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第7話 茶坊主、天野コウタ10歳登場!

茶助とレンが山門をくぐった、その瞬間だった。


「おいコラ」


「……え?」


二人の前に、小さな男の子が立っていた。


十歳くらい。


作務衣姿だが、顔つきは完全に生意気だった。


「お前ら、何しに来た?」


「今日から修行に――」


「帰れ」


「早い!」


レンが一歩前に出る。


「俺たちは、この寺で悟りを――」


「無理」


「まだ全部言ってないぞ!」


「顔見たら分かる」


「顔だけで判断するな!」


男の子は二人を交互に眺めた。


「……またか」


「また?」


「最近、大人がよく来るんだよ」


「俺たち高校生だけど」


「大人みたいな顔してる」


「どういう意味だ!」


男の子は茶助を指差した。


「お前、欲が多そう」


「……」


続けてレンを見る。


「お前は、めんどくさそう」


「俺のどこがだ!」


「ほら、めんどくさい」


茶助が吹き出した。


「お前、いいこと言うな」


「お前も同じだからな」


「え?」


「笑ってる場合じゃない」


茶助の笑顔が消えた。


「……」


男の子は満足そうにうなずいた。


「うん。やっぱり面白い」


「なんで分かるんだ?」


「人間観察の修行してるから」


「十歳で?」


「十歳だからできるんだよ」


「どういう理屈だ!」


男の子はほうきを動かしながら言った。


「大人は自分を立派に見せたがるだろ」


「まあ……」


「でも高校生は簡単。だいたい顔に出る」


茶助とレンは、反射的に自分の顔を触った。


男の子が笑う。


「ほら」


「何がだよ!」


「今、『俺、そんなに顔に出てる?』って顔してる」


「出てるのかよ!」


「しかも二人とも、自分のほうがマシだと思ってる」


「思ってない!」


「思ってないぞ!」


「ほら、同時に言った」


「うるさい!」


男の子は満足そうに笑った。


「面白いなあ」


だが、ふっと笑みを消す。


「でもさ。お前ら見てると、なんか安心する」


茶助とレンが顔を見合わせた。


「安心?」


「この寺に来る人、最初はみんな立派なんだよ」


「……」


「『自分を変えたい』『欲を捨てたい』『悟りを開きたい』って」


「ずいぶん大げさだな」


「そういう人ばっかり見てると疲れるんだよ」


男の子はほうきを握り直した。


「立派なこと言って、三日でいなくなるから」


「……」


「だから、最初からダメそうなほうが安心する」


男の子は茶助とレンを指差した。


「お前らみたいに」


「おい!」


レンが食い下がる。


「ほら、すぐムキになる。安心するわ。」


「何でだよ!」


男の子はニヤッと笑った。


「十歳の俺より、十七歳のお前らのほうが全然大人じゃないから」


「……」


「……」


二人は言葉を失った。


男の子は何事もなかったように掃除を続ける。


「人間って、そんなに簡単には変わらないんだなって」


「……」


「だから安心する」


その瞬間、寺の奥から声が飛んできた。


「コウタ! 新入りをからかうな!」


「からかってない! 修行してるだけ!」


茶助が叫ぶ。


「俺たちは修行道具じゃねえ!」


男の子は振り返り、いつもの笑みを浮かべた。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな」


「今さらかよ!」


「俺は天野コウタ。十歳。無心寺で茶坊主をしてる」


コウタは胸を張った。


「掃除、茶の用意、和尚さんの手伝い。それから、人間観察が仕事」


「最後のは仕事じゃねえだろ!」


「俺にとっては修行だよ」


コウタは二人を見比べた。


「今日からよろしくな、茶助、レン」


「なんで急に名前を――」


「俺の修行、手伝ってよ」


茶助が身構える。


「何をするんだ?」


「お前らを観察する」


「絶対イヤだ!」


「僕もだ!」


「じゃあ決まり」


「なんでだよ!」


こうして――


無心寺での修行初日。


茶助とレンには、仏門より先に、


十歳の茶坊主、天野コウタに人間性を観察されるという、別の修行が始まった。

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