第20話 さらば無心寺!次なる修行の地へ!
「修行が終わったら……私を迎えにきて」
みさきが、まっすぐ茶助を見つめた。
茶助は少しだけ照れながら、うなずく。
「……わかった」
「おい」
横からレンが口を挟んだ。
「これだけ?」
「え?」
「いやいやいや! 『わかった』だけって何だよ! 普通ここ、もっとあるだろ!」
「もっとって……」
「キスとか!」
「レン!」
茶助の顔が一気に赤くなる。
「うるさい!」
「なんで俺が怒られるんだよ!」
こうして茶助は、みさきと別れた。
修行を終えたら、必ず迎えに来る。
その約束を胸に――。
* * *
夕方になり、いよいよ茶助とレン、葉月たちが学園を出て、無心寺向かう。
全校生徒と教職員が茶助達を見送る。
車のハンドルを握っているのは、邪鬼。
すると後ろから女子生徒たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ねえ、あれ誰?」
「だれ、あのおじさん……キモイ」
「なんか怖ーい」
邪鬼の眉がピクリと動いた。
「…………」
そして、しばらく黙ったあと、
「だから学園とか行くの嫌だったんだ!しかもオジサンてオレはまだ22歳だし!!!」
邪鬼の悲痛な叫びが響いた。
「そこかよ!」
レンが即座にツッコむ。
「鬼なんだから仕方ないだろ!」
「開き直るな!」
茶助は苦笑した。
「まあまあ……」
その時だった。
葉月が、ふと何かを思い出したように鞄を開いた。
「……待って」
葉月が取り出したのは、一枚の古い写真だった。
「これ……」
写真には、幼い葉月と美月。
そして、その二人の間で笑っている母親の姿が写っていた。
「お母さん……」
葉月は写真を見つめる。
「この写真、お母さんがいなくなる前に撮ったものなの」
茶助たちが写真を覗き込む。
「でも、これがどこで撮られたのか、ずっとわからなかった」
「写真だけじゃ場所はわからないよな」
レンが首をかしげる。
その時――。
「ちょっと貸してみろ」
邪鬼が写真を受け取った。
じっと写真を見る。
そして、すぐに言った。
「……ここ、知ってる」
「え?」
葉月が顔を上げた。
邪鬼は写真の背景を指差した。
「この神社だろ?」
「わかるの!?」
「ああ。間違いない」
邪鬼は写真を裏返し、もう一度表を見る。
「これは雲取町と星月町の更に奥にある――」
少し間を置いて、
「神代村の神社だ」
葉月の目が大きく開く。
「神代村……」
「この村に行けば、絶対にわかる!」
邪鬼は力強く言った。
「お母さんの居場所が?」
葉月が震える声で尋ねる。
「そこまではわからねえ」
邪鬼は写真を葉月に返した。
「だが、この写真が神代村で撮られたのは間違いない」
葉月は写真を胸に抱きしめた。
「……行きたい」
茶助がうなずく。
「行こう」
「でも……」
葉月の目には不安が浮かんでいた。
「もし、何もなかったら……」
茶助は優しく笑った。
「その時は、その時だ」
「茶助くん……」
「一人で探すより、みんなで探したほうがいいだろ?」
レンも笑う。
「そういうこと!」
邪鬼が運転席に戻る。
「決まりだな」
エンジンがかかった。
こうして一行は、雲取町を抜け、星月町を越え、そのさらに奥――神代村へ向かった。
* * *
山道を抜けると、やがて小さな村が見えてきた。
「ここが……神代村」
葉月が窓の外を見る。
静かな山間の村。
車を降りると、一行は村の中へ歩いていった。
「すみません!」
葉月が、道端で畑仕事をしていた村人に声をかけた。
村人が振り返る。
「なんだい?」
葉月は写真を取り出し、村人に差し出した。
「この写真に写っている女性を知りませんか?」
村人は写真を受け取ると、すぐに目を見開いた。
「ああ、この人なら知っているよ」
「えっ!?」
葉月の声が震えた。
「本当ですか!?」
「ああ。今もこの村に住んでいる。ほら、あそこの家だ」
村人が指差した先に、一軒の古い家があった。
葉月は写真を握りしめたまま、その家を見つめる。
「お母さんが……ここに?」
「そうだよ。すぐそこだ」
葉月は一瞬、足を止めた。
長い間、探し続けていた母親が、すぐ目の前にいる。
「葉月……」
美月がそっと声をかける。
葉月はうなずいた。
「行こう」
茶助たちとともに、家の前まで歩いていく。
葉月が震える手で、玄関の戸を叩いた。
「はい……」
中から女性の声が聞こえた。
戸が開く。
そこに立っていたのは、写真の中で笑っていた女性だった。
女性は葉月の顔を見た瞬間、息をのんだ。
「……葉月?」
葉月の目から涙がこぼれた。
「お母さん……」
女性の手が震える。
「葉月……!」
「お母さん!」
葉月が駆け出す。
二人は強く抱きしめ合った。
「お母さん……!」
「葉月……大きくなったね……」
「ずっと……ずっと会いたかった!」
「ごめんね……本当にごめんね……私離婚後、どうしようなくてお寺にあなた達を預けたの….」
「もういいよ……」
母親は葉月を抱きしめながら、何度も頭を撫でた。
* * *
すっかり夜になり、邪気の運転するメルセデス・マイバッハは無心寺に到着した。
寺では無念和尚、コウタ、美月が待っていて、みんなを出迎えた。
母親が美月を見る。
「美月……」
母親は美月を抱きしめた。
9年間。
離れ離れになっていた三人。
葉月。
美月。
そして母親。
三人は、声を上げて泣いた。
「お母さん……」
「二人とも……本当に大きくなったね……」
少し離れたところで、茶助たちは静かに見守っていた。
レンが目元をぬぐう。
「……よかったな」
邪鬼も腕を組んだまま、静かに笑っている。
茶助も笑った。
「うん……」
母親が茶助たちに頭を下げる。
「この子たちを連れてきてくれて、本当にありがとう」
「いえ……」
茶助は首を横に振った。
「俺たちは、一緒に来ただけです」
その様子を無念和尚はしばらく見つめていたが突如として大声を上げた。
「うむ。これで茶助とレンの修行は『第一部、完』じゃ!!!」
「…………」
茶助たちは固まった。
「え?オレたちまだここでの修行中だぜ?!」
レンも目を丸くする。
「ここでいきなり修行終わるの!?」
和尚は平然としている。
「ここでじゃ」
「いやいや、急すぎるだろ!」
「第一部最終回じゃからの」
「そういうこと!?」
和尚は懐から一通の封筒を取り出した。
「茶助よ」
「はい」
「次なる修行地は――」
和尚が封筒を差し出す。
「無欲山の本山じゃ」
「無欲山の本山……?」
「そこには、わしの弟弟子――道楽院珍念がおる」
和尚は紹介状を取り出した。
「これを持って行け。珍念に渡せば、修行をつけてくれるじゃろう」
「はい!」
茶助が紹介状を受け取る。
そして和尚は、さらりと言った。
「場所は――東京都渋谷区南青山三丁目じゃ」
「…………」
茶助たちが沈黙する。
コウタが口を開いた。
「めちゃくちゃ都会じゃん」
レンも驚く。
「本山なのに南青山かよ!」
邪鬼は少し寂しそうに呟いた。
「……寂しくなるな」
コウタが振り返る。
「オレ、お前らの観察ができないと修行できないじゃん!」
「お前は何を修行してたんだよ!」
レンのツッコミが無心寺に響き渡る。
茶助は笑った。
「まあ……なんとかなるだろ」
和尚は満足そうに頷く。
「うむ」
こうして――。
無心寺での修行は終わった。
次なる舞台は、東京・南青山。
無欲山本山。
そこに待ち受けるのは、和尚の弟弟子・道楽院珍念。
欲田茶助17歳の修行は――
新たな舞台へと続いていく。
第一部・完。




