11暗天5
「グホッ!」
魔力を込めた一撃に、八番の少年は床を転がっていく。
「降参するか?」
ご自慢のデカ鼻を殴られて、八番の少年は鼻血を流す。
一撃終わらせるつもりだったのだけど、意外と持ち堪えられてしまった。
「この野郎……」
八番の少年は手についた鼻血を見て、怒りに震える。
「もう許さねえ……」
「奥の手があったのか」
八番の少年の魔力が赤く染まり、そして炎へと変化していく。
魔力をただの魔力としてではなく、状態を変化させて使う技のことを、世の中では一般的に魔法と呼ぶ。
魔力を上手く扱えているなとは思っていた。
けれども魔力を炎に変える魔法まで扱えるのは想定外だった。
「骨も残さず燃やし尽くしてやる! 死ね!」
八番の少年は殺気のこもった目でヨルを睨みつけると、手を前に突き出す。
手のひらに集められた魔力が赤く変わり、そして炎となって放たれる。
火炎放射器のように広がる炎を見て、ヨルに痛めつけられた少年はニヤリと笑う。
誘拐された子供たちは魔法に対して驚きと恐怖の感情を浮かべている。
そして旗取りで先頭を切って帰ってきたために1の数字を与えられた紫がかった髪の女の子は、とても冷たい目をして八番の少年の魔法を見ていたのだった。
「止めるつもりはない……か」
ヨルはチラリとシノヤマのことを見る。
魔法を使っても眉の一つも動かさない。
さらには炎がヨルに迫っていても助ける気配すらない。
助けてもらうなんて期待していなかった。
むしろ何も動かないというのは期待通りの動きである。
「はははっ! 俺のことを舐めるからだ! ふざけた面しやがって、顔が良いからって生き残れると思うなよ!」
ヨルが炎に飲まれていく。
誘拐された子供たちは人が炎に焼かれて死ぬ様を想像して顔を青くしているが、八番の少年は高笑いする。
「お前……分かってんだろうな?」
「えっ……」
八番の少年の後ろから声がした。
子供のものとは思えない、凄みのある声に八番の少年はゾクリとしたものを感じた。
「お前は俺を殺そうとした。じゃあ……俺もお前を殺してもいいよな?」
「なっ……!」
八番の少年が振り返り、手を伸ばす。
「遅いよ」
ヨルは伸ばされた手の中指を掴んで、曲がらない方向に無理矢理曲げてしまう。
鈍い音がした。
「ああああああっ!」
八番の少年の後ろに現れたヨルは全くの無傷だった。
無惨に折れ曲がった指を押さえて痛みに叫ぶ八番の少年を、ヨルは笑いながら見下ろしていた。
「俺の魔力の量じゃ……これが限界かな?」
ヨルは痛みに泣き喚く八番の少年の顔面を鷲掴みにする。
八番の少年に比べてヨルの魔力は少ない。
それでも手に魔力をかき集める。
魔力が赤く染まり、八番の少年の目が大きく見開かれる。
「まっ……」
「残念ながら、骨も残らないようには難しいな」
ヨルの魔力が炎に変わる。
「ぎゃあああああっ!」
八番の少年の顔が燃える。
一瞬で燃え広がって頭全体が炎に包まれる。
ヨルがそのまま手を突き出して八番の少年を押し倒す。
「……まだそいつ降参してませんよ?」
トドメを刺そうとしたヨルの前にシノヤマが立ちはだかる。
ヨルが余裕の表情のままシノヤマを見上げる。
「戦闘不能だ」
シノヤマが手を振ると、強い風が起きて八番の少年の炎を消し飛ばす。
降参はしていないが、もはや戦いを継続できないことは一目瞭然であった。
「誰か! 八番を治療してやれ!」
シノヤマが部屋の外に声をかけると何人かの大人が飛び込んでくる。
「何が……」
「早く治してやれ! じゃないと死んでしまうぞ!」
頭がひどく焼け爛れた八番の少年を見て、大人たちも顔をしかめてしまう。
しかし状況を把握する前に、瀕死の八番の少年を治すことが優先だと背負ってどこかに連れていく。
「俺の勝ち……ですよね?」
「……ああ、そうだ」
「昼食ゲット」
ヨルは機嫌良さそうに笑顔を浮かべる。
悪魔だった時は食事になんて興味なかったが、人の身になって美味いものを食べるのも悪くないと思っていた。
「六番、一つ聞かせろ」
「なんですか?」
「魔法は……最初から使えたのか?」
ヨルが手のひらを燃やしたのも魔法である。
八番の少年が奥の手として魔法を隠していたように、ヨルも力を隠していたのかシノヤマは気になった。
「いいえ。あいつの魔法を見て、マネしたんです」
ヨルはさらりと答える。
「……そうか」
残虐性が今は目立っているようだが、魔法に対する高いセンスがある。
もしかしたらバケモノを育て始めてしまったのかもしれない。
そんな予感がシノヤマの中に小さく芽生えたのだった。




