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定刻、指令員が異世界転生してダイヤで滅びゆく世界を救って終電で帰る  作者: もしものべりすと


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第九章 初運行と地響き

正式運用初日。


セルヴァン旧分岐駅は朝から人で溢れていた。


噂を聞きつけた野次馬。

取引予定の商人。

カイレンの部下たち。

工房の弟子たちと家族。


そして

ティアリス。


純白の祭服を纏い

胸に小さな鉄の歯車を提げている。


ガルドが鍛えてくれた魔石起動用の祭具だ。




「真也」


カイレンが俺に駆け寄ってきた。


「定刻通り出発できるできるできるよね」


「俺の仕事は定時運行だ」


俺は淡々と答えた。


カイレンが小さく笑った。


「あんたって本当ブレないね」


「それしか取り柄がない」


「いや今日のセルヴァンでそれが一番カッコいい」




出発時刻が近づく。


俺は運転台に上がり

業務手帳を開いた。


今日のダイヤ。


セルヴァン旧分岐駅 午前八時発

夜越え山脈通過 午前九時十分

ヴァランツ町到着 午前十時着

復路同日午後便


たった一往復。

たったそれだけのダイヤだった。


しかしこの一往復が

鉄路復活の歴史の始まりになる。




俺は信号を確認した。


ホーム端の旗持ちが

合図の青旗を上げる準備をしている。


ガルドが車輪の最終点検を終え

親指を立てた。

ティアリスが祭壇の前で祈りを始めた。

魔石が淡く光り出す。


「動力 よし」

「ブレーキ よし」

「進路 よし」

「巫女祈祷 よし」


俺は指差喚呼で順に確認した。


そして最後の一言を

低く呟いた。


「出発進行」


旗が振り下ろされた。




クロノ・エクスプレス号は静かに動き出した。


最初の数メートル。

ホームの観衆が息を呑む。

やがてゆっくりと拍手が起きた。

拍手は歓声に変わった。


「行ったぞ」

「動いてる」

「奇跡だ」


俺は窓から外を見て小さく頷いた。


奇跡ではない。

仕組みだ。


そう

心の中で繰り返した。




機関車は順調に山脈の入口まで走った。


そこから先は復旧区間。

ガルドが二週間かけて整えた線路だ。


慎重に速度を落とし

継ぎ目を一つずつ越えていく。


「真也さん」


ティアリスが運転台の隅から声をかけてきた。


「私が祈っている間あなたは何を考えていますか」


「考えてない」


「考えてないですか」


「ダイヤを守ることだけ考えてる。余計なことを考えると事故が起きる」


ティアリスは静かに微笑んだ。


「あなたは透明な人ですね」


「透明って」


「真っ直ぐということです」




山脈の中腹に差し掛かった時

空気の色が変わった。


茜から

紫へ。


裂世の前兆だった。


しかも昼間。


「来ます」


ティアリスが警告した。


「分かってる」


俺はマスコンに力を入れた。


クロノ・エクスプレス号は速度を上げる。


時速七十

八十

時速九十。


線路の継ぎ目が悲鳴を上げる。

車体が軋む。


裂世の歪みが線路の脇まで迫った。

岩がドロドロと溶け

木々が斜めに伸びていく。


しかし

線路の上は

無傷だった。




「これは……」


カイレンが運転台の窓に張り付いて呟いた。


「結界とかじゃないよね鉄路そのものが守ってるの」


「鉄路の運行下では時間の歪みが整流される」


俺は冷静に答えた。


「定時で正確に鉄道が走り続ければその周囲の時間軸が安定する。古代王国はこれを大規模に運用していた」


ティアリスの祈りが

強い光を放った。


魔石が脈打ち

車体全体が琥珀色に輝く。


クロノ・エクスプレス号は

裂世の中を駆け抜けた。




山脈を出た先。


俺たちは速度を緩めた。


向こうの山肌に

ヴァランツの町並みが見える。


赤い屋根の家々。

白い城壁。

高い鐘楼。


機関車は最後の坂を下り

ゆっくりとヴァランツ駅に滑り込んだ。




駅とは名ばかりの

古い石積みのホームだった。


しかしそこには

ヴァランツの町長と

町の住民

そして領主の代理人が並んでいた。


噂を聞きつけて

昨夜から待ち構えていたらしい。


「奇跡だ」


町長が震える声で叫んだ。


「祖父の祖父の代の話に出てきた魔導列車が……本当に動いてセルヴァンから二時間で来た……」


住民たちは泣いていた。


これまで

夜越え山脈の向こうへ生きて行けるかどうか

誰もが祈る思いだったのだろう。


俺は運転台を降り

深く礼をした。




ヴァランツの町長は俺の手を強く握った。


「貴方は何者ですか」


俺は微笑んだ。


「ただの指令員です」


「シレイイン」


町長は涙を拭いながら

その言葉を覚えるように繰り返した。




帰路のクロノ・エクスプレス号には

ヴァランツの特産品が満載された。


干し葡萄。

銀細工。

薬草。

珍しい果実。


セルヴァンに着く頃には

日が傾いていた。


旧分岐駅では

カイレンの部下たちが歓声を上げて貨物を迎えた。


「真也歴史を作ったよあんた歴史を作った」


カイレンは俺に飛びついた。


俺は彼女を慌てて押し戻した。


「歴史を作ったのは皆だ。俺はダイヤを守っただけだ」


ティアリスが俺の隣で笑った。


「あなたはいつもそう言いますね」




その日の夜。


俺は宿屋の二階で

業務手帳に運行記録を書いていた。


セルヴァン発 定時

ヴァランツ着 定時

復路 定時

事故ゼロ

裂世遭遇一回 通過成功


筆を置いた時

ドアを叩く音がした。


「真也さん」


ティアリスの声だった。


「入っていいですか」


「ああ」


彼女は静かに入り

俺の前に座った。


ろうそくの灯りが二人を照らしている。


「真也さん。明日セルヴァン伯と司教の使いが訪ねてきます」


「司教の」


「はい。それともう一つ」


ティアリスは

胸元から畳まれた羊皮紙を取り出した。


「王都アルマンディアから正式な召喚状が届きました」




羊皮紙には

紫の蝋封印が施されていた。


俺は震える指で開いた。


達筆な古代文字。


内容は短い。


『鉄路の救世主タカギ・シンヤを国王の元へ招く』


俺は深く息を吐いた。


これから

舞台は王都に移る。


ようやく入った勝負どころで

俺はまた業務手帳を開き

新しい一ページに

こう書いた。


王都への移動ダイヤ 明朝検討開始

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