18激しくなる戦い5
「なんだあれ……!」
「モ、モンスターだ!」
たなびくような灰色の毛を持ち、背中には頭から尾の先まで一筋の金色の毛が連なっている。
鋭い牙が並ぶ大きな口に咥えられた少年から血が噴き出して、雨のように降ってくる。
大人よりも大きな体格をしたオオカミのような魔物が、山の頂上に待ち受けていた。
「そいつらはゴールドラインウルフ……もちろん、魔物だ」
少し離れた木の上からシノヤマは様子を窺っていた。
もちろん助けるつもりなんかない。
子供たちがどう対処するのか、楽しみでしょうがないといった笑みを浮かべている。
「しかもただの魔物ではないぞ。人の味を覚えさせ、飢えた獣だ。下手をすればすれば全滅だって……あり得るかもしれないな」
山の頂上にいたのは一体だけでない。
三体のゴールドラインウルフがよだれを垂らしてら子供たちのことを見下ろしていた。
「レオナ、いくぞ」
他の子供たちはゴールドラインウルフを前にして足を止める。
しかしヨルはそのまま突っ込む。
「あいつは……拳撃と言ってたな」
ゴールドラインウルフが子供を噛みちぎる。
口に収まりきっていなかった手足や頭が食いちぎれて地面に落ち、ゴールドラインウルフは頭を上げて口に収めた肉をバリバリと咀嚼する。
子供を一人食ったゴールドラインウルフは少し下がり、残りの二体が前に出てきた。
ヨルは拳を握りしめて、魔力を込める。
魔力が一瞬赤く染まり、燃え盛る炎へと変わる。
「こいつでも食ってろ!」
ゴールドラインウルフが大きく口を開けてヨルに迫る。
ヨルは炎をまとった拳を突き出す。
「あれは……」
十八番の青年が驚く。
先日戦った際に一度だけ見せた拳撃を真似したことにも驚いていたのだが、ヨルは今回さらに拳に炎まで乗せて拳撃を放っていた。
拳撃の応用であり、十八番の青年にもまだできない芸当だった。
「やったぞ!」
ヨルの炎の拳撃はゴールドラインウルフの口に飛び込み、喉を内側から焼いた。
ひどい叫び声をあげて暴れたゴールドラインウルフは、足を滑らせて山から落ちていく。
「ダメよ。その人に手を出しちゃ」
もう一体のゴールドラインウルフがヨルに迫る。
しかし間にレオナが割り込んだ。
「あなたしかも……メスでしょ?」
怖い目をしたレオナがゴールドラインウルフのアゴを蹴り上げる。
モンスターのオスメスなどどうでもいいじゃないかとヨルは思うが、モンスターでもメスがヨルに近づくのはダメらしい。
「今のうちだ!」
ヨルとレオナは一気に走る。
いまだに咀嚼を続けてあるゴールドラインウルフは二人を止めることもなかった。
「くそっ……あいつらにできるなら!」
「あんなの……勝てるはずがない!」
ここで子供たちの反応は二つに分かれた。
一つはゴールドラインウルフに立ち向かうことを選んだ子たち。
ヨルとレオナが一体ずつ相手にしたのだから、自分たちにだってできるだろうと考えた。
どの道、一番でなくとも朝食のためには旗が必要である。
人数がいればなんとかなるかもしれないと考えるのも当然だ。
そしてもう一つはモンスターになんか敵わないと考える子供たちだ。
逃げる子もいれば、ただ恐怖に怯えて動けない子もいる。
武器もないのにモンスターと戦うのは自殺行為にも等しい。
たとえ戦わずともそれはそれで間違った判断ではないのだった。
「……後ろからも来てるぞ!」
ただ状況は刻一刻と変化する。
より悪い方に転がる。
山の下の方からゴールドラインウルフが駆け上がってくる。
さっきヨルに落とされたものだけじゃなく、新しく二体を加えた三体が迫ってきていた。
「逃げろ……! 旗なんていらない!」
合計五体のゴールドラインウルフに囲まれるような形となって、子供たちはパニックになる。
道を外れ、森の中に逃げる子供や二体の方がマシで突破しようとする子供たちなど阿鼻叫喚の状態となっている。
「三本ぐらいもらってくか?」
頂上についたヨルとレオナは旗を手にしていた。
後ろから悲鳴のような声が聞こえてくるけれど、全く気にしていない。
旗は武器の代わりになる。
今のところゴールドラインウルフを突破した子供もおらず、一番はほぼ決まったようなものだった。
ヨルは二本の旗を手にしながら、もう一本ぐらい持っていって他の子を妨害しようか迷っていた。
「こいつは?」
「多分オス」
しかしそう簡単にはいかない。
ゴールドラインウルフの一体がヨルたちの方に来ていた。
口元が血に濡れている。
最初に一人を食らったゴールドラインウルフであった。
五体の中でも一番体格が立派な個体で、他のゴールドラインウルフよりも落ち着いたような目をしている。
もしかしたら五体の中のリーダーなのかもしれないとヨルは思った。
「いかせてくれ……と言ったところでいかせてくれそうもないな」
落ち着いた目をしているが、同時に獲物を見る目もしている。
子供一人食ったぐらいではその大きな体は満足しなかった。
まだ、食べ足りないようである。
「どうする?」
「……たかが獣が、俺を見下してるのは気分が悪いな」
食欲に塗れた犬っころが自分を餌として見下すのは、すごくムカつく。
「逃がしてくれそうもないし、犬には躾が必要だな」
目の前のゴールドラインウルフを倒さなきゃ帰れない。
ヨルは怯えることもなく、ゴールドラインウルフの目を睨みつけた。




