城塞都市
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洞窟での救出劇のあと、日が暮れて少し離れた森で俺達は火を囲んでいた。
「わ、私はサレナという者です。ジラルド王国に所属するCランクの冒険者で十五歳です。えっと、その……助けてくださりありがとうございました!」
「あ、ああ……これはご丁寧にどうも」
深々と頭を下げられ、こういったことに慣れていない俺も思わず頭を下げてしまった。
そんな様子にサレナさんはきょとんとした顔をし、後ろのイレイナはくすくすと笑っていた。
ちょー恥ずかしい。
「俺はシュウ、通りすがりの旅人です」
「た、旅人さんですか? てっきり相当実力のある冒険者の方か傭兵の方かと……それに━━━━」
サレナは【ベイグラント】を見ながら、言葉を続ける。
「こんな物、初めて見ました。もしかして学区のゴーレムですか?」
「ご、ゴーレム?」
ゴーレムと言えば土塊の巨人のことだろう……なるほどファンタジー世界ならそういう認識になるのか。
それよりも学区とはなんだろうか。せっかくだし、聞いてーーーーいや、少し待て。
俺はこの世界について何も知らない上に、明らかにこの世界は異質の存在であるassaultことを話すわけにはいけない。
仮にここで適当なことを言って、嘘がバレた時の対応が難しくなってしまうのは避けたい。
かと言って、どうやって説明したものか。
そんな考え事をしていると、突如ゴスッと鈍い音が響いた。
思考を現実に戻すと、目の前には頭を抑えたサレナさんと片手を胸の辺りまで掲げたミランダさんがいた。
「痛っ! 何するんですか、ミランダさん!」
「そういう詮索はやめろ、冒険者なら当然のマナーだろ。済まないな、ショウ殿」
「いえ、お気になさらず……」
むしろありがとうございます、ミランダさん。
「ところで洞窟の中はどういう状況だった?」
「まず数が二十匹どころじゃありませんでしたね。倒しただけで五十匹はいたし、まだ洞窟には倒してないのがたくさんいます。途中、デカノッポ二体と魔法を撃ってくる奴と遭遇しましたけど……」
「まさかホブゴブリンとゴブリンキャスターか!? どれか一体でもいたら群れのボスだぞ! 逃げてきたのか?」
「いえ、全部倒して来ました」
「なんだと!?」
「本当なの?」
ミランダさんは声を上げ、イレイナさんも信じられないと目を見開きながらサレナを見る。
サレナさんは強く頷くと、口を開く。
「はい、私は外の様子は見れませんでしたが、間違いないかと」
「なによ、そのあやふやな反応……」
まぁ、外の様子を見れるのはヘッドセットを付けている俺だけだからサレナさんには見えていないんだよな。
証拠になりそうな物を持っていかなかったのが悪いし、疑われても仕方ないか。
「結構危なかったですけどね」
「いや、大したものだ。奴らは初心者殺しとも言われ、多くの駆け出し冒険者が命を落とすことが多い。ホブとキャスターの組み合わせは、ベテランのパーティーも全滅しかねないからな」
「そう言ってくれると、助かります」
そうは言っても、あまり誇れるものではない。
俺がホブとキャスター……だったか、アイツらを倒せたのはassaultのおかげだ。俺の力じゃない。
あの程度の奴らに苦戦したなんて、いくら油断していたとはいえ恥ずかしい限りだ。
あの二人に知られたら、しばらくそのことで揶揄われてしまう。
「だがそうか……まだ巣にゴブリン共がいるのか。これは一度ギルドに報告した方が良さそうだな」
「そうね……ましてや上位種が数匹も目撃されたとなれば討伐隊を編成しないと……」
どうやらよっぽどのことであったらしく、二人は少し思案した後揃って俺の方を見る。
「シュウ殿。すまないが、我々の街に同行してもらえないだろうか?」
「実際に洞窟の中の様子を知っているあなたからの情報も欲しいの。お願いできないかしら」
「構いません。むしろこちらから頼みたいぐらいでした」
「では決まりだな」
「よろしくお願いします。シュウさん!」
「あ、ああ……よろしく、お願いします」
隣に座っていたサレナさんに満面の笑みと共に差し伸べられた手を、俺は若干戸惑いながらも握り返した。
◇
夜が明け、日がゆっくりと登り始めた頃。
朝露が辺りを立ち込め、陽の光によって照らされ実に幻想的だ。
都会生まれ都会育ちには、中々見られない光景はとても新鮮だ。
とはいえassaultの中で寝ていたせいで、身体のあちこちが痛い。
ひとえに寝袋を持っていなかったせいだが。
それにしてもアバター姿で疲れを感じるとは、なんとも不思議な感覚だ。
所々ゲームの時と同じなのに、肝心な時に限ってリアルなのがなんともだ。
「……ほんと、未だに信じられないな」
「何がですか?」
「ドゥワッ!?」
独り言に思わぬ返答があり、軽く驚きつつ後ろを振り向くとサレナさんが目を擦っていた。
「お、起こしちゃいましたか?」
「いえ、お気になさらず。大体、この時間に起きてますから」
「そうですか、なら良かった」
俺がそう言うと、会話が途切れてしまった。
なんとも気まずいことこの上ないが、人見知りの彼女と楽しく談笑できるほど、プレイボーイでもないしな……関係あるかは知らないけど。
俺はそのままウィンドウを操作しようとして、手が止まる。
サレナさんがこちらをチラチラと見ていて、気になってしょうがない。
「な、何か気になることでもありましたか?」
「あ、いえ、その……ショウさんはどちらから来たんですか? 随分と変わったお召し物をしてらっしゃるので」
「え、えっと……遠い島国とだけ」
「へぇ……そのassaultでしたっけ? あれは普通なんですか?」
「うーん、そうでもあるような……ないような?」
「ふふ、なんですかそれ」
「そこはそれなりに親密になったらってことで」
とはいえサレナさんには申し訳ないが、恐らくそんな日は来ることはないだろう。
「ところでいつ頃、出発します?」
「そうですね、ミランダさんとお姉ちゃんがもうすぐ起きると思うので、朝食を取る時に相談しましょう」
「了解」
それから少しして、ミランダさんとイレイナさんが起きて朝食の時間となった。
といっても、各々が持っている携行食を食べるだけだが。
じゃあ、お前の分はどうするんだとか思うかもしれないが、そこは安心してほしい。
ウィンドウからアイテム欄をクリックし、そこにあるレーションを更にクリックする。
すると手元にポリゴンが収束し、レーションが召喚される。
「本当に君には驚かされるばかりだ」
「ミランダ、もう彼にはそういうのはなしでいきましょう」
「……ですね」
なんか呆れられている気がするが、気にしない気にしない。
多分、これからもこう言った反応は続くだろう。
敵対されないだけ、御の字とだけ思っておこう。
包装を剥がして、レーションを口にする。
「グッ……!」
「ど、どうしました!?」
く、クソまずい!?
なんだ、この不味さは!?
例えようのない不味さだが、あえて言うなら。
牛乳を吸わせた雑巾と灰汁の入りまくったコーヒーをプラスチックと一緒にコンクリートミキサーで混ぜて、押し固めたかのような不味さだ。
とても食えたものではないが、残念ながらこれしか食料はない。
吐きそうになりながらも、無理矢理押し込める。
ああ……不味かった。マジ最悪。
そういえばあの携行食って、ゲロマズ設定だったけ。
ゲームでは味がしなかったから、完全に油断していた。
今度、一からフレーバーテキストとかちゃんと読もう。
飲み水が実は泥水でしたとか洒落にならん。
すると今までの様子を見ていたミランダさんが、こちらに言葉を掛ける。
「その、大丈夫か?」
「あ、ああ……気にしないでください。それでいつ出発しますか?」
「身支度を終えたらすぐにでも出発する。手伝ってくれ」
「分かりました」
そんな感じで、俺的に最悪な飯を終え支度を整えた。
「さて、このまま真っ直ぐ行けば、街道に出るからそこで荷馬車に乗せてもらおうと思っているんだが……」
皆の視線が、【ベイグラント】に向けられる。
ああ……うん。流石に、四メートルの人型ロボットを乗せる荷馬車はないよな。それ以上に目立つし。
「ちょっと待ってください」
ウィンドウを機体収納画面に移動し、またな、と心の中で相棒に別れを告げYESボタンを押す。
すると【ベイグラント】がポリゴンとなって消滅した。
「これで大丈夫ですよね?」
俺が【ベイグラント】がいた場所に立つと、数回飛んで証明する。
「……本当君には驚かされる。さ、行こう」
とうとう、反応すら億劫になってしまったようだ。
こればっかりは、俺がこの世界のイレギュラーな存在なのが悪いのだから。
出発してからはなんと言うか、非常に穏やかだった。
襲撃もなく森を抜け、街道で偶然通りかかった商人の荷馬車に乗せてもらうことになった。
初めて馬車に乗ったが、むっちゃ揺れて腰が痛くなりそうだ。
あと酔って、思わずリバースしそう。
あのまずいレーションの味をもう一回なんて、御免被る。
荷馬車の隅っこでぐったりとしていると、サレナさんが心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫ですか? あ、待っていてください」
そう言って、腰につけたポーチから小瓶を取り出す。
「……それは?」
「スタミナポーションです。と言っても安いものですけどね。酔いにも効きますよ」
ぎゅぽんと栓をあけ、差し出された物を受け取る。
口をつけようとして、一瞬嗅いだ独特の匂いで躊躇した。
この匂い……間違いない、絶対苦いタイプだ。
ゲームでも薬みたいに説明されるけど、想像以上にキツい……!
まずい、身体が拒絶反応を起こしてる。
これを飲んだら吐くぞ、と。
けどもう栓は空いているし、受け取ってしまった。
ここで飲まない、という選択は失礼に当たる。
「い、いただきます……」
本日二度目の覚悟を決め、一気に飲み干す。
口いっぱいには、草特有の独特な香りと強いエグ味が広がる。
ぬぉ……けど思ったより味はいい。
なんか一時期健康の為におふくろに飲まされた、青汁を思い出した。
クセは強いが、飲み慣れたら美味しく感じるのかもしれない。
心なしか、酔いもなくなってきたような気がする。
「ありがとう、助かりました。今度なにかでお礼します」
「ふふ、構いませんよ。冒険者は助け合いですよ」
俺は冒険者ではないけど、そういう考えは結構好きだな。
でも高価なものだったら、流石に申し訳ないから相場にあった物で返そう。
無難なお返しと言ったら……お菓子とかか?
あ、でも砂糖って高級なんだっけ?
まぁ、無一文の俺が何か買える訳でもないので、あとで考えよう。
「見えてきたぞ」
ミランダさんが指差し、その方へ目を向けると「おお……」と感嘆の声を漏らした。
目の前には、自然豊かな田舎の景色にはそぐわぬ巨大な城壁が円を描くように聳え立っていた。
「あれが城塞都市レナードです」
凄い。俺の語彙力がないせいで、それぐらいしか表現のしようがないのが残念だ。
なんでも昔、魔物の軍勢の侵攻を抑える為に作られたんだとか。
どれくらい昔かは知らないが、長い間維持しているというのが赴きを感じさせた。
それから少ししない内に、馬車は門に差し掛かった。
「止まれ!」
と、全身鎧を着込んだ男の門番が叫び、馬車は止まり寛いでいた皆んなも動き出し馬車を降りていく。
俺も認識票を握りしめ、馬車を降りた。
「身分を証明できる物を提示し、目的を言え」
そうやって簡単な職務質問が始まった。
順番として商人、ミランダさん、イレイナさん、サレナさんと続いて俺の番となった。
具体的な身分を証明するものを持っていないので、検問の時はどうなることかと思っていたのだが、そこは三人が身元保証人になってくれたことでことなきを得た。
俺は門番に軽く会釈をした後、レイナードの門を潜った先は発展した街並みが広がっていた。
商店や出店が並び、人がごった返している。
SF的なAWOの街並みも中々の物だったが、王道的な中世の街並みもゲーマーとしては興奮する。
「シュウさーん!」
俺が圧倒されていると、門を少し出た先でサレナが手を振って待っていたので、俺は駆け足気味に近寄る。
「遅れてすいません」
「いえいえ、気にしなくていいですよ」
軽い謝罪をサレナさんが受け取ってくれると、隣にいたミランダさんが指差す。
「ギルドはこっちの方だ。着いてこい」
「分かりました」
ミランダさんに案内されるまま、ギルドへ向けて俺達は街中を歩み出した




