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定刻、指令員が異世界転生してダイヤで滅びゆく世界を救って終電で帰る  作者: もしものべりすと


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第十五章 集結 中央指令所

三日後。


俺たちは廃駅から動き始めた。


カイレンの連絡網で

セルヴァン

ヴァランツ

ガルドの工房

そして大陸南部の小さな商業都市まで

鉄道員と商人と工房師たちが集まり始めた。


総勢約二百人。


決して大軍ではない。

しかし

全員が

何らかの形で鉄路を支えていた者たちだった。




俺たちは王都南方の旧操車場跡で合流した。


操車場というのは

列車の入れ替えや組み換えを行う場所。

かつての王宮鉄道の心臓部の一つだった。


ここは教会軍の警戒網の外側にあり

裂世の災厄が及んでいない最後の安全地帯だった。




集結した者たちを前に

俺は業務手帳を開いた。


「皆さん」


俺は静かに語り始めた。


「これから話すのは全大陸の鉄路を再起動する作戦です」


集まった者たちが沈黙した。


「俺はただの指令員です。皆さんに命令する立場ではない。でも俺がダイヤを引き皆さんがそれに合わせて動けば世界は救えます」


セルヴァンから来た老機関士が口を開いた。


「タカギ殿。我々は鉄路を扱える。だが大陸全土を動かす経験などない」


俺は頷いた。


「分かっています。だから俺はダイヤを各地区別に分割します。各地区の責任者が自分の地区の運行だけ集中して管理する。全体の同期は中央指令所が取る」


「中央指令所はどこに」


「王都の地下です。これから取り戻します」




集会場に低いざわめきが走った。


王都地下。

そこは教会軍の本拠地。


突入すれば犠牲が出る。


カイレンが俺の隣に立ち

場を整えた。


「皆さんあたしから言わせてもらう。教会は鉄路を壊して災厄を加速させた。これは自然災害じゃない。人災だ。放っておけばあたしらの故郷も次々と消える。戦うしかないんだ」


ガルドが続けた。


「ドワーフ族は親父の代から待っとった。鉄路が再び動く日を。今こそ鎚を振るう時じゃ」


ティアリスが進み出た。


「巫女衆は全員が祈ります。鉄路に祝福を。皆さんに加護を」


俺は深く頭を下げた。


「皆さんの力を貸してください。俺一人では何もできない。歯車は揃ってこそ世界を回します」




集会場から

ゆっくりと拍手が起きた。


最初は遠慮がちに。

やがて

歓声に変わった。


「タカギ卿。我々もやりましょう」

「鉄路を取り戻すんだ」

「あの呪われた連中に思い知らせてやろう」


俺は涙を堪えた。


俺はずっと

歯車という言葉を

自分への侮辱として聞いてきた。


でも今

俺は誇りを持って言える。


俺は歯車だ。

そして

ここに集まっているのも

歯車だ。




俺たちは作戦を整えた。


第一段階 地下鉄道専用通路から王都中央指令所へ侵入。

第二段階 始原のダイヤを起動。

第三段階 全大陸の鉄路を同期再稼働。


ガルドが旧王都絵図を広げた。


「王宮鉄道線の地下分岐がここ。ここから入ればカスティラの目を逃れて中央指令所に潜入できる」


カイレンが地図に印を付けた。


「ここに商業ギルドの隠し倉庫がある。作戦中の補給は任せて」


ティアリスが祈りを捧げた。


「巫女衆は地上で同期祈祷を続けます。万一の事態にも対応します」


俺は業務手帳の最後のページに

最終ダイヤの原案を書き始めた。




夜が更けた。


操車場跡の隅で

俺は一人になった。


業務手帳を眺め

昔の記録を改めて読み返す。


研修生時代に書いた手順書。

深夜勤務の運転整理の記録。

何百回も繰り返した指差喚呼の点呼表。


それらが

今夜

世界を救うダイヤの基礎になる。


俺は静かに呟いた。


「俺は歯車だ」


そして

小さく笑った。


「歯車で何が悪い」




俺は廃駅の中央に戻った。


そこには

集まった二百人ほどの仲間が待っていた。


セルヴァンの老機関士。

ヴァランツの保線員。

ドワーフの鍛冶師団。

商業ギルドの連絡係。

若い巫女見習いたち。


俺の言葉を待っていた。




俺は中央に立ち

業務手帳を開いた。


「皆さんこれから最終運転整理を実行します」


声が震えそうになるのを抑え

俺は淡々と続けた。


「俺たちは数では負けています。教会軍が二千以上に対し俺たちは二百足らず。しかし俺たちには鉄路がある。そして指令所がある。そして時間が味方します」


集会場の沈黙が深かった。




セルヴァンの老機関士が口を開いた。


「タカギ卿。私から提案がございます」


「どうぞ」


「私の弟子が全国に散らばっております。彼らに通信魔石を介して合図を送れば全大陸の鉄道員が一斉に動きます」


「それは助かります」


「ですがあなたから直接合図を送っていただきたい。彼らはあなたを信じます」


俺は頷いた。




通信魔石が並べられた。


俺はそれを順に手に取り

古代王国の用語で短く挨拶した。


「シレイインのタカギだ。合図を待て」


魔石の向こうから次々と返事が来た。


「セルヴァン応答全機関士待機」

「ヴァランツ応答保線員配置完了」

「南方諸侯国応答合図を待つ」

「東方サンサルバン応答ダイヤ確認中」


そして最後に

俺がまだ会ったことのない街からも返事が来た。


「北辺アレマンノ自由市応答。我々は王都の状況を見ています。タカギ殿の合図次第で連邦議会も鉄路復活を可決します」




俺は通信魔石を全て卓上に並べた。


二十個以上の魔石が

ぼんやりと光っている。


全大陸の歯車が

俺の指令を待っている。


その光景を見て

俺は不思議な気持ちになった。


これは現実なのか。

本当に俺が

全大陸の歯車を回す立場にあるのか。




「真也」


カイレンが俺の隣に来た。


「あんた顔色悪いよ」


「そうか」


「緊張してる」


「当たり前だ」


俺は苦笑した。


「俺は今までたった数十本の電車のダイヤを引いていた。今夜は全大陸の鉄路のダイヤを引く。緊張しない方が嘘だ」


カイレンは俺の背中を強く叩いた。


「大丈夫。皆あんたを信じてる。あたしも信じてる」


ガルドが大笑いした。


「兄ちゃん。お前が緊張してるところを見るのは初めてじゃのう。ようやく人間らしく見えるぞ」


ティアリスは静かに微笑み

俺の手にそっと触れた。


「真也さん。あなたの祈りが私たち全員の祈りです」




俺は深呼吸した。


そして

仲間たちを見回した。


「皆さん合図は俺の指差喚呼です。俺が手を上げダイヤ起動と声に出した瞬間各地で同時に列車を発車させてください」


仲間たちが頷いた。


俺は最後にもう一度

業務手帳の最終ダイヤを確認した。


完璧だった。


俺は手帳を閉じた。


「では作戦開始」




集会場の灯りが落ちた。


仲間たちが

それぞれの持ち場へ散っていった。


廃駅の中に残ったのは

ガルド

カイレン

ティアリス

そして主力突入隊の十数名。


俺は中央指令所突入の前に

仲間一人一人と握手した。


「無事に帰ってきましょう」


そう短く言った。




全員と握手し終えた後

俺は廃駅の外に出た。


夜空を見上げる。


二つの月。

そして

ゆっくりと姿を取り戻し始めた三つ目の月。


俺は呟いた。


「ティアリス。お前を死なせない」


廃駅の中で

ティアリスが俺の名を呼んだ。


「真也さん。時刻です」


俺は振り返り

歩き出した。


最後の戦いが

始まろうとしていた。

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