22ご褒美1
「今回の旗取りのトップは六番だ」
この地獄の合宿においては死なない程度の怪我なら治してもらえる。
死んでしまった子はどうしようもないが、多少の怪我を負ったぐらいの子は治療を受けて並ばされていた。
「受け取れ、六番」
シノヤマが小瓶を取り出すと、ヨルに投げ渡す。
「ありがとうございまーす」
ヨルはもちろんほぼ無傷で帰ってきている。
小瓶を受け取ると無邪気に笑って見せて、レオナの胸をキュンキュンさせている。
「今回のことはいい教訓になっただろう。お前たちがどんなところにいるのか、改めて思い知ったはずだ」
手足のウェイトばかりではなく、モンスターまで投入してくるのは聞いていなかった。
慣れが出てきたことは否めない。
飯が食えなくとも殺されるようなことはない。
そんな甘えた考えが、底からひっくり返されたような思いの子供は多かった。
「だが……協力も悪くない。これから集団で行動するようなこともあるだろう」
まとまってモンスターに対処することに何か言うのかと思ったら意外な言葉だ。
「しかし胸に刻んでおけ。このようなことはまだ続く。隣にいる奴がいつまでもお友達でいられるとは思うなよ」
シノヤマは上げて落とすのが好きらしい。
そういうことを言わなきゃいい教官なのにとヨルは思う。
「今回モンスターへの対処でもずば抜けたものがいた。六番」
「なんですか?」
「モンスターを倒し、周りを率いた。目覚ましい功績には報酬で応えねばならない」
褒めるものだから頭でも打ったのかとヨルは怪訝そうな顔をする。
「アーティファクトを一つくれてやる」
シノヤマが懐を漁って指輪を取り出す。
アーティファクトと聞いて、ヨルの目の色が変わる。
「一日に一度、防御魔法を発動させられるアーティファクトの指輪だ」
シノヤマが指でアーティファクトを弾く。
魔力を込めて、まるで弾丸のようにまっすぐにヨルに向かって飛ばした。
「へへ、ありがとうございます」
ヨルは手に魔力を込めてアーティファクトを受け取る。
思いの外シノヤマの魔力が強くて手のひらに指輪の形の赤い跡が残るが、ヨルは思わず本性が顔をのぞかせる笑みを浮かべていた。
こっちの笑顔もまたいいものだとレオナは頬を赤らめる。
「……またいつモンスターが出るか分からない。今後も気をつけろ。解散」
シノヤマがゆっくりと部屋を出ていく。
「六番について調べたか?」
「はっ! 調べてまいりました!」
「本当にただのガキなのか?」
執務室に入ってデスクに座ったシノヤマの前に、顔を布で隠した男が現れた。
「確かに孤児院出身の子供です。孤児院もただの孤児院で、暗天でもないですし我々のような組織が何かを育てているものではありません」
「どんな子供だ?」
「比較的大人びていて、周りの目を気にしないような性格のようです。敵対するものには容赦なかったようですが……特別常人の枠を超えるようなことはありません」
「そうか……孤児院に来る前は?」
シノヤマは部下にヨルを調べさせていた。
暗天の子供よりも暗天らしい気性と能力を持ち合わせているヨルのことは、どうしても目につく。
あまりにも異常な能力を持っていることが気になって、部下にヨルのことを調べさせていた。
「孤児院に来る前のことまでは調査不可能でした。五歳の時に両親を亡くし、親戚もいなかったために孤児院に。しかし泣いたり落ち込んだりするようなことはなかったそうです」
「五歳か……孤児院に来る前に何かしていたとも考えにくいな。しかし両親が死んでも泣きもしない……いや、もしかしたらそのせいで心のどこかに歪みを抱えてしまったのかもしれないな」
他の子供たちは追い詰められてようやくこの状況に慣れてきた。
対してヨルは最初から何とも思っていないように適応していた。
両親を失ったことで心が壊れてしまった子供。
まさか中身が悪魔だとは思わず、シノヤマはそんなふうに考えていた。
「……レオナ様のことは、報告なされていないのですか?」
「何をだ? 得体の知れないガキに入れ込んでいるとでも言うのか? ここにいる以上は平等で、何をしようと俺は関わらない」
「承知しました」
「一応六番の両親についても探れ。もし怪しい点があればすぐに報告しろ」
「はっ!」
黒い布の男は霧のように消えていく。
「六番……あいつが新たな天を切り開く刃となるのか、それとも……いや、不遜な考えはよそう」
シノヤマは深いため息をつきながら首を振る。
「ただ今後の褒美はあいつが独占するかもしれないな……」
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「機嫌良さそうね」
「ああ、すごくいい」
霊薬にアーティファクトまでもらえてヨルの機嫌は明らかに良かった。
どれぐらい良いかと言えば、レオナが腕に抱きついていても嫌な顔一つしないぐらいである。
「今回は他のやつも文句なさそうだったしな」
最近ヨルに対する他のことのライバル心は割と強い。
初めはレオナのこともあったのだけど、旗の争奪戦や他における争いでもヨルは負けなしであったので自然と他の子に敵対視されるようになっていた。
ただ今回に限ってはゴールドラインウルフを倒して他の子を助けたということもあって、向けられる不満は明らかに小さかった。
大なり小なり感謝してる奴も少なくはないだろう。
「さて、レオナ」
「なぁに?」
今ならキスもできるのではないかとレオナは思うが、怒らせると元の木阿弥になってしまう。
ここは我慢して、下から可愛い顔をしてヨルのことを見つめるだけにしておく。




