10暗天4
「さぁて、行こうか。何が起こるのか……ちょっと楽しみになってきた」
くすんだ窓ガラスに映る歪んだヨルの笑顔。
今はまだ朝であり、旗をとってきただけで終わりとはならない。
子供たちは広い部屋に集められた。
朝食抜きとなった子たちはもうかなりゲンナリした顔している。
「まず言っておこう。旗以外にもこうした争いをいくつか用意している。死にたくなければ必死になることだな」
シノヤマは魔力を放ったまま、後ろで腕を組んで子供たちを見下ろす。
「そしてもう一つ。旗の数は定期的に減っていく。明日も同じ数あると思うなよ」
旗の数を見越してギリギリで行動すれば余計な消耗は避けられる。
しかしどこかのタイミングで旗が減ると、ギリギリで脱落することになる。
そうならないように上を目指せ。
徹底的に子供たちを追い込んでいくつもりなのだ。
「これからお前らには武器の扱いを学んでもらう。剣や槍、斧、ナイフ、杖、弓矢、それに素手もだ。ありとあらゆるもので戦えるようになってもらう」
ヨルは思わず笑ってしまいそうだった。
「他にも魔力の使い方、魔法、人を効率的に倒すための方法、潜入のための技術などを叩き込む」
いいじゃないか。
そう思った。
「成績優秀ならこれをやる」
シノヤマは胸ポケットから小瓶を取り出した。
小瓶の中には青い液体が入っている。
「魔力増強薬だ。これを飲めば魔力が増える。いわゆる……霊薬などと巷で呼ばれるものだ」
学校よりもよほど楽しく、有意義な授業だ。
さらにはご褒美まである。
ヨルはニヤついてしまいそうな顔を引き締める。
誘拐された子たちはとても不安そうにしているが、くだらないお勉強をさせられるより遥かにここはヨルのためになりそうな場所だった。
「ご褒美はよほどの時じゃないと出せないがな。他にもアーティファクトなんかもある」
最高だ!
そんなふうに叫びたい気分。
なんだ、暗天というのは良い奴らじゃないかとヨルはニヤける口元を手で押さえて隠した。
「まずは昼食をかけよう」
シノヤマは指で弾いて小瓶を跳ね上げ、キャッチして胸ポケットに入れる。
「お前らに戦ってもらおう。相手を指名して戦い、勝った方が昼を食べられる。シンプルなルールだ」
「本当、良いルールだな」
分かりやすい。
よく分からないことをさせられるよりよっぽどいい。
「はい!」
「なんだ?」
「あいつとやらせてください!」
胸に8と数字が書かれた少年が手を挙げる。
そしてヨルに向けて指を伸ばす。
「……俺?」
よく見ると8の少年の隣にどこかで見た奴がいると気づいた。
それはヨルの旗を奪おうとして逆にやられた少年であった。
何かをヒソヒソと耳打ちしている。
「チッ……仕返しか?」
自分じゃ敵わないからって人にやらせようとしている。
その意図はすぐにわかった。
別にいいが、性根の悪さはムカつく。
人に向けた悪意ならともかく、自分に向けられると何でもムカつくものである。
「よし、出ろ」
ヨルに拒否権なんてないようだ。
前に出るように手招きされて、ヨルと8の少年は前に出る。
「お前、調子に乗ってるそうだな」
「いや、常に絶好調なだけだよ」
「チッ! ムカつく顔してんな!」
「悪かったな、イケメンで」
「誰もイケメンだとは言ってねえよ!」
8の少年は鼻がデカい。
ヨルの整った顔とは比べ物にならないのはしょうがない。
やれやれと肩をすくめてやると8の少年は顔を赤くして、拳が怒りに震えていた。
「まっ、好きなタイミングで始めろ。降参するか、戦闘不能になったら終わりだ」
「ぶっ殺してやる!」
8と書いてあるということは、八番目に戻ってきたということ。
そんな早さで戻ってきた8の少年も当然メシをもらっている。
要するに、元気いっぱいなのだ。
「速いな」
8の少年がヨルに殴りかかる。
思っていたよりも8の少年の動きは速く、ヨルはギリギリのところで拳をかわした。
「ちょこまか逃げてんじゃねえよ!」
8の少年が拳を振り回し、ヨルはひょいひょいと回避したり拳を受け止めたりする。
殴ることに躊躇いはない。
ただ人と戦うことにあまり慣れているような感じではない。
拳には魔力がまとわれていて、殴られると痛そうではあった。
「これでマナベの言っていたことが分かるはずだ。ただのガキかどうか」
シノヤマは腕を組んで戦いを見守る。
ヨルが本当に何かの才能を秘めた子供なら、この戦いでその片鱗が見えるかもしれないと少し期待をしている。
「いい加減……ブッ!」
「ならこっちも行かせてもらうぞ」
かわしているのも飽きた。
特別何か奥の手もなさそうなのだ。
ヨルも反撃することにした。
魔力を込めない拳で8の少年の頬を軽く殴った。
「こんなもん……いくら殴られたって倒れねえよ!」
殴られたところがほんのりと赤くなる。
それでも痛みらしい痛みもほとんどなく、8の少年は攻撃を続ける。
ヨルは8の少年の攻撃をかわしながら、隙を見つけて反撃を加えていく。
しかしどの攻撃も軽く、8の少年の勢いは止まらない。
「……ふざけてんのか!」
明らかに本気で殴っていない。
これだけ攻撃されれば8の少年もそのことを察した。
怒りを吐き出しながら大きく振られた拳は、相変わらずヨルに届かない。
「そりゃ、だってつまんないだろ?」
「はぁ?」
「食後の運動、さっさと終わらせたらさ」
ヨルがニヤリと笑う。
いつもなら自分でトレーニングをしている。
そうできないのだから何か代わりにするしかなく、今代わりにできるのは8の少年との戦いだけだ。
「こいつ……!」
遊ばれていた。
8の少年の怒りは頂点に達した。
「まっ、そろそろ終わらせるか」
ヨルは髪の毛が掠めるほどギリギリで8の少年の拳をかわした。
そしてお返しに魔力を込めた拳を顔面に叩き込む。




