↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/25

第22話 茶助!100万円の誘惑に勝てるのか?!

「この南青山・本山で一人前になりたければ、まず『東京の欲望』に打ち勝たなければならない。」


そう言って珍念は奥から黒服を呼んだ。

黒服は茶助とレンに分厚い封筒を渡す。


「今からお前たちには、100万円をそれぞれ渡す。それを夕方の5時にまたここに持って来る。それだけの修行よ!増やしたければ増やせばいい。増えた分はお前たちの取り分だ。ただし100万を切った分は全て、兄弟子の無念に請求するぜ。」


「じゃあ俺たち買っても負けても損しないじゃん!」


茶助は100万の封筒に目をキラキラさせている。


「茶助、待て! 今和尚が言っただろ! 『東京の欲望に勝て』って! これは使わないのが正解じゃないのか?」


レンが茶助を遮る。


「え?」


茶助は封筒を見つめた。


「じゃあ……この100万円、使わなかったら100万円のまま返せばいいの?」


「そういうことだろ」


「それって修行なの?」


「だから修行なんだよ!」


レンが呆れた顔をする。


すると珍念が、ニヤリと笑った。


「レン。お前はなかなか物分かりがいいな」


「やっぱり……」


「だがな」


珍念は茶助の持つ封筒を指差した。


「その100万円を、夕方まで一度も使わずに持っていられると思うか?」


「……え?」


「ここは東京だぞ」


珍念は窓の外を眺めた。


青山の街を、人々が足早に行き交っている。


「腹が減れば飯を食いたくなる。喉が渇けば飲み物が欲しくなる。服が欲しくなる。女が欲しくなる。高級車が欲しくなる。ブランド品が欲しくなる」


珍念はそこで一拍置いた。


「そして、金があれば――もっと金が欲しくなる」


茶助の目が再び輝いた。


「……もっと金が欲しくなる?」


「おい、茶助!」


レンが叫ぶ。


「今のところに食いつくな!」


「だってさ……100万円が200万円になったら、100万円もらえるんだろ?」


「そうだけど!」


「じゃあ1000万円になったら?」


「なるわけないだろ!」


「一億円は?」


「なるか!」


珍念は腹を抱えて笑った。


「はっはっは! いいぞ、茶助! その欲望だ!」


「え?」


「お前が今日、何に負けるのか――楽しみにしているぞ」


茶助は封筒をぎゅっと握った。


そこには、茶助の人生で見たこともないような大金が入っている。


100万円。


たった紙切れの束なのに、なぜか心臓がドクンと鳴った。


「……俺、絶対増やす」


レンが頭を抱えた。


「そうじゃねえんだよ……」


南青山のビルを飛び出した二人は、それぞれに手渡された100万円の封筒を握りしめて街へと繰り出した。


数時間後――。


南青山の洗練された通りを歩いていたレンの前に、突如として眩い光を放つ美少女が現れた。


大きな瞳にスッとした鼻筋、透き通るような白い肌。ふんわりと揺れる巻き髪と、トレンドを完璧に抑えたガーリーなワンピース。


まるでアイドル雑誌の表紙から飛び出してきたかのような、圧倒的な透明感を持つアイドル系美女


――神楽坂玲奈だった。


(なっ……なんだこの天使は……!)


レンは一目で心を奪われた。雷に打たれたような衝撃とはまさにこのことだ。


ロイヤル・プレミアム学園女子人気No. 1のプライドと、男としての本能が、レンに無謀な行動を起こさせる。


――いかん、ここで声をかけなければ一生後悔する!


「東京にも俺の魅力が通用するか、試してみるか」


「何を?」


「ナンパだよ」


「ええ!?」


レンは胸を張った。


「茶助、見てろ。俺の実力を」


そう言って、レンは少女の前へ歩いていった。


「お姉さん」


少女が振り向く。


「何?」


レンは自信満々の笑顔を浮かべた。


「この後、暇?」


「……は?」


「俺、こう見えて結構いい男なんだよ。青山の本山で修行してる僧侶で――」


「興味ない」


「…………」


即答だった。


レンの笑顔が固まる。


しかし、まだ諦めない。


「いやいや、そう言わずに。俺と一緒にお茶でも――」


「ごめん。タイプじゃない」


「…………」


二撃目。


レンの眉がピクッと動いた。


「……俺が?」


「うん」


「タイプじゃない?」


「全然」


「…………」


レンの自信が、音を立てて崩れていく。


茶助は少し離れたところで、その様子を見ていた。


「レン……」


「うるさい」


「まだ何も言ってないぞ」


「うるさい!」


レンは肩を落とした。


「……東京、怖ぇ」


「さっきまで余裕だったじゃん」


「東京の女の子、レベル高すぎるだろ……」


レンは青山の街を見渡した。


すれ違う女性たちは、みんな洗練されている。


「俺の自慢のテクニックが……通じない……」


「テクニックって何だよ」


レンはしばらく黙っていた。


そして――ふと、自分の手元を見る。


そこには、珍念から渡された分厚い封筒。


100万円。


レンの目が変わった。


「……そうか」


「ん?」


「俺には……これがある」


レンは封筒を持ち上げた。


「金だ」


「嫌な予感しかしない」


「東京で俺がモテないなら――」


レンは拳を握りしめる。


「東京のルールに合わせればいい!」


「どういう意味だよ!」


レンは再び玲奈のもとへ走っていった。


「待ってくれ!」


「まだ何か?」


レンは勢いよく頭を下げた。


「俺とデートしてください!」


「……は?」


「食事でも、買い物でも、好きなところに連れていく!」


「いや、急に言われても……」


レンは封筒を取り出した。


「今日は俺が全部払う!」


「……」


玲奈の視線が封筒に向く。


「いくら入ってるの?」


「100万円!」


「……100万円?」


「そうだ!」


レンは胸を張った。


「今日一日、全部俺が出す!」


玲奈は少し考えた。


「……本当に?」


「もちろん!」


「じゃあ……」


玲奈は少し笑った。


「一日だけなら、付き合ってあげてもいいよ」


「よっしゃあああああ!」


レンは拳を突き上げた。


茶助が遠くから叫ぶ。


「レン! お前、金でデート成立させてるじゃねえか!」


「うるさい! これも修行だ!」


こうしてレンは、100万円を握りしめたまま玲奈とのデートにこぎつけた。


だが――。


そこからが本当の地獄だった。


ランチ。


「これ、いくら?」


「38000円」


「…………」


買い物。


「これ欲しい」


「いくら?」


「12万円」


「…………」


カフェ。


「このケーキかわいい!」


「全部頼もう!」


「え、いいの?」


「もちろん!」


夕方には、レンの財布から次々と金が消えていった。


そして――。


「レン」


「ん?」


玲奈が笑顔で言った。


「次、あのお店行こうよ」


レンは恐る恐る財布を開いた。


「…………」


残金。


0円。


「…………」


レンの顔から血の気が引いた。


「お、俺の100万円……」


数時間前まで自信満々だったレンは、青山の街角で膝から崩れ落ちた。


「全部……使っちまった……」


その頃――。


茶助はというと、


「ひゃっはー! 最新型VRゲーム機も買った! 高級ブランドのジャケットも買った! 昼飯は一万円の高級ステーキコースだぜ!!」


こちらも欲望全開だった。


そして夕方前。


「やべ……マジで残り100円じゃねえか……」


青山の路地裏で、茶助は財布の底に残った最後の硬貨を握りしめて青ざめていた。


元金どころか、全額すっからかんのゲームオーバー寸前である。


通りすがりの宝くじ売場が、まるで最後の救済措置(あるいは悪魔の誘惑)のように茶助の目に飛び込んできた。


「こうなりゃヤケだ……! 一か八かだぁーーっ!!」


震える手で買ったのは、1枚100円のスクラッチくじ。


茶助がコインで銀色の部分をガリガリと削ると――。


「……え?」


そこに並んだ数字は、まさかの「一等当選」。


「お、おいおいおいおい……に、200万円当たったぞーーーーっ!!!!」


路地裏に茶助の絶叫が響き渡った。


こうして、地獄と天国を味わい尽くした二人は、夕方5時――約束の時刻を迎えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。