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父の形見は美少女Vtuber  作者: 伊阪証


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19/51

穴埋め

ディスプレイの隅で、更新を止めた数字が網膜を焼く。どれだけ画面を睨みつけ、分析ツールを回したところで、死んだようなグラフが息を吹き返すことはない。停滞。それは配信者にとって、緩やかな死を意味していた。

斎太は、熱を持ったこめかみを指先で強く押さえつけた。視線の先には、自分たちの領分を土足で蹂躙していく「アスリート共」の影がちらついている。奴らは、積み上げてきた積み木を一瞬で蹴り飛ばすような暴力を、圧倒的な質量として叩きつけてくる。

苛立ちが、喉の奥から苦い味となってせり上がってきた。

「…また、そんな顔してる。一人で煮詰まらないでって、言ったじゃない」

不意に、背後から柔らかな熱が押し寄せた。

振り返るよりも先に、アキの細い腕が斎太の首に回される。彼女の胸の鼓動が背中に伝わり、強張っていた筋肉が強制的に解かされていく。アキはわざとらしく、斎太の耳たぶに自分の唇を寄せた。彼女の甘い香りが、ささくれ立っていた意識を強引に現実へと引き戻す。

アキはそのまま斎太の膝に滑り込むように座ると、彼の頬を両手で包み込んだ。彼女の指先の温度は、加熱しすぎた自分の頭を冷やすにはちょうどよかった。

「少しだけ、吐き出しちゃいなよ。じゃないと、次に進めないでしょ」

彼女の瞳に射抜かれ、斎太はようやく溜息をついた。アキの肩に深く顔を埋め、その温もりに縋るようにして、自分を追い詰めている「事実」を吐き出し始める。

「…次は、あのアスリート共だ。一日十時間単位で配信する癖に、しかも実写までも完璧に使いこなしてやがる。本気で取り込みに来てるんだ。

野球の赤花芯ことミミヨンは、試合解説と選手の活躍をセットにして、大幅に数字を伸ばしている。名前の由来は態々隠しているのに、勝手に書き散らすような無粋な真似は到底受け入れられない。そもそも表記が先にあるのが道理であって、読み方を先に出す奴なんてこの世にいる訳がないんだ。

フィギュアスケートの虎尾一こと二一二も、アニメや漫画の後押しをセットに、情熱のあり過ぎる留年話や、やって欲しいことの募集や大学内でのスケートリンク使用といった、これ以上ないほど伸び伸びとしたプレーを見せている。以前の体育館を借りていた頃から一転して、今じゃ大学側もバックアップに回り始めてやがるんだ。

陸上の薄重戴こと夢夢六句は、ダンス方向でも優位だが、元々色々な競技に関与しているのがあいつの強みだ。競技ごとに教師も違うからと、持ち前の外交力で事務所にアポを取り付けるわ、裏方のスタントマンやバックダンサーとして個人勢にまで手を貸して、業界内での支持を盤石にしている。

そしてゴルフの丁字咲耶、ライバーとしては壱玖弐捌。既存メディアと既存事務所のバーターをこなしつつ、ゴルフという日本では貴族の遊びなんて揶揄されるものを広めながら、裏での活躍で着実にコラボを取り付けていく。

一気に語り終えると、斎太は再び沈黙した。アキは、彼の髪に指を通しながら、静かにその言葉の重みを咀嚼している。

「ジャンルは違うから対抗自体はできるはずなんだ。でも、自分の領分はどうしたって奴らと競合しやすい。自分はどうにかしてコラボを打って、新規を取り込まなきゃいけない。……でも、それは既存の層をはじいてしまう可能性を孕んでいる。コラボで新規を誘導しつつも、これまでの層に見捨てられる状況を、決して作ってはいけないんだ。……それが、今の自分には酷く難しい。足元が崩れるような感覚がして、どうしても踏み出せないんだよ」

斎太の弱音は、アキという器の中に静かに沈んでいった。彼女は彼を引き離すと、まっすぐにその目を見据える。

「……分かった。斎太の言いたいことも、その怖さも。でも、ここから先は一人で悩むフェーズじゃないわよ。一緒に決めましょ。既存の層を大事にしながら、あのアスリートたちをどう巻き込んでいくか……その方針を」

アキの言葉に、斎太はようやく小さく頷いた。彼女の熱を感じながら、ようやく思考の霧が晴れ始める。

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