17激しくなる争い4
「……集まったな!」
ヨルとレオナが最後にやってきた。
シノヤマは遅かったと叱りつけるつもりもあったのだが、常に成績として上位に居続ける二人を見て顔をしかめただけに留めた。
「これからの訓練……いや、日常でもさらに強くなるためにお前らを追い込む」
シノヤマがサッと手を上げると暗天の覚醒者たちが段ボールを抱えて前に出てくる。
「なんだ……ウェイト?」
段ボールをひっくり返して乱雑に中身を床にばら撒く。
重たい音を立てて床に落ちたのは、丸い形をしたおもり。
手首などに巻いて使うもののようで、子供たちがざわつく。
「一つ三キロのものを両手両足につけて今後は生活してもらう。勝手に外したりしたら罰を与える。今すぐつけろ」
一つ三キロなら、両手両足で合計十二キロ。
単純に少し持ち上げるだけなら問題はないが、子供の体で常に十二キロも増えるのはかなり辛い。
「体に魔力を巡らせろ。魔力を強化することで少しは楽になるはずだ」
体を鍛えつつ、重量に対抗するために魔力を使わせ魔力にも慣れさせる。
キツイことを除けば割と合理的なやり方だ。
「だが重たいな」
ウェイトをつけると、ずっしりとした重さがある。
今はまだいいが、長時間つけているのは後々響いてきそうだった。
意識して魔力を指先まで行き渡らせる。
こうすることで身体能力が強化され、重たさもいくらか楽になった。
上位の子供たちは問題なさそうだが、今でもギリギリの下位の子供たちはウェイトなんて追加されると死活問題だろう。
「そしてもう一つ……」
子供たちの成績が固定され始めると争いも起こらなくなってしまう。
旗を得られるか得られないかの境界にいる子供たちは大変だが、上位の子供たちはあまり競い合うようなこともなくなっていた。
「次一番で旗を持って帰ってきたものには魔力増強剤……つまりは霊薬をくれてやる」
罰で争いが起こらないなら、ご褒美で争いを起こす。
だんだんとお互いに力の差ややり方というものが分かってき始めていた。
何か決定的なものがなければ上を目指そうとも思えないところに、魔力を増やしてくれる霊薬を出してきた。
固定されていた序列に変化が起こる可能性が出てきて、上位の子供たちの目の色も変わる。
今はレオナが圧倒的に強いとされている。
しかし魔力が増えていけばレオナにも勝てるかもしれない。
「争いを刺激するのが上手いもんだ」
子供たちの状況を見極め、適度に掻き乱す。
常に競争している状態を維持するようにしている。
「あれは俺もほしいな」
魔力は増やしたい。
魔力なんてものいくらあっても困るものじゃない。
本気を出す時が来たのかもしれないとヨルは思った。
目をぎらつかせる子供たちを見るに、そう簡単に行かないかもしれない。
「……アレの用意はできているか?」
「はい。できております」
「明日の朝、アレを放つんだ」
シノヤマは空気が一変した子供たちを見て笑った。
何かがある。
それに誰も気づいていないのだった。
ーーーーー
「シノヤマ様、アレを放ちました」
「ククク……いいぞ、競い合え、そして……争え」
ウェイトの重さに慣れないどころか、一日中つけて少し疲れが出始めた頃に旗の奪い合いは始まった。
今日はいつもと様子が違う。
ウェイトを身につけているからではなく、霊薬がかかっているためにみんな本気になっている。
上位には敵わないだろうと思いつつも、他の子供たちもつられるように速度を上げていた。
そうなると境界ギリギリの子供たちも自然と速度を上げざるを得なかった。
「チッ……普段なら手を抜いてる奴らも……」
最初は団子状態だったが傾斜がキツくなるにつれてだんだんと差が出てくる。
大きくはいつも通りなのだが、先頭集団はいつもより人数が多い。
先頭まで狙わず旗を取れそうな二番手集団にいたり、待ち伏せて他の旗を狙うような子供まで今回は一番を目指す。
「……なっ、こいつ、何する!」
体力がキツくなってきた子供の一人が前にいた奴の服を引っ張る。
せめて邪魔をしてやろうという魂胆で、そのまま二人は殴り合いに発展する。
走りながら空気がピリつく。
誰が飛び出すか、誰が誰を妨害するか、全員が全員を警戒して牽制しあっている。
いつもよりもハイペースだが争いまで起こらない。
「……飛び出してやろうか」
もうすぐ山の頂上。
勝負を仕掛けるならここかもしれないとヨルは思っていた。
「……なんだ?」
ピリッと空気に何か不穏な気配が混ざった。
獣の殺気のような、まとわりつく嫌な雰囲気をヨルは感じ取った。
「先に行くぜ!」
二十三番の少年がグッと速度を上げる。
体に魔力をまとい、頂上まで一気に駆け抜けていく。
「へっ……これなら俺が一番……」
「おい、前!」
二十三番の少年が後ろを確認した。
ついてきている奴はいない。
それどころかみんな驚いた顔をしている。
ただなぜ、驚いた顔をしているのか。
二十三番の少年が前を向いたら、見えたのは赤と白。
「ああああああっ!」
何かの口の中、鋭い牙、認識できた時にはもうそれがなんだったのか気にすることもできずに、痛みにただ叫んでいた。




