21激しくなる争い8
「それじゃあ……これ持ってろ」
ヨルは短くなった旗をコウヤに渡す。
そしてヨルは二本の旗を両手に持つ。
「レオナ、やるぞ」
「さっきみたいのはもうできないよ?」
いつの間にかレオナの髪も紫がかった艶やかな黒髪に戻っている。
なかなか強力な力であったが、そう連発できるものでもないようだ。
「まっ、今回は生贄たくさんいるし、そいつらを使おう」
強力な一撃はないが、いまだに戦い続けている子供たちがいる。
二人だけの戦いとは違う。
「後ろに回り込むぞ。ケモノも人も弱点は同じだ」
ヨルは戦う子供たちを避けて大きく回り込んでいく。
道から外れると森になっているので姿を隠すにもちょうど良く、ゴールドラインウルフは子供と戦うのに夢中になっている。
「弱点って……何狙うの?」
「見ろよ」
ヨルはアゴでゴールドラインウルフのことを指し示す。
見ろと言われても何を見ていいのかレオナには分からない。
「股の間……ブラブラしてるもんがあるだろ?」
「まさか……」
「そう、そのまさかさ!」
ヨルは森の中から飛び出す。
「く、ら、え!」
ヨルは旗を思い切り振り上げる。
狙いはゴールドラインウルフの足の間。
そこにあるのは、ゴールドラインウルフのゴールドな玉。
何かが潰れる手応えが旗を持つヨルの手に伝わってくる。
「うわっ……」
コウヤは思わず顔をしかめる。
ゴールドラインウルフはか細く遠吠えした。
「今だ、お前ら! 一気に殺せ!」
後ろ足がガクガクとして、内股になるようにしてゴールドラインウルフはお座りする。
ヨルが叫ぶと子供たちは一気にゴールドラインウルフにかかっていく。
その様子を見て、もう一体のゴールドラインウルフは逃げていく。
『契約履行! 正式に代償を受け取る権利を得ました!』
いくら子供でも魔力を持っている。
十数人という子供たちに袋叩きにされて玉無しゴールドラインウルフは絶命した。
死んだ方が幸せだったかもしれないと思いながら、ヨルはゴールドラインウルフの頭を踏みつける。
「おっ、先に行ったりしなかったのか」
もうちょっと抵抗ぐらい見せてくれればよかったのにつまらない、と頭を蹴り飛ばしてヨルが振り向くとそこにコウヤがいた。
旗を一つ預けたので、先に逃げて行くこともできたはずだ。
けれどもコウヤはどこにも行かなかった。
「これ……返すよ。助けてくれて感謝するよ」
コウヤは旗を差し出す。
先に行くことを考えなかったわけではない。
それでも助けてくれたのだし、ヨルの容赦のない一撃を見て敵に回すのは得策ではないとコウヤは思い知った。
他の子供たちは脅威がなくなったので旗を取りに頂上に向かっている。
「感謝は受け取っておく。ただ俺も疲れてるんだ。旗、一本持っといてもらえると助かるよ」
「なっ……」
「ただ一番は俺だ。いいな?」
ヨルとレオナは山を降りていく。
コウヤは思わず手に持った旗と山を駆け降りるヨルの背中を交互に見てしまう。
「旗、よかったの?」
「あいつは使えそうだ」
レオナは分かっていた。
ヨルがただの好意で旗なんてあげる人じゃないことを。
「前にフェビノクルデスデが言ってたろ? 人心掌握術ってやつだよ」
「ああ、あの人間に貢がせてるやつね」
「良いタイミングで自分がいらないけど、相手が欲しいもんくれてやるんだと」
フェビノクルデスデは悪魔である。
人の心を支配して、貢ぎ物を多く集めていたロクでもない悪魔だった。
激浅な人心掌握術をヨルに語って半殺しにされたことがあるアホウである。
しかし今は役にたった。
小指の爪の先ほどには感謝してやろうと思う。
「こんなタダで手に入る旗一本で感謝されるなら、お得ってやつだろ?」
ヨルは爽やかな笑顔で笑う。
コウヤはヨルがどう考えているのか知らない。
意外と良いやつなのかも、そんなことを考えてコウヤも山を降り始めたのであった。




