第23話 茶助!レンとカネで大揉めする!
夕方5時。南青山・本山の「無心ホール」には、夕日を背負った道楽院珍念が腕を組んで待ち構えていた。
「さて、時間だな。お前たち、『東京の欲望』にどう立ち回ったか見せてもらおうか」
珍念の目の前に、二人がそれぞれ結果を突き出す。
「へっへー! 見たか、珍念のおっさん! 俺は一等当せんの200万円だぜ!!」
茶助は懐から札束を取り出し、ドヤ顔で放り投げた。
元金の100万円を返しつつ、手元には丸々100万円の儲けが残っている。勝ち誇ったような茶助の顔は、まさに天下を取った王者のそれだった。
一方、その隣でレンは――。
「…………」
地面に額をすりつけ、完全に白目を剥いて微動だにしていなかった。所持金、見事に0円(正確にはマイナス100万円)。
「どうした、レン?」
珍念が面白そうに眉をひそめると、レンは涙を流しながら叫んだ。
「和尚ーーっ!! オレの100万円はアイドル系美人の高級ランチと爆買いの生贄に消えちまったぁぁーーっ!!」
「ふっ、見事なまでに欲望のマグマに飲み込まれたな」
珍念は満足そうに笑うと、黒服からレンの「マイナス100万円の請求書(無念和尚宛)」を受け取った。
「待て待て待て!」
茶助が慌てて割って入る。
「レン、お前マジかよ!? じゃあその借金、無念和尚に行くのかよ!」
「そうだよ! このままだとオレ、和尚に木刀でシバかれるか、滝壺に逆さ吊りにされるかどっちかなんだよ! 茶助、頼む! その儲かった100万円を分けてくれ……!」
レンが茶助の足にしがみつく。
しかし、茶助はパッと飛び退いた。
「ふざんな! これは俺が自力(と運)で掴んだ尊いマネーだ! なんでお前の女遊びのツケを俺が払わなきゃいけねえんだよ!」
「ケチ! 一蓮托生じゃなかったのかよ!」
二人がホールで揉み合っていると、面白そうにそれを眺めていた珍念が、ふっと妖しい笑みを浮かべた。
「そこまでだ。お前たち、喧嘩するな」
珍念はシュッとした指で、レンの借用書をひらひらと揺らした。
「どうしてもそのマイナスをチャラにしたければ……特別に、次の修行のチャンスをやろう」
「本当か!?」と、レンが顔を輝かせる。
「ただし条件がある。次の『極限・過酷系修行』を二人で協力して無事に乗り越えることだ。クリアできれば、レンの借金はチャラにしてやる。」
「ま、マジか……!二人で協力って!」
茶助は冷めた顔をして首を横に振った。
「いや、俺はすでに100万持っててウハウハなんだから、そんな危なくて面倒くせえ修行なんてしねえよ。勝手にレン一人でやってろって」
「茶助、待ってくれ! お願いだ、一人じゃ絶対に無理なんだよ! お前がいなきゃオレは終わるんだ!」
「知らねえよ!」
「頼む、一生のお願いだ! 今度こそお前の言うこと何でも聞くから……!」
レンが必死の形相でしがみつき、涙ながらに説得を続ける。
茶助は「まったく、しゃあねえな……」と、渋々ながらも首を縦に振るのだった――。
「ありがとう茶助! さすがオレの相棒だ!」
こうして、渋々ながらも次の修行に挑むことになった二人を、黒服は地下へと続くエレベーターへと案内した。
チィン、と地下深くへ降り立った扉が開き、目の前に広がった光景に、茶助とレンは絶句した。
そこは――ギラギラと光る鉄格子に囲まれた、薄暗い地下闘技場だった。
四周を取り囲む観客席からは、高級スーツを着込んだセレブや怪しげな猛者たちが、狂熱の歓声を上げている。中央のリングでは、屈強な格闘家たちが激しい打撃音を響かせながら殴り合っていた。
「な、なんだここは……!? お寺の中に地下闘技場があるのかよ!」
茶助が青ざめると、どこからかマイクを持ったアナウンサーの声が響き渡る。
「さあ、お待たせいたしました! 今日のスペシャルマッチ! 南青山・本山、特別ルーキーコンビの登場です――!!」
「「はあああぁぁ――っ!??」」
茶助とレンの絶叫が、地下闘技場の爆音にかき消されていく。
アナウンサーの叫び声とともに、茶助とレンは鉄格子のリングへと放り込まれる。
「おい、どういうことだこれ……! いきなり戦えってのかよ!しかもこれ何の修行だよ!寺と関係ないじゃん!!!」
「『極限・過酷系修行』ってこっち系かよ!!」
茶助とレンが青ざめる中、レフェリーを務める黒服の男が、無表情で二人に向かって奇妙なアイテムの入ったワゴンを押し出してきた。
ここで珍念は茶助達に言った。
「本日の特別ルールを説明する。このリングでは、お前たちはハンデとして『謎の支給アイテム』を自由に使って戦ってよい。さらに――!」
珍念は観客席を指さした。
「観客たちは、お前たちのどちらが勝つか、あるいはどんな醜態をさらすかに大金を賭けている。見事観客を沸かせ、勝利を手にした場合、レンの借金がチャラになる上、その総賭け金の『10パーセント』が、お前たちの取り分となる!」
「な、なんだって……!?」
茶助の目が、先ほどのスクラッチを思い出したかのようにギラリと狂気を帯びて輝いた。
「総賭け金の10%……!? ってことは、観客が何千万円も賭けてたら、俺たちの取り分だけで億を狙えるってことか……!?」
「待て茶助、頭のなかが金になりすぎだ! 相手を見ろ、あんなデカい奴と戦うんだぞ!」
レンが指さした対戦コーナーには、身長2メートル近い巨漢のプロレスラー崩れの男が、不敵な笑みを浮かべてバキバキと拳を鳴らしていた。
「ふん、筋肉モリモリだろうが何だろうが、金のためなら俺は負けねえ……!」
茶助はワゴンに並べられた「謎のアイテム」に飛びついた。
並んでいたのは、
『謎の怪しげな液体』
『木刀』
『激辛唐辛子スプレー』
『テニスラケット』
など、どれも胡散臭いものばかり。
「よし、これだ……!」
茶助が掴んだのは、なぜかピカピカに光る
『強力な高圧洗浄ノズル(謎の水流付き)』
だった。
「おい、おいおい! 武器じゃなくてそれ掃除用具だろ!」とレンが頭を抱える。
「うるせえ! 水の勢いでふっ飛ばしてやるんだよ!」
その間にも、観客席のセレブたちからは「おい、あの金髪の袈裟のガキどもに全額張ったぞ! ボコボコにしろ!」「いや、案外あの変なアイテムで奇跡を起こすかもな!」と、野次と期待が入り混じった大歓声と、莫大な賭け金がうず巻いていく。
巨大な敵が凄まじい殺気を放って迫ってくる中、借金チャラをかけたレンと、10%のバックマネーを狙う茶助の、命がけ(欲まみれ)の地下格闘技デスマッチが、ついにゴングを鳴らした――!




