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定刻、指令員が異世界転生してダイヤで滅びゆく世界を救って終電で帰る  作者: もしものべりすと


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第十章 王都の歓迎 欺瞞の影

王都アルマンディアまで

俺たちはクロノ・エクスプレス号で向かった。


途中の旧線路を急ピッチでガルドの工房が修復してくれた。

普通なら馬車で十日。

鉄路ならわずか二日。


景色が違った。


セルヴァンの石造りの街並みから

広がる麦畑

丘の上の風車

川沿いの小村

やがて遠くに王都の尖塔が見えてくる。




「真也あれが王都」


カイレンが窓に張り付いた。


「あたしも初めて。セルヴァンの商人は普通王都まで行けないんだ」


「これからはそういう常識が変わる」


俺は静かに答えた。


ティアリスは無言で

胸の歯車を握りしめていた。


ガルドは座席で腕を組み

何かを呟いていた。




王都アルマンディアは

俺の想像を遥かに超えていた。


円形の都市。

中心に王城。

そこから放射状に大通りが伸びている。


城壁の高さは見上げるほど。

門は三重。

警備兵が物々しく立っている。


クロノ・エクスプレス号は

旧王宮鉄道線の終端駅

中央指令所跡のホームに滑り込んだ。




俺たちが降り立った瞬間

ホームで歓声が上がった。


近衛兵

廷臣

神官

そして青いマントを纏った一人の男。


国王アルマンディア・ヴェルニアス二世。


俺は事前に教えられた礼の作法に従い

膝を折った。


「面を上げよタカギ・シンヤよ」


国王の声は意外と若く

よく通る声だった。


四十代前半。

銀の冠を頂き

柔和な笑みを浮かべている。


「貴公の働きすでに王国全土に伝わっている。鉄路を再び動かし裂世の中を生きて帰った救世主の旅人」


「過分なお言葉です」


「謙遜は無用。夕餉に正式に歓迎の宴を催す。それまで賓客の館で休まれよ」




賓客の館は

王城の南翼にあった。


天井の高い客間。

ふかふかの絨毯。

窓からは王都の街並みが一望できる。


ガルドは「こんなとこじゃ寝られんわい」とぼやきながらも

ベッドの上で大の字になっていた。


カイレンは「うわうわすごっ」と部屋中を歩き回った。


ティアリスは静かに祭壇の前に座り

胸の歯車に手を当てた。




俺は窓辺に立ち

業務手帳を開いていた。


何かが引っかかる。


国王の歓迎ぶりが

あまりに完璧すぎる。




宴は夜から始まった。


大広間。

無数の蝋燭。

銀の食器。

何十種類もの料理。


王侯貴族

神官

商人の代表

そして外国の使節までもが集っていた。


俺たちは国王の左手に席を与えられた。


「タカギ卿」


国王が俺を呼んだ。


「卿というのは適切ではないか。今宵貴公に新たな称号を授ける」


ざわめきが広がる。


「王国鉄路統括官タカギ・シンヤ。セルヴァンの巫女ティアリスは正式に時辰の巫女に任命する。カイレン殿は商業大臣補佐に。ガルド殿には王室工房師の称号を」


俺たち四人は同時に膝を折った。




宴は続いた。


楽士が音楽を奏で

酒が回り

夜は更けていく。


俺はワインを少しだけ口にして

あとは皿に手を伸ばさなかった。


何かが引っかかっていた。




宴の途中。


俺はトイレに立つふりをして大広間を出た。


廊下を歩く。

給仕の少年が深々と頭を下げる。

俺は会釈だけ返す。


長い回廊を抜けた先。

東翼の小部屋の前で

俺は足を止めた。


中から低い声が漏れている。


「彼はあくまで道具だ」

「鉄路が完成しダイヤの全体像が見えた時点で処分する」

「教会の枢機卿カスティラ猊下とも合意済みだ」


俺は息を殺した。


声の主は

王の側近の宰相だった。




俺は冷静に部屋の前を離れ

何事もなかったように大広間に戻った。


席に着く時

ティアリスが俺の様子を見て眉をひそめた。


「どうかしましたか」


俺は静かに首を振った。


「いや食べ過ぎただけだ」


ティアリスは納得しなかったが

それ以上は聞かなかった。




宴の後。


俺は客間の窓辺に座り

業務手帳に書き付けた。


王国の鉄路は

俺が完成させた後に俺は処分される。

教会と王国の癒着。

カスティラの名。


業務手帳のページに

俺は静かに線を引いた。


退避のダイヤ。

逃走のダイヤ。


最悪を想定するのは

指令員の基本動作だ。




扉が静かに開いた。


ティアリスだった。


「真也さん」


「ああ」


「私あなたに隠していたことがあります」


俺は手帳を閉じた。


ティアリスは俺の前に座り

両手を膝の上で握りしめた。


「始原のダイヤを完全起動するためには時辰の巫女の命が必要です。それが古代王国の儀式の前提でした」


俺は息を呑んだ。


「お前それを知っていて」


「はい。私は生まれた時からそのために育てられました。逃げる気はありません」


ティアリスはきっぱりと言った。


「だから、真也さん私を助けようなどとは思わないでください」


俺は黙った。


業務手帳の上で

俺の指は震えていた。


ティアリスは静かに微笑み

部屋を出ていった。




俺はその夜

眠れなかった。


朝が来るまで

業務手帳に何度もダイヤを引き直した。


ティアリスを助けるダイヤ。

俺たちが生きて逃げるダイヤ。

そして

王国と教会を出し抜くダイヤ。


明け方

俺は手帳の余白に

こう書き付けた。


巫女の命を犠牲にしない儀式起動方法

要検討。


その時点で

俺は決めていた。


ティアリスを死なせない。

そして自分も生きて帰る。




翌日

俺は王都の中央広場に出た。


王城から少し歩いた場所に

古い鉄路の遺跡があった。


千年前

王宮鉄道線のターミナル駅があった場所。


今は石碑だけが残り

通行人は誰もそれを気に留めない。


俺は石碑の前に立った。


刻まれた古代文字。

ティアリスに教えてもらい

読める文字が少しだけ増えた。


『時を整え世を運ぶ』


千年前

この国の鉄道員が掲げていた標語だった。




石碑の前にしゃがみ

俺は手帳を開いた。


そこに同じ言葉を日本語で書き写した。


「時を整え世を運ぶ」


俺は声に出して呟いた。


「鉄道屋は時刻を整え社会を運ぶ。千年経っても俺たちの仕事の本質は変わらないな」


近くを通りかかった老婆が

俺の呟きを聞きつけて足を止めた。


「あなた様鉄道の方ですか」


「ええ」


「私の祖父もかつて王宮鉄道の機関手をしておりました。家系から鉄路の話を聞くと胸が苦しくなります」


老婆は深く頭を下げた。


「鉄路を取り戻してくださりありがとうございます」


俺は黙って頭を下げ返した。


老婆は涙ぐみながら去っていった。




昼前

王城の貴賓室で

俺は各国の使節と顔を合わせた。


南方のクラリス諸侯国の特使。

東方のサンサルバン王国の大使。

北方のアレマンノ自由市の代表。


三人とも

鉄路復活の噂を聞きつけて

わざわざ王都まで来たという。


クラリスの特使が深く頭を下げた。


「タカギ殿。我が国にも鉄路の遺跡が残っております。ぜひ復旧のご助力を」


「お話を伺いましょう」


俺は短く答えた。


「ただし、順序があります。まずアルマンディア王国内の路線を完成させてから。それから順次他国へ。一度に手を広げると全てが中途半端になります」




サンサルバンの大使が顎を撫でた。


「タカギ殿。率直に伺いたい。あなたは本当にただの旅人ですか」


「ええ」


「失礼ですがあなたの政治判断と組織運営の能力は一国の宰相に匹敵する。どこで学ばれた」


俺は静かに笑った。


「特別なところでは。ただ毎日鉄道のダイヤを引いていただけです。ダイヤを引くというのは時間と空間と人と物を全部一枚の図面に整理する作業です。そこに政治も経済も組織運営も全部含まれている」


大使は唸った。


「ダイヤ一枚の図面が全てを包む……深い言葉だ」




アレマンノの代表が立ち上がった。


「タカギ殿。我が国は自由市連合です。複数の都市が連携しております。連携の難しさは首都を持たないことに由来する。タカギ殿の鉄路網に我々を加えていただければ連邦の結束が深まる」


「いずれ参ります」


俺はそう約束した。




使節たちが退室した後

俺は貴賓室の窓辺に立った。


王都の街並み。

塔と尖塔。

広場の噴水。


俺はここを離れる日が来ることを

すでに予感していた。


その時

扉が叩かれた。


「タカギ卿。王と私的な茶会のご依頼が」


俺は頷いた。




国王の私室は意外と質素だった。


机と本棚と窓辺の椅子。

壁には王家の紋章ではなく

古い大陸地図が掛けてあった。


国王は俺に椅子を勧めた。


「タカギ殿。率直に伺いたい」


「はい」


「貴公は王国に永住する気はあるか」


俺は少しの間

言葉を選んだ。


「私には帰る場所があります」


「帰る場所」


「ええ。私の世界にも私を必要とする人々がいます」


国王は静かに頷いた。


「そうか。無理は言わない。ただ貴公がここにいる間は王国の力を最大限に貸そう」


「ありがとうございます」




国王は窓の外を見た。


夕暮れの光が街並みを照らしていた。


「タカギ殿。余は若い頃ある夢を見た。大陸の全ての都市がたった一日で結ばれる夢だ。笑われたよ。そんなのは古代の幻想だと。しかし貴公が現れた」


国王は俺を振り向いた。


「貴公はその夢を現実にしようとしている」


俺は深く頭を下げた。


「夢を見続けたあなたが俺の夢の入口を開いたんです」


国王は柔らかく微笑んだ。




しかし

その柔らかい笑顔の影で

俺はすでに知っていた。


宰相と教会の陰謀。

俺を道具として使い

処分しようとする計画。


国王自身は気付いていないのか

それとも気付いていて見て見ぬ振りをしているのか。


それは分からなかった。


俺は丁寧に礼をして

私室を辞した。




廊下を歩きながら

俺はもう一度業務手帳を握りしめた。


最悪を想定するのは

指令員の基本動作。


俺は冷静に

逃走のダイヤを脳裏に引き続けていた。

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