沈黙の狂気
今、クーデターと成り果てた野良犬とハンブラビ帝国の正規の特別親衛隊隊員が対峙している。
どちらも強く、静かに、激しく戦い、そして…どちらも無口。
クーデターと成り果てた最悪の番犬、犬神奈拓中尉。
古い銃器を好んで使い、避けられないほどの至近距離まで接近して射撃する攻撃スタイルだ。
全然喋らない。
対するはハンブラビ帝国特別親衛隊のメッサー。
武器は日本刀に似た剣を二本使う二刀流だ。
全然喋らない。
どちらも狂っている。
というのもどちらも人を殺すときに笑みさえ浮かべる。
しかし、一つだけ2人の間で違うことがある。
それは犬神中尉が不意打ちに長けているということだ。
そうこうしているうちに激闘はいきなり始まる。
犬神中尉がいきなりメッサーに接近する。
いきなり接近し、剣を無闇にふれない間合いに入る。
犬神中尉は足腰のバネが普通の人間どころか隊内の誰も視野に入らないほど卓越している。
加速力、キック力、ジャンプ力全てが普通の域を3倍近く高い。
そんな犬神中尉が急接近すればもつれ合いになる。
しかし、「ズドンッ バキッズドンッバン!」といった音や衝撃が伝わりながら2人は声も出さない。
ときどき2人の攻撃が互いを弾き合い、離れることもあるがすぐにもつれ合う。
「…」
「…」
犬神中尉の使う銃はモーゼルC96とルガーP08というドイツの古い古い銃だ。
犬神中尉はそれをカスタムしてマガジンに入る弾を多くしてある。
しかし、弾が無くならない銃なんてない。
銃であれば弾丸の装填は絶対必要、そのぶん犬神中尉が不利だ。
しかし何故だ、犬神中尉が不利に見えない。
むしろ押しているように見える。
既に戦闘は誰も首を突っ込む余地のないほど静かにヒートアップしていた。
2人は流血し、息も切れている。
でも弱音を吐かない、声も出さない。
戦闘はさらに激化する。
今度は至近距離のもつれ合いじゃない、剣を思う存分振れる間合いになっている。
犬神中尉は恐ろしいほど不利になった。
しかしこの戦いは攻撃は掠っていくが直撃はしない。
振りかざされた剣は犬神中尉の頰をかすり、撃ち出された弾丸はメッサーの側頭部を掠っていく。
2人とも常軌を翻した動きだ。
敵がどこを狙っているかがまるでわかっているようだ。
ズドンッズドンッ!
ヒュンッ キンッ!
避けて攻撃して、これが続いてもう5分近くたっている。
そのとき、状況が動いた。
ズドンッ!!
犬神中尉のモーゼルC96の弾丸がメッサーの足にめり込んだ。
直撃したものではない。たまたま撃った弾丸をメッサーが斬り、それの破片がメッサーの足にめり込んだ。
いくら無口でも足に穴が開けばひるむ、その動きが止まった瞬間、メッサーの手足は蜂の巣のようになっていた。
メッサーはもう武器を振ることはできない。それどころか握ることもできない。
「…終わりだ…。」
犬神中尉が珍しく口を開く。
その瞬間、ひどい叫び声が聞こえた。
「うごあぁああぁぁ!!」
メッサーの叫び声だ。
「俺は…貴様を、…殺してやる…必ず、殺してやる!!」
「嫌いだ…嫌いだ、……お前みたいな…往生際の悪いのが…大嫌いだ。」
犬神中尉はそういうと笑顔を作り。
「死ね。」
とだけ囁いて引き金を引いた。
ズドンッ!!
とどめを刺したのはルガーP08の弾丸だった。
犬神中尉は敵対したものに敬意を示すことはない。
何があってもだ。
元の仲間でも敵となれば敬意を払わずに惨殺し、自分だけが元の仲間の敵になっても鏖殺する。
このサイコパスと言わざるを得ない犬神中尉はこの人殺しの嵐から足を洗う気は無い。
おそらく死ぬまで彼は銃を握りしめて人を殺し続ける。
こんなのだが、いやこんなのだから隊長は犬神中尉を部隊の戦力として使い続けるのだろう。




