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父の形見は美少女Vtuber  作者: 伊阪証


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ストーカーを取り合う馬鹿共

ミミヨンこと赤花芯は、高校を県外に出ている。その学校では、学年順位が三桁のまま生徒会長になった唯一の記録持ちらしい。真正面から殴り勝つタイプではなく、盤面そのものを組み替えて勝つ側だ。野球でもそれは同じで、球速よりも配球と間で崩す。軟投、盤外戦術、相手の視線や癖を読んで先に潰す判断の速さ。敵校の覗き見を封じ、メディア露出を切り、地元新聞社との慣習すら止めて勝つ。面倒事を「起きてから処理する」んじゃなく、「起きた瞬間に二度と続かない形へ持っていく」手つきが、今回の一件にもそのまま出ていた。


だから、根幹のストーカー対処も彼女なら成立させられる、と斎太は踏んでいる。問題は、それがそのまま自分の対処にはなり得ないことだった。今回の相手は現時点で性別すら分からない。誰に向いた執着なのかも断定できない。警告がどうこうという以前に、そもそも対象の切り分けすら済んでいない上に、ナイフを常備している時点でどう考えてもまともな線の外にいる。そこまでいくと、いちばん近いのは恨みだ。だが、誰に対する恨みなのかが分からないままでは、どこを塞げばいいのかも決まらない。


アキと斎太は母方の実家、つまりウラジオストク行きである。どうしてこうしたのか、のいきさつを確認しよう。

身内の認識が綺麗に割れている。アキと伊行以外の面子が、揃いも揃って「自分のストーカーだ」と言い張り始めたのだ。アキは溜息の出し場に困らないが逆に毒されていると思ってもう一度吐いてしまう。まぁ、理由はあるらしい。あるらしいが、聞けば聞くほど自信の方が先に立っていて、観測はその後ろをついてきているだけだった。誰相手かも分からない、性別も不明、外から見ていた個体が急に家へ潜り込むような真似までしている。その危険性そのものは共有されているはずなのに、話題の中心はいつの間にか「誰のストーカーか」にずれていく。ついに始まってしまった。ストーカーの取り合いである。全員自信家、顔面600族のバカ共。


「いや普通に私だろ」

「いや、あれは俺のだ」

「どう見てもこっちだろ」

「(良かった斎太は混ざってない)」

と振り向くとダメなタイプの地震のあるソファの座り方をしていた。無理だ。

誰も譲らない。危険性の話は共有されているはずなのに、会話の中心は「誰に向いているか」に寄っていく。噛み合っていないのに、全員だけは妙に納得している。


「じゃあ当てるか」

「は?」

「いや、どこに出るか。当てる」

「外したら?」

「別にいいだろ、分かれば」

「当てたら勝ち?」

「勝ちでいいだろ」


話がそのまま転がる。検証の形は保ったまま、中身だけが遊びに寄る。誰も止めない。


「時間揃えるか」

「被らないようにだけしとけばいいな」

「ポイント制にする?」

「いらねえよ」


決まるのがやけに早い。斎太は一度だけミミヨンを見る。止めるかどうかの確認だったが、ミミヨンは肩を回しながら「フォークボールの投げ方と報復する時のやり方だけは教えてやる」とだけ言って終わる。止める側がいない。


その場で役割が雑に割り振られる。誰がどの時間帯にどの経路を使うか、誰と誰は被らないようにするか、最低限だけ決めて、あとは各自任せになる。厳密な計画ではないが、骨だけは通っている。


「じゃあ明日で」

「早くね?」

「早い方がいいだろ」

「まあいいけど」


軽い。状況に対して軽すぎるが、誰もそこを修正しない。全員、自分のところに来る前提で話しているからだ。

結果的に全員分散、平和だが嫌な別居だ。


母方の実家に泊まる斎太は鏡の前で手を止める。一方で、配信の中のスチーラットはいつも通りだ。声も進行も崩れない。真面目に、自信満々に、自分のところへ来ると思っている。自信家が過ぎる。状況が状況でなければ腹を抱えて笑えるほど、自分中心に世界を回している。アキは狂気でしているというよりは、多少の無理を感じ、あまり喜べはしなかった。

いや、正気でやってたらそれが一番喜べないが。


それでも翌日には、外から尾ける気配が消えた。外へ出てこない。窓越し、カーテン越し、生活音の裏に隠れて見ている。これでは警察にも気づかれにくい。巡回で拾える気配ではなくなっているからだ。外を歩いても、もう背後の足音はない。代わりに、角を曲がるたび、通りを抜けるたび、同じ高さの窓にだけ視線の重さが残る。外へ出なくなったことで、むしろ距離の狂い方だけが濃くなっていた。


多少引っ越しのストレスが露見する。そのくせ、彼であるはずのスチーラットの配信は妙に元気だ。声は安定しているし、言葉も滑る。現実の斎太は明らかに削れているのに、画面の中のスチーラットだけが別個体みたいに崩れない。その食い違いが、見ている側の混乱を深くする。


彼女はそこから目を離せなくなる。明らかに危ない。危ないのに、見ないわけにもいかない。距離を詰めて確かめたい、と何度も思う。だが、相手はナイフを持ち、警告も無視し、家に潜り込んでまで観測を続ける段階にいる。下手に近づけば終わる。引っ越して逃げる案も浮かぶが、移動した瞬間にこちらから相手を追えなくなる。今はまだ、どこかの窓にいると分かっているだけマシだ。けれど、その「マシ」が既におかしい。私の好きな佐倉がこんな状態なのに、画面の中では平然と喋っている。その矛盾が頭の中で処理しきれず、心配と執着と苛立ちが一つに固まっていく。理解したい、でも近づけない。守りたい、でも手が出せない。そうやって混乱していること自体が、もう向こうの狙いに近いのではないかと薄々分かっているのに、それでも画面からも窓からも目を切れない。


…あれは本当に佐倉君なのだろうか。


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