炎色反応
同級生の佐倉君の家は、全員が美しい。少し質が悪くなった、老いたと主張する父は、それまではありえない姿形、それも、不安になる位の美しさがあった。
いや、寧ろ当然だと言える。
天を仰いだ。視界を埋めるその青は、果たして美しいのか。あるいは、重く垂れ込める雲の塊こそが、美と呼ぶにふさわしいのか。
指先が微かに震え、肺の奥がすぼまる。空模様は美しいと同時に、言い知れぬほどに恐ろしい。
私はその恐怖の正体を、長い間見失っていた。
美しさとは、本来恐怖と等号で結ばれるものだ。
人を寄せつけぬほどに鋭利で、あるべき姿を突き詰め、神秘にまで到達した拒絶である。
対して、可愛さとは安心感に他ならない。ふくよかな輪郭、安定した秩序、そこにあるだけで息を吐き出すことが許されるような、救いとしての造形だ。
この二つを混同してはならない。恐怖によって人を惹きつける美しさと、安らぎによって人を繋ぎ止める可愛さは、本質的に真逆の地平に立っている。
喉の奥に、苦い後味が残った。
心拍が早鐘を打ち、思考が急激に形を成していく。この関係性は、ただの対立ではない。感情がどちらからどちらへ流れるかという、不可逆な転換の順序によって、その意味を劇的に変える。
女たちが交わす情愛、すなわちガールズラブは、可愛いという安心から入り、美しいという恐怖を探す旅だ。
まず手を取れるほどの安らぎがあり、その温もりの奥に、底知れない神秘や危うさを発見していく過程に、彼女たちは酔いしれる。
だが、男たちが交わす情愛、すなわちボーイズラブは、その鏡合わせだ。
彼らは美しいという恐怖から入り、可愛いという安心を探す。
刃のような鋭さ、人を拒む峻厳さ。その美しき恐怖を突きつけられた後に、ふとした瞬間に漏れ出す可愛らしい安心感を見つけ出したとき、感情は爆発的な落差を生む。
極限まで苦いものを噛み締めた後に、一滴の蜜を垂らされるようなものだ。甘みはその苦みによって、より一層、暴力的なまでの純度を持って脳を焼く。
美しいの逆は、可愛いである。恐怖こそが、底知れない魅力と結ばれている。
独りごちた声が、冷えた空気に溶けていく。
一度気づいてしまえば、もう戻れない。私が美しいと感じていたあの眼差しも、その裏に潜む可愛さという名の安心も、すべてはこの残酷な変換の檻の中にあった。
私はこの美しさを携え、可愛い桃色の彼に会いに行く。
どうか、どうか、待っていてほしい。
そして、彼女は図書館にいる彼を見た。その隣には、青と黒、聖職者の様な、学者の様な、陰鬱で露悪的な色合いを見た。
私は、その恋を破綻させた。
一瞬の情熱が馬鹿みたいだった。恋という情熱は、遂には届くことも無かった。
「知識比べって今はYoutubeからどんだけ持ってきたか勝負だよな。結構劣化するけど」
「沈黙は金、雄弁は銀よ。時にはいぶし銀にもならないとそれこそ均衡を保てないけど」
「銀は貰える分マシだな」
アキと二人で雑学を調べている斎太は、本来の目的である資料を忘れそれどころか階の違う資料室にいる。
「生物学系の本って結構性癖歪むやつあるよね、ランキングにしようかな」
「サバイバルシリーズってこう見ると安心して見れる作品ね」
「TSと変身があったら上位に来る」
「裸体vsシチュの頂上決戦かしら」
「これ面白そうだな、民俗資料にあった内容だが」
「んー…あ、確かにね。使い所に迷うけど」
「え?ダジャレと同じ扱い?」
見つけた資料は地元愛知県のもので、カニバリズム事例が三件最低見つけたということだ。動画のネタには困るが、あやかりたいという目的から死体を一部持ち去り食べていたらしい。
「迷信信じるタイプって食に過信するの多いから困るわ」
「意外と美味かったんじゃないか?」
「別のホラーが始まるからやめなさいな」
そして、彼は図書館の中で知識に口が緩む。金ではなく、銀であった。
化学の実験の様な色はつきはしない、赤赤とした嫉妬が煮え滾る。
「動画のネタは決まったな。」
彼女は、動き出す。
片方は下火になることもなく、もう片方は、下火を避けるために。
※実際に載ってます。




