いないが、暗天の子供にも負けないような才能の片鱗を見せる子もいた。
霊薬をもらえる機会はこれまでに四回あって、全部ヨルがいただいた。
三回目ぐらいから周りの子たちもヨルがヤバいと気づいてきた。
ただいつまでこんなこと続けるんだとみんなが思っていた。
そんなところで、久々の島からの脱出。
港について、トラックに押し込まれた。
「座席とは言わないけど、クッションの一つでも欲しいもんだな」
「あるよ」
揺れるトラックは最悪である。
手こそ縛られていないものの、貨物扱いは誘拐された時以来だ。
気だるそうに壁に寄りかかるヨルを見て、レオナは自分の太ももをポンポンと叩く。
いわゆる膝枕をしようというのだ。
「……ふぅ」
「どう?」
「まあ、悪くないな」
ヨルとレオナがイチャつくのは、もはやいつものこと。
周りの子供たちも気にはしない。
今バスの中にいるのは誘拐されてきた時と同じぐらいの人数がいる。
ただし、今は暗天の子供を加えてそれぐらいの数しかいない。
およそ半分以上の子がついてこられなかった。
ヨルは思ったよりも残ったものだと感じていたのだけど、実は本来なら何回か登場する予定だったゴールドラインウルフをヨルたちが倒してしまったからという事情もあった。
「どこに行くのかな?」
島からのちゃんとした土地に一年半ぶりに足を踏み入れたわけだが、勝手に逃げようとしたら殺すと言われている。
一人逃げようとして捕まって船に再び押し込まれた。
どうなるのかはヨルも知らないが、二度と会うことはないだろう。
「お前は知らないのか?」
レオナはずっとヨルの顔を見下ろしている。
顔なんて見ていても面白くないだろうと思うのだけど、レオナはどことなく嬉しそう。
「ううん、私も知らない」
天主の娘であるレオナも知らないとなると、もう一つぐらい過酷さを増すのかもしれないとヨルは考えた。
「ん、止まった?」
「お前ら、適当に分けろ」
トラックの後ろが開いて、暗天の覚醒者が袋をいくつか置いた。
「あっ……!」
袋の一つを見て、一人が驚いた声を出した。
「あれって!」
「うわぁ!」
子供たちがざわめく。
「あー、なるほどな」
何をざわついているのかと体を起こす。
置かれた袋は食べ物が入ったものであった。
その中の一つにハンバーガーチェーンのものがある。
孤島に一年半。
当然にジャンクフードなんてない。
食べ物は競争を促すためかそれなりに良いものだったが、それでも子供でも食べるようなジャンクフードは出てこなかった。
ハンバーガーなんて小洒落たものもなかったので、子供たちの目の色が変わる。
「おい」
ジリジリとハンバーガーが入った袋に近づく子供の肩をコウヤが掴む。
「うっ……あっ…………」
一年半でさらに背を伸ばしたコウヤは大人と同じような体格をしている。
感じる圧力も強くなり、体格に見合って他の子供よりも頭一つ抜きん出た力の強さを誇っていた。
コウヤがハンバーガーの入った袋を手に取る。
文句がありそうな顔をしながらも、食ってかかる子はいない。
「こちらをどうぞ」
コウヤはハンバーガーを独占する訳ではない。
ハンバーガーを持って行った先はヨルの前であった。
「おう、ありがとな」
以前にコウヤのことを助けてやった。
それ以来コウヤの態度はかなり変化した。
さらに目をかけてやって、いつの間にかコウヤはヨルの部下のようになっていたのである。
一年経った時に序列を決めるといって始まった真剣勝負で、三番の少年がヨルに挑んで殺されてからは完全に周りの雰囲気はヨルを頂点にしたものと化した。
「一個ずつでいいな」
「ありがと」
「ありがとうございます!」
ヨルはハンバーガーをレオナとコウヤに渡し、自分も一つもらう。
コーラも入っていたので、ありがたく飲ませてもらう。
「あとはお前らで好きにしろ。ただし狭いんだから暴れんなよ?」
他にも何人か使えそうなのはいるが、今から焦って取り込むこともない。
使えそうなコマはしっかりと見極める必要がある。
「美味いな」
ハンバーガーを食べる。
孤児院出身のヨルにとっては一年半どころか三年ぶりぐらいのものだった。
「メシだけは人間に敵わないよな」
悪魔は食に頓着しない。
食を楽しむ悪魔もいるが、基本的にも食わなくても死にやしないのだから食文化など発展しようもない。
美味いものに関しては人間に遥か及ばないのだ。
「くぅ……こりゃいいな」
コーラを一口。
弾ける炭酸と口に広がる甘さが悪魔的。
何か要求できる時が来たらコーラを所望しようかなと思うほどであった。




