第19話 茶助とレン!学園に凱旋する!
ロイヤル・プレミアム学園の職員室は騒然としていた。無心寺側から連絡が入り、茶助とレンを1日限定で学園に戻して欲しいと言ってきたのだ。
「あの問題児たちが何で戻ってくるのカシラ?学園長が許可なさった理由がわからないワ」
薔薇園教頭は苦虫噛み潰したような表情で言った。
「もしかしたら、もう悟りを開いたとか?」
アカギは真面目な顔をして言った。
「アナタバカなの?あの子たちに限ってそんなことないでショ!!!」
学園の女子たちは浮き足だっていた。
朝、正門前には、ほぼ全員の女子達が2人の登校を待ちわびていた。
「茶助くんとレンくんがいなくなって、私学校が楽しくなくなったの」
「私、今度こそ告白する!」
「茶助くん、どんな顔になってるかな?」
「レンくん、修行してもっとカッコよくなってたりして……」
そんな声が飛び交う中――
遠くから、低く重厚なエンジン音が聞こえてきた。
「……ん?」
一台の漆黒の車が、ゆっくりと正門へ近づいてくる。
「え……何、あの車?」
車体には、品のある金色のエンブレム。
そこには堂々と、
『無心寺』
と刻まれていた。
「ちょっと待って……」
「マイバッハじゃない!?」
漆黒のメルセデス・マイバッハが、女子生徒たちの目の前で静かに停車した。
後部座席のドアが、ゆっくりと開く。
女子たちの視線が、一斉に集中する。
そして――
「おはよー!!」
最初に降りてきたのは、茶助だった。
しかし、いつもの茶助とは明らかに違っていた。
黒いサングラスをかけ、全身に金色の袈裟をまとっている。
その姿は、修行僧というよりも、どこか高級ブランドの広告モデルのようだった。
「キャーーーーーー!!!」
女子たちから大歓声が上がる。
「茶助くーーーん!!」
「おかえりーーー!!」
「カッコいいーーー!!」
「金色の袈裟、似合ってるーーー!!」
茶助はサングラスを少し下げ、照れながら頭をかいた。
「いやいや、そんな大げさな……」
続いて、反対側のドアが開く。
レンが降りてきた。
レンもまたサングラスをかけ、金色の袈裟をまとっている。
茶助よりも無言で落ち着いた雰囲気を漂わせており、まるで無心寺の若き高僧だった。
「……久しぶりだな」
「レンくーーーん!!!」
こちらも黄色い歓声に包まれる。
「サングラス姿も素敵ーーー!!」
「金色の袈裟が似合いすぎるーーー!!」
「修行でさらにカッコよくなってるーーー!!」
レンは少し困ったような顔をして、茶助を見る。
「……和尚に言われてこんな格好で登校したけど、俺たち、何か勘違いされてないか?」
「たぶん……アイドルみたいになってる」
「いや、どちらかというと……」
レンは自分の金色の袈裟を見下ろした。
「宗教団体の広告塔に見える」
「それ、言っちゃダメなやつじゃない?」
二人が並んで正門を見る。
サングラスに金色の袈裟、そして背後には漆黒のマイバッハ。
職員室の窓からその光景を見ていた薔薇園教頭の横でアカギが呟く。
「教頭先生……」
「何ヨ」
「これ欲望にまみれて帰ってきてません?」
1限目は体育館で茶助とレンによる説法だった。
「俺たち、まだ修行中の身なのに説法していいのかな」茶助が言った。
「テキトーに喋っとけばいいんだよ」
レンが冷たく突き放す。
そして1限目が始まった。
舞台の上で茶助が女子達を煽る。
「みんな!盛り上がってるか!」
「イェーーーーイ!!!」
体育館中に女子たちの歓声が響き渡った。
その横で、レンは腕を組んだまま、呆れたように茶助を見ている。
「……これ、説法なのか?」
「細かいことは気にするなって!」
茶助は笑いながら、女子たちを見渡した。
「でもな、今日はちょっとだけ真面目な話をする!」
体育館が静かになる。
「俺たち、無心寺で毎日修行してたんだ」
茶助はサングラスを外した。
「朝は早いし、掃除もする。座禅もする。和尚には怒られる。飯は質素だし、自由時間もほとんどない」
「……まあ、俺は三日目で逃げようとしたけどな」
レンがボソッと付け加える。
「言うなよ!」
体育館から笑い声が起こる。
茶助も笑った。
「でもさ……」
少しだけ表情が変わる。
「最初は、こんなの何の意味があるんだって思ってた」
女子たちは黙って茶助を見つめている。
「だけど、毎日同じことをやってると、不思議なんだよな」
茶助は胸に手を当てた。
「今まで見えてなかったものが、ちょっとだけ見えるようになった気がする」
レンが横から茶助を見る。
「……お前、ちゃんと修行の話できるじゃないか」
「俺だってやるときはやるんだよ!」
再び笑いが起こる。
茶助は体育館を見渡した。
そして――
「そうだ!」
突然、何かを思い出したように声を上げる。
「葉月いるか?」
体育館がざわついた。
「葉月って……」
「誰?」
「あの3年の綺麗な子?」
茶助は舞台の上から、客席を見渡す。
「葉月ーーー!」
その声に、体育館の後方から一人の女子生徒がゆっくりと立ち上がった。
「……私?」
茶助は満面の笑みを浮かべた。
「そう! 葉月!」
レンは隣で小さくため息をついた。
「……こんなに堂々と探すか?!」
「いいじゃん、手取り早くて」
茶助は葉月に向かって手を振った。
「葉月の姉ちゃん、美月さんは今も生きている。俺たちは美月と色んな冒険をしてきた。」
そうして茶助は月影峠での冒険の話をし始めた。
悲しい美月の物語。
最初は騒がしかった観衆も静かに茶助の話を聞いて涙した。
「葉月、俺たちと一緒に無心寺に来てくれ!姉ちゃんの美月も待っているから!」
葉月は静かにうなずいた。
◇
昼休み、茶助とレンは屋上で寝転がり、2人で流れる雲を見ていた。
あれから1ヶ月しか経っていないのに、すごく長く感じた1ヶ月だった。
何者でもなかった自分が、何者かになる手がかりを掴んだように茶助は感じていた。
そして茶助は誰かを待っていたかのように言った。
「そこにいるんだろ、みさき。ここに俺たちがいれば絶対に来てくれると思ったよ。」
階段の扉の影から2人の様子をみていた、みさきが静かに姿を現した。
「今日は鼻血だすなよ。」
レンが軽く突っ込む。
みさきは茶助の横に寝転がった。
そして言った。
「ちゃ、茶助くん、会いたかった。」
みさきは手を茶助のほうに伸ばした。
茶助はみさきの手を握りしめた。
「おいおい、オレは邪魔か?」
レンはつぶやいた。
茶助は言った。
「オレ、修行しているとき、いつも何故かみさきのことを思い出したよ。辛い時、夜寝る時も。最初はそれ何故か分からなかった。でも今はわかったよ。オレはみさきのことが好きだ…」
そして二人は見つめ合った。
この日も青空に白い雲がゆっくりと流れていた。




