16激しくなる争い3
「ぐあっ! ……くぅ!」
「なかなか面白かったぞ」
「……どうやって……いや、そもそもどうして急にお前の攻撃が当たるように……」
「簡単だよ。……こうか?」
ヨルが拳を突き出す。
すると魔力が放たれて十八番の青年の頬をかすめた。
「それは……」
「これと同じだよ。右の脇腹を狙った後、半歩踏み出して左で顔面を狙う。俺が旗をまっすぐ振り下ろすと、あんたは左に避けて顎を狙ってフックだ」
「…………まさか、あの短い時間に、俺の動きを読んだというのか!」
十八番の青年の顔が驚愕に染まっていく。
どうしてヨルの攻撃が当たるようになったのか。
簡単な話で、ヨルは十八番の青年の動きを先読みしたのであった。
どう動けば、どう動くのか。
戦いの中でそれを見抜いていた。
「俺の拳撃も……今マネをしたと、そういうことなのか……」
「なかなか便利そうだ」
「……バ、バケモノ……かよ」
「相手の技術だって奪う。面白いだろ?」
バケモノと言われてもヨルは笑う。
八番の少年の魔法をマネしたように、ヨルはとんでもない早さで相手の動きを学んでコピーし、マネをすることができる。
力を持った悪魔になってからはそんなことしなくなったが、少しずつ弱かった自分がのし上がっていった方法を思い出してきていた。
「俺からも一つ聞きたい。俺を殺すつもりはなかったみたいだな。旗が欲しかったのか?」
十八番の青年の攻撃は一撃必殺の威力があった。
しかし一方で殺気のようなものは感じられなかった。
ヨルを殺すつもりではなかったのだと感じていたのである。
「…………興味があった」
「興味?」
意外な答えにヨルは眉を上げる。
「一番……レオナがあんなふうになるなんて、どんな男かと思ってな」
「あいつのこと好きなのか? ならやめておいた方が……」
「そういうわけじゃない。あいつは俺たちの中でも抜きん出て実力がある。弱い奴には興味ないという変な女だ」
「まあ変だな」
「そんな女が興味を持つお前はどれほど強いのか……戦ってみたかった」
「ふーん……お前も変な奴なんだな」
強い奴と戦いたい。
ヨルにはそんな欲求はない。
雑魚に刃向かわれるのはムカつくが、踏み潰しやすい弱い方がいいに決まっている。
「だから殺す気はなかったのか」
「……負けたよ。殺すなら、殺せ」
「いーや、別に殺しはしない。そうだな……その旗はそのままくれてやるよ。ぜひ、恩に着てくれ」
トドメを刺すことは簡単だ。
しかしヨルは肩に刺した槍はそのまま、再び走り出す。
「大丈夫か、十八番?」
森の中から暗天の覚醒者が出てくる。
「……はい。うぅっ!」
十八番の青年は旗を掴んで肩から引き抜く。
「戻るまではどうにか耐えます……」
ここで治療を受けると旗は没収されてしまう。
十八番の青年は止められる前にと旗を杖代わりにしてヨロヨロと移動し始める。
「なかなか根性の座った奴だな。そして六番……あいつは何かのスキルを持っているな。もうすでにそれを使いこなしている」
暗天の覚醒者は十八番の青年の背中を眺めながら目を細めていた。
戦いを眺めている限りではヨルの方が負けると思っていた。
けれども結果は逆に終わった。
「…………一体なんのスキルなんだ?」
ーーーーー
子供たちの間に一度生まれた格差は埋まることなく、溝を深め続けている。
ご飯を食べられる子供、食べられない子供の差がはっきりと生まれ、暗天組と誘拐組は個室組と雑魚寝組という分かれ方になりつつあった。
ヨルを含めた上位の顔ぶれはほぼ固定。
旗を得られるか得られないかの境界線上では醜い争いが繰り広げられていた。
時に旗を増やしたり、旗以外でも飯にありつけるかどうかを決めるので誘拐された子供たちもだんだんと目をぎらつかせるようになってきている。
「も、もうだめだ……」
そしてとうとう、一人倒れた。
数日飯にありつけず、頬がこけてきていた少年は空腹に耐えかねて日中の武器訓練の最中に倒れて動かなくなったのである。
「連れていけ」
周りの子たちが困惑する中、暗天の大人が倒れた少年の足を掴んで無慈悲に引きずっていく。
そして、その子はもう二度と戻ってこなかった。
「ついてこられなければ死だ」
シノヤマが再度口にした言葉を、子供たちは胸に刻むしかなかったのだった。
その日を境に子供たちの空気はより悪くなっていった。
食事にありつくことができない子供が一人、また一人と減る。
さらには武器の扱いを学ぶ訓練では実際の武器を使っていて、事故で重篤な怪我を負った子供もいて、そうした子も帰ってこなかった。
この頃になると子供たちは新たなグループを作り始めた。
暗天と誘拐された子という垣根を超えて、なんとなくでも手を取り合えそうな子達がまとまっていく。
グループを作らないのは作れなかった奴か、作らない奴かのどちらかである。
「ギスギスしてんな」
「これが暗天の目的だもの。こうして人の心をすり減らし、何をするにしてもためらいのないように作り変えていく」
「もっと簡単に互いを殺し合わせりゃ楽なのにな」
「ある程度捨て駒にできるよう人数も必要なの」
レオナは何か特別なことがない限り、ずっとヨルの部屋にいる。
もはやいつものことなのでヨルも何かを言うのをやめていた。
「全員集合だ! 今すぐ!」
部屋中に暗天の覚醒者の声が響く。
「お呼びのようだ」
「残念……」
せっかくヨルとの時間だったのに、とレオナは少し怒ったような顔をする。
それでも流石に教官となっている暗天の覚醒者たちには今の所逆らわない。
ヨルとレオナは部屋を出て訓練に使っている広い部屋に向かった。




