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異世界カスタムメカアクション  作者: とりマヨつくね


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2/3

異世界

「ぶぇくしょん!」


 冷たい風が通り過ぎ、盛大にくしゃみをかましながら俺は目を覚ました。

 ゆっくりと目を開くと、どこまでも広がる蒼穹が視界に入った

 ああ……なんて綺麗な青空でしょう。

 いつも血と硝煙に塗れ、燻み燻んだ空しか見てなかったもんだから、澄んだ空をちゃんと見たのは久々だ。

 まぁ、空ってそうマジマジと見る物ではないからね仕方ないね……ん?


「待て!? なんで俺は外にいるのだ!」


 おかしい、普通に考えて俺が外にいるなんてことありえ、ない?

 俺は近くにあった湖に写った姿を見て、目を見開く。


「……なんで俺アバター姿なんだ?」


 黒を基調に、オレンジ色のラインが入ったぴっちりスーツ、その上に着込んだ防弾チョッキ、ゴーグルと一体になったヘッドセット、そして目つきの悪い三白眼。

 間違いない、これはAWOでのアバターのシュウだ。

 ということはここはAWO?

 あ、そうだ。俺、あの変なミッションを受けたら、急に回線切断みたいなことになったんだ。

 じゃあ、今はランダムミッション中ってことか?

 だがそれだと一つの疑問が湧く。

 俺がアサルトに乗ってないことだ。

 通常、ミッションが開始されたら否応なくアサルトに搭乗する。

 状況によってはアサルトから降りて生身で戦うこともあるが、最初から乗っていないことなんてありえない。


「ミッション内容と関係があるのか?」


 数は少ないが、そういうミッションは存在する。

 だがそれもストーリーモード限定で、ミッションモードであるなんて初耳だ。


「というか、これ本当に呼び出せないのか?」


 そもそもの前提条件が間違っているのかと思い、ウィンドウを操作しようとして、全身が底冷えするような感覚に襲われて振り返った。

 その瞬間、草むらから『何か』が飛び出した。


「おわっ!?」


 その場で地面に転がって回避し、すぐに立ち上がって『何か』の正体を確かめる。

 緑色の肌に、子供程度の身長に、そしてとても人間とは思えない醜悪な顔。

 正真正銘の化け物、そしてその化け物の名を俺は知っている。


「ゴブリン!?」


 待て待て待て待て!?

 AWOのジャンルはSFだろ!

 確かに生物兵器なんかも出てくるが、世界観ぶち壊すなよ運営!?

 クソッ、あとで絶対クレーム入れてやる!

 ナイフ……というか短剣を持ってる上に襲ってきたってことは敵だよな……はぁ、気分が乗らねー。

 ま、せっかくもう受けちまったし、このまま倒されるのも癪だからやるけどさ。

 非武装状態だから、ひとまずは装備を……


「ぎしゃしゃしゃ!」


 考えことをしているとゴブリンが動き出し、その手に握られた短剣を振るってきた。

 よそ見をしていたせいで、咄嗟の回避ができず頬を掠める。

 ーーーー痛い。

 痛い?

 俺は数歩後ずさり、掠めた頬に触れる。

 ぬめりと生暖かい感触があり、目を向けると指先には紅い血がへばりついていた。

 理解できなかった。

 AWOに限らず、全てのVR MMOは痛覚も流血のエフェクトも存在しない。

 あまりにリアルに作りすぎると、精神や脳機能に問題を起こすため、一定の基準以上は設定できないように法律で定められている。

 出来たとしても、精々軽い衝撃が襲う程度だ。

 それなのに俺は今、明確に痛みを感じている。


「まさか、これリアル……いや、そんなことどうでもいい!」


 少なくとも、ゴブリンみたいな雑魚エネミーに殺されてたまるか。

 高速でウィンドウを操作し、座標を指定する。

 そして血を拭うと、ゴブリンに向けて笑みを向ける。


「こいよ、クソ野郎! テメェなんて屁でもねぇよ」

「ぎひゃ!? ギギギッ……ギシァあああ!」


 俺の煽りに、ゴブリンはすぐに乗った。

 額に青筋を浮かべ、ただでさえブサイクな顔を更に歪めて走り出した。

 体躯が小さい為か、ゴブリンの速度は思いのほか速い。

 でも想定外の速度ではない、むしろジャストだ。

 俺は回避行動をすることなく、ただその様子を眺めた。

 徐々に縮まっていく距離。

 範囲に入り、ゴブリンが短剣を振り上げた瞬間。

 空が一瞬光ったかと思えば、巨大な影が降ってきて土煙が舞い上がる。


「ゲホッゲホッ……!」


 しまった、近すぎたか。

 まぁ、俺の予想が当たっていれば……あぁ……うん。

 土煙が晴れると、目の前には三メートルほどの円錐形のポットが鎮座し、その下でゴブリンは予想通り押し潰されていた。

 下から血が滲んできて、大分グロい。 

 いやまぁ、殺そうとしてきたんだから同情はしないけど。

 ひとまず安全が取れたことにほっとし、胸を撫で下ろす。


「はッ、そうだ! ミッションを放棄しよう」


 早速、ウィンドウを操作してボタンをクリックする。


「……マジかよ」


《このミッションはクリアするまで放棄できません》


 そう、表示された。

 すぐに試みてみるが、先ほどと同様に弾かれてしまった。

 先ほどの嫌な思考が的中してしまった。

 あまりにもリアルな血のグラフィックに痛覚、おまけにAWOにも現実にも存在しないはずのゴブリン。

 そこから考えられる答えは。


「ゲームアバターで異世界転移ってか……笑えねぇよ」


 だがもしこの答えが本当なら、俺は元の世界に戻れるのか?

 そしてもし戻れなかったら……


「クソッ、考えるのはあとだ! まずは周囲がどうなってるか調べないと!」


 俺が首を横に振って思考を振り切ると、ポットに触れる。

 そして外殻がプシューと音を立てながら展開する。

 ポットの中から現れたのは、燻んだ黒銀の装甲に、人型を踏襲しつつもどこか戦車を思わせる兵器然とした無骨なシルエットをしたロボット。

 俺の愛機、【ベイグラント】が片膝をついて佇んでいた。

 コイツはステータスが一番標準的なプロミスという機体をベースに、装甲を軽くし多彩な武装を装備できるようにカスタムしたものだ。

 ラフでもガチでも最も使っており、一番信頼性のある機体だ。

 機体の後ろに回りこむと胸部装甲が前後にスライドし、コックピットが顕になる。

 シートに座ると、先ほどとは逆の手順で機体に乗り込む。

 精々、人一人程度のスペースのコックピット。

 普段なら狭苦しくて仕方ないが、今はこの慣れ親しんだ狭さが安心する。

 軽く息を吐いて操縦桿を握ると、システムが起動し機体と俺の視界がゴーグル越しにリンクする。

 軽くペダルを踏んで、機体を立ち上がらせる。

 よかった、操作感はゲームの時と同じだ。

 起動を確認した俺はレーダーに確認すると、大まかな地形と複数の丸マーカーが表示される。


「マーカー? 結構近いな、数は黄色が二つと赤が三つか……」


 マーカーには三種類あり、青は味方、赤は敵、黄色は敵ではないが味方でもない存在を示す。

 主にNPCなどが、これに該当する。

 状況を見るに、戦闘をしている?

 だとしたら、助ければこの世界について聞けるかもしれない。

 そうとなれば、今すぐ救援だ!

 俺は両腕に装備していた、アサルトライフルを握り直し構える。


 ━━━━━メインシステム、戦闘モード起動。


 背部スラスターによる低空飛行で、まるで地面を滑るように入り乱れた森を駆け抜けていく。

 レーダーの情報を元に、最短距離で近づいていき視界に複数の影が捉える。


「あれか!」


 上空をジャンプする要領で大きく跳躍する。

敵はゴブリンだけか……なら問題ない。

 FCSがオートで狙いを定め、その指示に従ってトリガーを引くと、けたたましい音と共にゴブリンに向かって弾丸が降り注ぐ。


「クギャ!?」

「ギェエ!?


 よし、二匹倒した。

 一匹、回避したが関係ない。

 着地すると、即座に足を打ち抜き機動力を削ぐ。

 前面にブーストを掛けて、急加速で近づき蹴り飛ばした。

 ゴブリンは遥か遠くに飛んでゆき、ぐしゃっと樹木と激突した。

 ブーストキック、読んで字の如くブーストの加速力を活かした飛び蹴りで、ダメージを与える基本技能だ。

 弾を撃たずにダメージを与えられることから、雑魚敵掃討から敵assaultを怯ませるのに幅広く重宝している。

 さて……これで敵は全て倒した。

 俺は後ろの人達に声をかけようとして、振り向くと眉を顰めた。

 なんと、助けたはずの二人の女性がこちらに武器を構えているのだ。

 片方は赤髪褐色のアックスを持った勝気な美人、もう片方は艶のある薄金髪に碧眼の槍持ちのおっとり系美人。

 うーん、流石ゴブリンパイセン。お目が高いといった方がいいか……って違う!

 あれ? 俺、助けたよな?

 そんな俺の困惑に返答するように、アックス持ちの美人が何かを叫んでいる。

 ヘッドセットから聞こえてくる言語が、日本語のそれではない。

 ま、まずい。異世界語があるなんて聞いてない。

 何を言っているか分からないと、こっちもどう反応していいか分からない。

 あ、そうだ。確か設定で言語の翻訳機能があった筈だ。

 外国人のプレイヤーと遊んだことないから、オフしてたけど今こそ役に立つ時!

 設定で翻訳機能を押して、言語設定は……ええい! とりあえず全ヶ国語の設定をオンにしてしまえ!


「おい! 聞いているのか!」


 お、ちゃんと翻訳が通じたみたいだ。

 どういう原理で、異世界の言語を翻訳しているかは知らないが、今は気にしないようにしよう。

 さてさて〜、貴方はなんで言っているか教えてちょ。


「く、来るなら来い……化け物! 私は貴様には臆さないぞ!」


 ……し、しまったー!

 冷静に考えて、assaultは人型を踏襲してるとはいえ、この世界では紛れもない異質で異形だ。

 そんな奴が目の前に現れたら、モンスターと間違えられてもおかしくない。

 ど、どうしよう……このままだと戦闘になりかねない。

 assaultには拡声器はなく、会話は俺がしてるようなヘッドセットを通した通信しかないが、彼女達が持ってるとは到底思えない。

 じゃあ逃げる……いやダメだ。

 今、そんなことしたら指名手配とかされる未来しか見えない。

 根拠? ラノベでそんな展開見たことあるから!

 と、とにかく今は、どうにかして敵意がないことを示さなくては……!

 俺は両手を上げ、膝を折る。

 そしてゆっくりとアサルトライフルを置き、再び両手を上げた状態で様子を見る。

 こちらの意図を理解できたのか、はたまた謎の行動をとったことに違和感を感じたのか、武器を一旦下げてくれた。

 よかった、一旦戦闘にはならなさそうだ。

 システムを切り、すぐにコックピットを開けて外に出る。


「ひ、人……?」


 おっとり系の美人の方が、困惑した声を上げる。

 まぁ、当然の反応だよな。

 さて、こういう時、どう声を掛ければいいのだろうか。

 別にコミュ障というわけではないが、流石にこういう状況でのコミュニケーションはしたことはない。

 いや……誰もないだろうけどさ。

 ま、まぁ、普通に話しかければいいか。


「先ほどは驚かせてすいません。遠くで戦闘をしているのが見えたので助太刀したんですが……怪我はないですか?」

「あ、ああ……問題ない。こちらこそ威嚇してしまったようで申し訳ない。私の名前はミランダ、ジラルド王国所属の冒険者でBランクだ」

「私はイレイナ、同じくジラルド王国のBランクよ。さっきは助かったわ。あなたは?」

「え、えっと……シュウです。ただの旅人です」


 思わずアバター名を名乗ってしまったが、問題はないだろう。


「ただの旅人、か……」


 ミランダさんは【ベイグラント】を見たあと、俺の全身を上から下へとマジマジと見る。

 ……流石に、ただの旅人の設定は無理があったかなー。

 とはいえ、ゲームの世界から来ましたとか言える訳ないしな。


「いや、詮索はよそう」


 ふぅ……話が分かる人で良かった。

 今度からはassaultを人の前に出す時は、カバーストーリー考えとかないとな。

 それにしても……なんだろう?

 戦闘が終わったのに、二人から焦りというかピリついた空気が消えない。

 AWOではないが、ゲーム知識から考えて……あれしか考えられないか。


「……ミリー、急がないと」

「……分かっている」

「あの、すいません? もしかして何かお困りですか?」


 俺がそう聞くと、ミランダは少し考えたあと話し出す。


「……実は仲間が一人、ゴブリンに連れていかれてな」

「ちょっと、ミリー!?」


 なるほど状況は大体理解できた。


「時間と場所は?」

「なに?」

「ですから仲間が連れ去られた時間と場所は分かりますか?」

「時間は三十分前だ……場所はここから十キロ以上離れたミヨンド洞窟だと思う。元々、そこに巣穴を作ったゴブリンを全滅させる依頼だったんだが、奇襲を受けてしまってな」

「巣穴にいるゴブリンの数は?」

「分からない、だが大体二十前後だ」

「分かりました。俺も協力させてください」

「良いのか?」

「乗り掛かった船ですから」


 ここで別れて、途方に暮れる訳にはいかないしな。

 それに彼女達より、俺が戦ったほうが成功確率が上がるだけだ。


「俺が先行して洞窟に突入します。お二人とは向こうで合流しましょう。救出して外に出ていればそれでよし。もしいなかったら、そのまま跡を追いかけてください。それで良いですか?」

「ああ……それで問題ない。レイナも構わないな」

「え、ええ……」


 よし承諾は取れた。

 善は急げ。再び機体に乗り込み、ミヨンドの洞窟に向かって走り出そうとした時。


「あ、あの!」


 ふと、イレイナさんに呼び止められ、振り返る。

 イレイナさんは少し俯いた後、まっすぐこちらを見て言った。


「あの娘を……妹をお願いします」


 声で返答できない俺は、前へ向き直りサムズアップで答えた。


◇


 そう時間もしないうちに、目的地であるミヨンドの洞窟に着いた。

 俺がウィンドウを開くと、customと表示されていた。

 カスタム画面、言葉の意味通りassaultをカスタムできるが……それは出来ない。


 《現在地ではカスタムは出来ません》


 だよなぁ……本当は突入する前に準備をしたかったんだけど。

 機体のカスタムは、拠点でないと行うことが出来ないのだ。

 となると、今ある装備で戦わないといけないわけだ。

 assaultの装備スロットは右腕、左腕、右肩、左肩の全部で四つ。

 今装備しているのは、右腕にアサルトライフル、左腕には振動ブレードに右肩の六連装ミサイル。

 人質と洞窟の崩壊のことを考えると、右肩のミサイルは使えないから、残るのは両手のアサルトライフルと左肩のブレードだけか。

 ミサイルが使えないのは残念だが、巣穴のゴブリンは二十匹程度だったか……さっきの戦闘のことを考えれば問題ないか?

 洞窟の大きさ的に、通常ブーストはともかくオーバーブーストは使えない。

 精々、ブーストキックが限界か。

 不安要素はいくつかあるが、今はしのごの言ってられないか。

 覚悟を決め、洞窟へと足を踏み入れた。

 洞窟の中は思ったより広く、【ベイグラント】が戦闘する分には支障はない。

 通常ブーストで洞窟の中を潜っていくと、レーダーに赤いマーカーが表示された。

 だが暗いせいで、どこにいるかが分からない。


「サーチモード」


 そのままコマンドを操作し、スキャンサーチを使う。

 頭部が展開し、その奥の球体上のレーダースフィアからヘッドセットを通して視界にゴブリンの影が写される。


「そこッ!」


 俺は即座に狙いを定めてトリガーを引く。

 右斜め上に向けて発砲すると、「ギシャ!?」と汚い断末魔を上げながら、隠れ潜んでいたゴブリンが落ちてきた。

 こんな風に敵性存在の場所は、赤いマーカーとしてすぐに分かるので奇襲の心配もない。


「でも、これは失敗だったな……」


 発砲音が洞窟内に響いた為か、複数の赤いマーカーが四方八方から接近してくる。

 囲まれるのを避ける為、正面突破を図って駆け出す。

 途中で現れたゴブリンどもは、的確に撃ち抜いて前進する。

 走っては撃ち、走っては撃ちを繰り返していると、サーチレーダーに黄色いマーカーが点灯した。


「いたッ!」


 補足した方向へ向かうと、曲がり角に差し掛かったあたりで脚を止めた。

 黄色のマーカーの手前に、二つの赤いマーカーが表示されていた。

 見張りか、なんでそんなところは律儀なんだよ。

 俺は壁から飛び出し、引き金に指を掛ける。

 しかしゴブリン達はこちらに気づき、常人離れしたスピードで接近してくる。 

 俺はアサルトライフルで一匹を撃ち抜き、もう一匹はハンガーユニットを可動させ、左腕に持ち替えた振動ブレードで切り裂いた。

 ゴブリンが命を失ったことを知らせるように、レーダーからマーカーが消滅する。


「クリア」


 敵を掃討し門番していた部屋に入ると、ひどい光景が広がっていた。

 いくつもの女性の死体と、あちこちに散らばる無数の骨。

 込み上げてくる何かを必死に抑え飲み込むと、辺りを見渡す。

 部屋の奥で、こちらを見て震える少女の姿を見つけた。

 イレイナさんと似た金髪をセミロングに切り揃え、まるで人形のように整った顔立ちは紛れもない美少女だ。


「こ、こないでください……!」


 ……すぅー、この流れさっきも見たな。デジャヴかな?

 数歩歩み寄ると、【ベイグラント】から降りる。

 死体から漏れる腐臭に顔を顰めるが、すぐに表情を変えて少女に言葉を掛ける。


「イレイナさんの妹さんで間違いないですね? お姉さんに頼まれて助けに来ました」

「お、お姉ちゃんが?」

「ええ、けどまだゴブリンがウロウロしているから急いだ方が良いです」


 アバター標準装備のナイフで、手足を縛っている縄を切った。


「立てますか?」

「だ、大丈夫です━━━━痛ッ!」


 ……ダメみたいだな。

 仕方ない、どのみちあれは避けられないしな。


「……失礼しますね」

「え? わぁ!?」


 俺は少女を抱き上げ、そのまま【ベイグラント】に乗った。

 assaultのコックピットはあくまで一人用ではあるが、詰めれば二人乗りはできる。

 映像はゴーグルに映されるので、操縦に支障はない。

 強いて問題を上げるなら……密着状態になってしまうことだ。

 なんか色々幸せだが、今は心頭滅却して脱出しなければならない。

 そんな馬鹿な思考を振り払うと、ふともう一度現実に引き戻されるようにこの空間が目に入る。

 俺がこう思うのはお門違いかもしれないが、助けられなかったことにどうしても罪悪感が湧いてしまう。

 本当ならここにいる人達も、連れてくるべきなのだろうが、残念ながら俺にそこまでの余裕はない。

 申し訳程度の黙祷を捧げると、機体を反転させその場をあとにした。

 人質を救出し、あとは帰るだけだったが話はそう簡単な話ではなかった。


「クソッ、思ったよりゴブリンの数が多い!」


 武装はアサルトライフルに戻して、効率よく倒してるのに次から次へと湧いてくる。

 巣穴に居るのは大体二十匹? 嘘つけ!

 絶対五十匹以上は倒してるぞ、キリがない!


「邪魔だ!」


 目の前のゴブリンを蹴り飛ばし、出口に向かって疾走する。

 しかしレーダーには無数の赤マーカーが出現し、敵の妨害はまだまだ続くよどこまでも、って感じだ。

 冗談じゃない、こうなったらもう一つアサルトライフルを握った方が━━━━ん?


「なんだ、これ?」


 先ほどからの傾向を見て、ゴブリンは大体二〜五体ぐらいに固まって襲撃してくる。

 でも今向かって来ている集団は、その二倍の規模がある。


「どうしました?」

「接敵します……多分今までで一番大きい集団です」

「……ッ!? 逃げてください!」

「無理だ、後ろからも来てる。このまま突破をーーーー」


 そう言葉を言いかけた瞬間、ヘッドセットから警告音が響く。

 咄嗟に後方へ逃げると、向こうから眩い光が三つ飛んでくる。

 なんとか二発は躱すが、一発は直撃してしまう。


「ぐおっ!?」

「きゃ!?」


 倒れそうになる機体をなんとか持ち直し、状況を確認する。

 機体へのダメージは……それほどではないな。

 精々、遠距離からアサルトライフルを少し喰らったぐらいか。

 AP(アクティブ・ポイント)……つまりはHPも九割近くある。

 けど問題はそこじゃない。

 いくら軽めの中量機とはいえ、assaultの体制を崩す攻撃なんて。


「なんだ、今の光?」

「━━━━魔法です!」


 少女が俺の疑問に答えた。

 魔法、ファンタジー世界における超常の力。

 なんとなく予想はしていたが、こんな所でお目に掛かるとは思ってもみなかった。

 魔法を放たれた方向へと目を向けると、例の集団が現れる。

 大半は普通のゴブリンだが、目立つのが三体。

 二体は筋骨隆々のデカノッポ、そして一番奥にいる鹿の骨を被った杖持ちのゴブリン。


「魔法を撃ったのはアイツか!」


 遠距離攻撃持ちは真っ先に倒す、というゲーマーの常識に沿ってアサルトライフルは掃射する。

 しかしデカノッポの方が前に出て、銃弾を阻んだ。

 だが当然ただでは済まず、デカノッポの左腕が地面に落ち、それに数匹が下敷きになる。

 そんな仲間には目もくれず、他のゴブリン達は接近してくる。

 俺もアサルトライフルで応戦し、迫ってくるもう一体のデカノッポの攻撃を避ける。

 持っている武器はただの棍棒だが、あのパワーで叩きつけられたら、ただではすまない。

 だからといって、このまま膠着状態を続ける訳にはいかない。

 俺は杖持ちの方へ、目を向ける。


「〜〜〜〜〜〜」


 杖持ちは何かをぶつぶつと呟いているが、あれは間違いなく呪文だ。

 魔法が連射されないだけありがたいが、ここぞという場面で撃たれたら洒落にならない。

 今すぐにでも杖持ちを倒したいが、護衛に片腕とはいえデカノッポが待ち構えている。

 時間がない、ここは一か八かやるしかないか。


「しっかり掴まれ!」

「は、はい!」


 俺はデカノッポに向かって、アサルトライフルを放つ。

 ギリギリのところで躱されるが、隙を突いてスラスターに一気に加速したタックルをお見舞いする。

 バランスを崩したデカノッポを、通り様にアサルトライフルで撃ち抜く。

 倒れるデカノッポの身体をジャンプ台として、高く飛翔する。

 左腕の振動ブレードを装備し、落下の勢いのまま隻腕のデカノッポの頭部に突き刺す。

 ブレードは、デカノッポの脳天に深く突き刺さり絶命させる。

 だがそこで、魔法のチャージが溜まってしまった。

 杖から眩い輝きが生まれ、俺に向けられようとしていた。

 でもそれも予測していた。

 身を捻って二発躱し、最後の一発は右腕のアサルトライフルをパージし受け止めた。

 魔法に撃たれ、アサルトライフルはバラバラになるが、俺はブレードを展開し接近する。

 高速振動により刀身は薄く光を帯びる。

 銀閃が杖持ちの首を切り裂いた。


「ぎ、ギャ……」


 大量の血飛沫をあげ、仰向けに倒れる杖持ち。

 俺は頭部に付いた血を拭うと、ブレードをハンガーユニットに収納する。

 後ろを振り向くと、ゴブリン達は上位種を倒されたことで怯え、一目散に逃げ出した。

 こちらも応戦している余裕はなかったので、ありがたい。

 ひとまず危険は去ったと考えていいだろう。

 俺がレーダーを見ると、出口はもう近いことがわかった。

 少女の方は目を回している。

 申し訳ないことをしたな、あとで謝っておこう。

 シールドを回収し、俺はそのまま洞窟を脱出した。

 外に出ると、もう空は橙色に染まりかけていた。

 一日も掛かっていないとはいえ、あまりにもショッキングな出来事の連続でどっと疲れた気分だ。

 ヤベッ、思い出したら吐きそう……一旦外に出よう。

 コックピットを開閉し、降りようとするが少女の存在を思い出す。


「あ、あの……」


 呼びかけてみるが、少女から返答はない。

 まるで屍のようだ……いや、重いって。


「聞こえますか、おーい」


 俺が目の前で手を振ると、少女はようやく我に返った。


「あ、あれ? 私は……」

「あの、降りたいんですけど……」

「え、は!? す、すすすすいません!」


 慌てて降りるが、盛大にこける少女に若干呆れながらも俺も降りる。

 身体をうーんと伸ばすと、ゴキゴキと音が鳴る。

 いやー、やっぱりassaultに乗ると身体が凝り固まるな。


「サレナ!」


 誰かを呼ぶ声が聞こえ、その方向に目を向けるとミランダさんとイレイナさんが走ってきた。


「お姉ちゃん!」


 サレナも二人に向かって走っていき、イレイナさんと深く抱きしめ合った。

 再会を果たした二人の目尻には涙を浮かべていた。

 この光景を見れただけで、頑張ってよかったと思えた。



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