5激しくなる争い2
「あいつ……二本持ってるぞ!」
他の奴らが気づいた時にはもうヨルはすれ違っている。
「流石ね」
「お前も二本持って行けばいいだろ」
「いやよ。重いし、二人分の朝食なんていらないし」
「そうか? 俺は食べ盛りだからな。二人分あっても困らない」
ヨルとレオナは軽く話しながら山を降りていく。
山を登るまででだいぶ体力は消耗しているが、旗さえ確保してしまえば焦ることもないので降りるのはそれほどキツさはない。
「おいっ!」
「ヨル!」
突然木の影から人が飛び出してきた。
胸に十八と書かれたがっしりとした体格の青年は、飛び出した勢いそのままにヨルのことを殴り飛ばした。
「こいつ……」
ヨルが木に叩きつけられ、さっきまでヨルと会話していて朗らかだったレオナの雰囲気が一変する。
「待て、レオナ」
「ヨル、大丈夫なの?」
「俺は大丈夫。むしろ……あんたの手の方が大丈夫か?」
「……ご心配どうも」
十八番の青年はもう中学生三年か高校生ぐらいの雰囲気がある。
少し顔をしかめて、殴りつけた拳がわずかに震えている。
木には叩きつけられたが、ヨルは殴られていなかった。
とっさに旗を拳の前に差し込んだ。
金属製の旗は軽く折れ曲がっていて、まともに殴りつけてしまったことがよく分かる。
殴った拳の方が痛かっただろうとヨルは思う。
「レオナ、先に行っててくれ」
「いいの? でも……」
レオナは心配そうにヨルのことを見る。
十八の青年のことをレオナは知っている。
レオナと同じく小さい頃から教育を受けていてきて、見た目にも分かるように体つきもいい。
折れてもおかしくないほどの勢いで旗を殴ったのに、それでも骨が無事だったのは魔力をまとっていたから。
魔力の量もヨルより遥かに多い。
「この世界も、悪魔の世界も同じだ。舐められたら終わりなんだよ」
ヨルは旗を十八番の青年に突きつける。
「先に手ェ出したのそっちだからな」
十八番の青年は腰を落として拳を構える。
それを見て、簡単な相手じゃなさそうだとヨルは感じた。
「行くぞ!」
十八番の青年がグッと地面を蹴り、ガードをしっかり上げながら迫ってくる。
「ふっ!」
ヨルは二本の旗を短い槍のように両手に持ち、十八番の青年の目を狙って突き出す。
十八番の青年は旗をかわし、ヨルに突っ込んで拳を振るう。
ヨルも頭を逸らしてかわすが、十八番の青年の拳は頬をかすめて皮膚が切れる。
「八番とは違うな」
「あんなのと一緒にされると困るな!」
十八番の一撃は小さくコンパクトなものだけど、風を切る音がハッキリと聞こえてくる。
当たればタダじゃ済まないことはヨルにも分かる。
ヨルは旗を振り回すけれど、十八番の青年は拳が届く距離を維持しながら攻撃をかわしていく。
「グッ……」
互いに攻撃が当たらない状態が続く。
そんな均衡を破ったのはヨルの方だった。
旗が十八番の青年の脇腹を捉えた。
脇腹を殴られて十八番の青年は顔をしかめる。
「うっ! な、なぜ……」
肩、足ときて、続く頭への攻撃は腕でガードする。
突然ヨルの攻撃をかわせなくなったと十八番の青年は困惑する。
一方で十八番の青年の攻撃はヨルに届かない。
「ほら」
「ぐあっ……!?」
十八番の青年が放った一撃を旗で受ける。
最初の奇襲で旗を殴りつけたところ全く同じところが衝突し、思わず痛みに声を漏らす。
やはり最初の一撃を旗で受け止めたダメージは、十八番の青年の拳に影響を残していたのだ。
「そろそろ……時間もないな!」
ヨルは旗で十八番の青年の頬を殴り飛ばす。
もうすぐ他の子供達も山を降りてくるだろう。
旗を得られなかった子供たちはなりふり構わず旗を奪おうとしてくるはずで、それに巻き込まれたら面倒なことになってしまう。
「ならこれで最後にしてやる!」
十八番の青年はヨルから距離を取る。
何をするのかと思ったら腰を低く下ろして、グッと拳をを引く。
もう片方の腕をまっすぐに伸ばして、まるでヨルに照準を合わせるように見据える。
「……喰らえ! 拳撃!」
十八番の青年の拳に魔力が集まる。
腰を回してヨルに向かって拳を突き出すと、拳の形の魔力が飛び出してきた。
「速い!」
まるで弾丸のように魔力の拳が飛んでくる。
受けるのは危険だとヨルの本能が叫ぶ。
かわすしかない。
「と、ま、れ!」
監視の大人もいるが、仕方ない。
ヨルは時間を止めた。
頭の中で時計の針が時を刻むような音が遅くなっていく。
周りの全ての動きが一瞬鈍くなったと思ったら、次の瞬間にはもう動かなくなっていた。
ヨルは魔力の拳をかわして、その前に出る。
三秒は待つに長く、何かをするに短い。
何をするのか、決めておいて行動せねばすぐにでも時は動き出す。
「なっ……」
十八歳の青年は何が起きたのか分からなかった。
魔法による一撃を放った。
余裕ぶって構えていたヨルにはかわせないような速度の一撃を放ったつもりだったのに、ヨルは目前に迫っていて、自分の魔法はヨルの後方にあった。
瞬きだってしていないはずだったはずで、しっかりと見ていたのにヨルはいつの間にか攻撃をかわしていたのだ。
「旗が欲しいならくれてやるよ」
ヨルは驚愕に目を見開く十八番の青年に向かって旗を振り下ろした。
肩に旗が突き刺さり、それでも勢いを止めずに力を込める。
槍の先が十八番の青年の肩を貫通して、痛みに体の力が入らなくなって後ろに転がるように倒れた。




