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定刻、指令員が異世界転生してダイヤで滅びゆく世界を救って終電で帰る  作者: もしものべりすと


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第十六章 最終運行整理 開始

作戦当日。


夜半過ぎに俺たちは動き出した。


王都の南方

旧王宮鉄道線の地下分岐。


煉瓦造りの隧道は半ば崩落しているが

人が通れる程度の隙間は残っていた。


ティアリス

カイレン

ガルド

そして精鋭十数名。


総攻撃の主力は別動隊として地上で動き

俺たちは少数で中央指令所に潜入する。




「真也」


隧道の入口でカイレンが俺の腕を掴んだ。


「あんたが死んだら許さないから」


「死なない」


「絶対」


「絶対」


俺は短く答えた。


ガルドが俺の背を叩いた。


「ワシらの背中はワシらで守る。お前は前だけ見ろ」


ティアリスは何も言わず

俺の手にそっと触れた。

彼女の指は冷たかった。

しかし

強い意志がそこにあった。




俺たちは隧道に踏み込んだ。


水滴が天井から落ちる。

コウモリの群れが頭上を掠める。

古代の文字が壁に刻まれている。


俺は前を歩きながら

業務手帳を片手に進路を確認した。


王宮鉄道線の図面は俺の頭に入っていた。

ガルドが先程地図を見せてくれたから。


「分岐ろし よし」

「進路右 よし」

「岩盤崩落区間 迂回 よし」


俺は指で壁を差し

声に出して確認しながら進んだ。


仲間たちが俺の真似をした。


「岩盤崩落区間 迂回 よし」


仲間たちの声が隧道に響き渡った。


俺は思わず微笑んだ。


仲間が皆

指差喚呼を覚えていた。




一刻ほど歩いた頃。


隧道の終点に到達した。


煉瓦の壁に

鉄の扉が嵌め込まれている。


千年前の中央指令所の搬入口だ。


ガルドが鎚を取り出した。


「ワシに任せろ」


ドワーフの鍛冶師は無音で扉の蝶番を外した。


ものの数分で

扉が音もなく開く。


俺たちは中に滑り込んだ。




中央指令所は

俺の想像を超える広さだった。


天井は丸い円蓋。

壁一面が

古代文字と銀の線で覆われている。


そして中央。


巨大な石板。


縦軸に大陸の全駅名。

横軸に時刻と日付。

斜めに走る無数の銀の線。


これが

始原のダイヤだった。


全大陸の運行を制御する

世界最大のダイヤ図。


俺は息を呑んだ。




「真也さん」


ティアリスが囁いた。


「あなたなら読めますか」


俺は石板に近づいた。


文字は古代文字だが

構造は俺たちが日々扱っているダイヤと同じだ。


縦軸は駅。

横軸は時刻。

線は列車。


俺は石板の上を指でなぞった。


「読める」


仲間たちが息を呑んだ。


「全駅の運行を再開させる順番がここに記録されている。順番通りに各地で列車を出発させれば世界の運行が整流される」




しかし

俺が石板を読み始めた時。


扉の向こうから足音が響いた。


教会軍が侵入経路を察知した。




「来たぞ」


ガルドが鎚を構えた。


「兄ちゃん。お前は石板から離れるな。ワシらが時間を稼ぐ」


「ガルドさん」


「死ぬなら鎚を振るって死ぬのが鍛冶屋の本望じゃ」


ガルドは扉の方へ大股で歩いていった。


カイレンも短剣を抜いた。


「あたしも残る。真也あんたはダイヤを起動して」


ティアリスは祭壇の前に膝をついた。


「祈ります。皆さんを守るために」




外の混乱の中で

俺は石板に向き合った。


業務手帳を開く。

鉛筆を握る。

指で石板の線をなぞる。


縦軸を確認。

横軸を確認。

出発駅を確認。


各地の同時運行のタイミングを計算する。

セルヴァンが八時。

ヴァランツが八時三分。

南部の小都市が八時七分。

北方の大規模駅が八時十二分。


ずれが一秒でも生じれば

ダイヤは崩れる。




通信担当の魔石を握る。


「セルヴァン待機。ヴァランツ待機。南北各支線待機」


通信魔石が応答する。

全大陸の歯車が

俺の指令を待っている。




俺は深呼吸した。


そして

業務手帳の最後のページに

こう書いた。


『最終運転整理開始全大陸の歯車に告ぐダイヤ通り運行せよ』


俺は鉛筆を置いた。


そして指差喚呼を始めた。


「中央指令所 起動準備 よし」

「魔石動力 よし」

「巫女祈祷 よし」

「全地区連絡 よし」

「最終運転整理 開始」




外で爆発音がした。


扉が破られたのか

ガルドが応戦した音か

分からなかった。


俺は石板に最後の一行を書き加えた。


セルヴァン発 第一便 定刻八時。


魔石が脈打った。


光が石板から伸び

天井の円蓋を駆け抜けた。


光は隧道を抜け

王都の地下を貫き

そして地上へ

全大陸へ

広がっていった。




セルヴァン旧分岐駅。


ホームの先頭で待機していた老機関士が

通信魔石から俺の合図を受け取った。


「セルヴァン発 第一便 定刻八時」


老機関士は震える声で復唱した。


「発車進行」


そして

クロノ・エクスプレス号の予備機関車が

ゆっくりと動き出した。


ホームには

セルヴァン伯

カイレンの部下

ヴァランツの代表者

そして街の住民が集まっていた。


機関車が走り出した瞬間

歓声が天を衝いた。




ヴァランツでも。


町長が町の中央広場に立ち

通信魔石を握っていた。


「タカギ卿。の合図」


町長が叫んだ。


「ヴァランツ発 貨物便 定刻通り」


ヴァランツ駅から

別の魔導機関車が動き出した。


それは

ガルドの工房が二号機として組み立てたものだった。

試験運行さえ済んでいなかったが

今夜この瞬間

全大陸の同時運行のために動かす必要があった。


機関手は緊張で手が震えていた。

しかし

町長の合図に従い

マスコンを握った。


「発車進行」


二号機が滑り出した。


ヴァランツの住民たちが

歓声を上げて見送った。




南方クラリス諸侯国。


廃線跡を急ピッチで修復していた現地のドワーフ職人団が

通信魔石を握った。


「タカギ卿。の合図」


現場監督が叫んだ。


「南方鉄道試運転車両発車」


クラリスでは魔導機関車こそないが

古い手押し車両を改造し

人力で走らせる試みを始めていた。

それでも

鉄路を走る車両が必要だったのだ。


数十人の職人が車両を押し

線路の上を歩き始めた。


これも立派な運行。


光が線路を走り

彼らの足元から災厄の歪みを払った。




東方サンサルバン王国。


宮廷の専門家たちが

古代の魔導機関車を一晩で復元していた。


「タカギ卿。の合図」


専門家のリーダーが復唱した。


「サンサルバン発試験走行」


サンサルバンの機関車が

古い線路を走り始めた。


王宮の窓から

国王自らが機関車を見送った。




北方アレマンノ自由市。


連邦議会が緊急議決を下し

鉄路復活を正式に承認した直後だった。


連邦の機関士が

集まった代表者たちの前で復唱した。


「タカギ卿。の合図」


「アレマンノ連邦鉄道発車」


連邦の機関車が

自由市群を結ぶ線路を走り始めた。


各都市の住民が

家の扉を開けて出てきて

列車を見送った。




そして大陸全土で

同じ瞬間

全ての列車が定刻に発車した。


千年ぶりの

全大陸同時運行。


地に伏せていた鉄路の歯車が

ようやく

ゆっくりと

回り始めていた。




俺は中央指令所で

通信魔石から続々と入る報告を聞いた。


「セルヴァン発車確認」

「ヴァランツ発車確認」

「クラリス発車確認」

「サンサルバン発車確認」

「アレマンノ発車確認」


俺は石板を見上げた。


銀の線が

脈動するように光っていた。


世界の歯車が

今この瞬間

全部

噛み合った。

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