第4話 策士!アカギの三計画!
アカギは、進路指導室で頭を抱えていた。
「あいつら、バカすぎる……」
机の上には、茶助とレンの進路希望調査票が置かれている。
二人の希望進路は、どちらも出家。
「出家を真に受けるなよ! 冗談に決まってるだろ! 普通、わかるだろ!」
アカギは頭をかきむしった。
「でも、これを説得できなかったオレは……」
脳裏に、薔薇園教頭の怒鳴り声が浮かぶ。
『説得できなければクビィィィィーーー!!!』
さらに、その隣で無言の圧力を放つ学園長の姿まで浮かんだ。
「クビだぁぁぁぁぁ!」
アカギは頭を抱えた。
そして、茶助の出家を食い止めるための3つの作戦を考えた。
⚫︎作戦1「褒めちぎり作戦」
「さっきはごめん。実は茶助、お前には教師も羨む才能がある!」
→茶助が目を輝かせる。
「やっぱりオレ、学校に残るべきかな?」
⚫︎作戦2「出家したらモテなくなるぞ作戦」
「茶助。寺に入ったら女子からモテなくなるぞ」
「高校生の青春を全部捨てることになる」
→茶助が真剣な顔で考える。
「やっぱりオレ、学校に残るべきかな?」
⚫︎作戦3「逆に出家推し作戦」
「茶助! 出家しろ!」
「ぜひ出家してくれ!」
→茶助が首をかしげる。
「何? 何? よく考えたら、出家っておかしいよね。やっぱりオレ、学校に残るべきかな?」
三つの作戦を考え終えたとき、アカギは自分のことを天才だと思った。
どう考えても、茶助が学校に残るストーリーしか見えない。
レンは、その性格上、出家しようとしている自分に酔いしれて、何を言っても聞く耳を持たなさそうだった。
だからアカギは、まず茶助を進路指導室に呼ぶことにした。
* * *
「何すか? もう話すことないんだけど」
茶助は、少し不機嫌そうに進路指導室へ入ってきた。
アカギは、さっそく作戦1を開始する。
「さっきは俺が悪かった」
アカギは、少し大げさなくらい申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「実は茶助、お前には教師も羨む才能がある!」
「……」
茶助は、黙ってアカギを見つめている。
アカギは、さらに畳みかけた。
「その才能を活かして、出家じゃなくて東大を一緒に目指そう!」
茶助は、少し考えた。
そして、真顔で答える。
「じゃあ、その才能を活かして出家する」
「なんでやねん!」
作戦1、失敗。
アカギは、すぐに作戦2へ移った。
「茶助。寺に入ったら、女子からモテなくなるぞ」
アカギは真顔で言った。
「高校生の青春を全部捨てることになる」
「……」
茶助は黙っている。
「どうだ? 思い直したか?」
茶助は、しばらく考えたあと、真剣な顔で答えた。
「じゃあ、寺で女子にモテる和尚になる」
「そういう方向に行くな!」
作戦2も失敗。
アカギは、とうとうヤケクソになった。
「茶助! 出家しろ!」
「え?」
「俺が寺も紹介してやる! ぜひ出家してくれ!」
茶助の顔が明るくなる。
「ほんと?」
「……あ」
アカギは固まった。
「しまった!」
これは、かなりヤバいことになった。
アカギの脳裏に、薔薇園教頭がヒステリックに怒り狂う姿が浮かぶ。
『アカギ先生! アナタは何を考えているんですカァァァっっ!?』
その想像に怯えながら、アカギはなぜか少しだけ思い出し笑いをした。
「……とにかく、薔薇園と学園長にバレずに、うまくコトを運べばいいだけだ」
アカギは、作戦を変更することにした。
「うまくごまかす作戦」だ。
アカギは、茶助に向き直った。
「わかった。男の約束だ」
「……」
「寺は、ちゃんと探してやる」
茶助の目が、少しだけ明るくなった。
「本当?」
「ああ。ただ、高校生を受け入れてくれる寺を探すには時間がかかる」
「……わかった」
「だから、俺に任せてくれ」
アカギは、心の中でガッツポーズをした。
これで時間を稼げる。
寺を探すふりをして、ズルズルと先延ばしにすればいい。
こんなバカたちは、すぐに出家のことなど忘れて、別のことに興味を持つだろう。
アカギは、また自分のことを天才だと思った。
しかし――
茶助は、アカギがとうとう自分の出家を認めてくれたと思った。
茶助の目に、少し涙が浮かぶ。
「アカギ……ありがとう」
「……え?」
「オレは今まで、ダメな人間だったんだ」
茶助は、ゆっくりと言葉を続けた。
「いろんな欲に負け続けていた」
アカギは、何も言えなかった。
「だから、出家してやり直したいんだ」
茶助は、少し寂しそうに笑った。
「父ちゃんも母ちゃんも、相談したいときにはいつもいなかった」
「……」
「これからは、アカギに相談するよ」
アカギは、固まった。
――あれ?
オレは今、茶助の出家を止めようとしている。
でも、本当に止めていいのか?
茶助は、ふざけているわけではない。
茶助なりに、自分の人生を立て直そうとしている。
アカギは初めて、茶助の出家を単なる冗談として片づけられなくなっていた。
「……茶助」
「何?」
アカギは、すぐには答えられなかった。
ただ、茶助の真剣な顔を見つめる。
そして、心の中でつぶやいた。
――オレ、茶助の出家を、本当に止めていいのかな?




