23ご褒美2
「見張り、頼めるか?」
「もちろん」
霊薬は飲んでおしまいでもいいが、しっかり吸収したいなら集中する必要がある。
途中で邪魔が入ると魔力が暴走してしまう可能性もあるので、邪魔が入らないようにしなければいけない。
流石にこればかりは一人じゃ厳しい。
レオナに邪魔が入らないように見張ってもらうことにした。
部屋に戻り、ヨルはベッドに腰掛ける。
レオナは部屋の鍵を閉めて、誰かが入ってこないようにドアの前に立っていてくれる。
できれば外で見張ってほしいものだけど、お願いしている手前ワガママも言えない。
「……なんか歯磨き粉みたいな匂いだな」
小瓶を開けて匂いを嗅いでみる。
ハーブ系の爽やかな香りがしている。
「……味も上手くないな」
グイッと一気に霊薬を飲み込む。
口臭を抑えるミントタブレットをさらに苦くしたような味にヨルは顔をしかめる。
霊薬が流れた喉が、胸が熱くなる。
「きたな……」
ヨルはそのままベッドに倒れ込むようにして楽な体勢を取る。
お腹の中で魔力が暴れているような感覚。
ヨルはそれらを自分のものにするために、魔力を動かしていく。
糸を解くように、少しずつ暴れる魔力を自分の魔力に混ぜ込んで体を巡らせていく。
いくらか魔力が発散して消えていってしまうが、焦りは禁物だ。
胸に広がる熱を全身に広げて、できる限り多くの魔力を逃さないように捕らえる。
全身に魔力を巡らせているとフワッとして、半分眠っているような気持ちになる。
心地よいお風呂に浸かっているかのよう。
悪魔の時と比べると屁でもないような魔力だが、今の体からするとありがたい量である。
「ふぅ……」
最後の最後まで魔力を解き、頭のてっぺんから足先まで巡らせる。
吸収しきれなかった魔力もいくらかはあるが、それはしょうがない。
ただ他の子供がやるよりも多くの魔力を吸収できただろうとはヨルも自負があった。
「………………何をしてる?」
「見張ってる」
うとうととした気分だったヨルが目を開けると、目の前にレオナの顔があった。
寝起きに見るものとしては悪くないが、見張りを頼んでいたはずだろうとヨルは思う。
「悪魔の時は寝ることなんてなかったもの。可愛い顔してるから思わず、ね」
「何かしてないよな?」
「ズボンは下ろしてないわよ?」
「……そこまでのことは想定してなかった」
キスぐらいはしてるかもしれないと思っていたが、レオナはそれ以上のことを想像していたようだ。
あのまま寝ていたら危なかったかもしれない。
「悪魔の時はそんなにベタベタしてなかっただろ?」
「したかった。でもあなた興味なさそうだったし。今は人間だから……人間の一生は短いのよ?」
レオナはツンツンとヨルの頬を指先でつつく。
「悪魔の時はいつでもチャンスがあると思ったけど……」
レオナはイタズラっぽく笑うとそのまま頭を下げて、ヨルの鼻先にキスをした。
「今はそんなに気長に待てないの。だから、チャンスはその都度掴まなきゃ」
「人間の一生は短い……か」
「悪魔じゃできないこともしましょ? 神を殺したら……この世界はきっとまだ続くんだから」
「……そうだな。じゃあ、来いよ」
ヨルはベッドの端に避けて、隣をポンポンと叩いてレオナの顔を見上げる。
「本当? やった!」
「悪魔じゃ勝てなかったし、人間でも勝てなかった。悪魔でも人間でもあって、どちらも超えられるような存在になるには、経験も必要だな」
レオナはヨルの横に寝転がる。
こんなこと悪魔時代を含めても初めてのことだった。
「……不思議なもんだな」
悪魔の時に感じたことがないような暖かさがある。
胸に広がるこれは魔力とはまた別のものだった。
「寝るか……」
別に横に呼び寄せたからと何かする気はない。
それでもレオナは幸せそうにヨルの胸に身を寄せる。
全身に広がる魔力の熱さが治ってきて、ヨルは眠気を感じた。
「おやすみなさい。また一つあいつらに近づいたわね」
「ああ……まだ足元のアリのようなものだが……いつか首に食らいついてやる」
「あなたと二人の時間が永遠になればいい。だから……私もあいつらを殺すわ。あなたと共に」
「期待しているぞ」
ヨルはレオナの頬を指の背で撫ぜる。
レオナはそのまま目を閉じたヨルの顔を見つめ、頬に添えられた手を握りしめるのだった。




