第15話 邪鬼!再び対決する!
一週間に及ぶ無限地獄の刑を終えた茶助とレンは、ふらふらになりながら無心寺へ戻ってきた。
「やっと終わった……」
茶助が境内に座り込む。
「俺は生まれ変わった。もう欲望には負けない!」
「では、目の前の団子も食べないのだな?」
レンが茶菓子を指差す。
「……これは修行の疲れを癒やす必要経費だ!」
「欲望に負けているではないか」
そこへ、山門の陰から邪鬼が現れた。
「お前ら、ずいぶん偉そうだな」
「邪鬼! お前も謹慎が終わったのか?」
「反省文十枚など朝飯前だ!」
「でも、三日かかったんだろ?」
「黙れ!」
二人がにらみ合ったところで、和尚が歩み寄ってきた。
「ちょうどよい。お前たち三人に勝負をしてもらう」
和尚は裏山を指差した。
「山の奥に、無心寺の秘宝を隠した。最初に見つけた者を勝者とする」
「秘宝!? 宝石か? 金の仏像か? 巨大なダイヤモンドとか!」
「なぜ寺の秘宝が宝石だと思う?」
レンが冷静に尋ねる。
「秘宝って言ったら、普通はキラキラしたものだろ!」
「私も参加しよう」
レンが腕を組む。
「望むところだ!」
邪鬼も拳を握った。
和尚はヒントを一つだけ告げた。
「絡み合っているが、分けられないもの」
「それだけ!?」
茶助が叫ぶ。
「修行とは、自分で答えを探すものだ」
和尚はそれだけ言うと、境内へ戻っていった。
「よし! 俺が一番に見つけて、宝石を手に入れてやる!」
「宝石とは限らないだろう」
三人は一斉に裏山へ駆け出した。
山道を進む途中、茶助が絡まったツルを見つけた。
「わかった! これだ!」
ツルを引っ張ると、簡単にぷつりと切れた。
「……分けられるじゃん」
「失格だな」
「うるさい!」
今度は木の枝が茶助の髪に引っかかった。
「痛っ! 髪の毛ならどうだ! 絡まって分けられない!」
「一本ずつ分けられる」
「じゃあ、邪鬼の髪!」
「俺の髪を勝手に使うな!」
遠くから邪鬼の怒鳴り声が響いた。
その邪鬼は別の山道で、足元に落ちていた糸玉を拾い上げた。
「これだ! 答えは糸だ!」
邪鬼は糸玉を手に、急いで山を下りていった。
一方、茶助とレンは山奥で古い石碑を見つけた。
石碑には、こう刻まれていた。
『絡み合うもの、ひとつにして力を得る』
レンが石碑を見つめる。
「何本ものものが絡み合い、一つになる……」
そのとき、茶助の足元に古びた縄が落ちているのが見えた。
「……これだ!」
茶助が縄を拾い上げる。
「何本もの繊維がより合わさって、一本の強い縄になっている。石碑の言葉にもぴったりだ!」
「確かに、糸よりも条件に合っているな」
「よし、戻ろう!」
二人が境内へ戻ると、邪鬼はすでに和尚の前に立っていた。
「答えは糸だ! 俺の勝ちだな!」
邪鬼が糸玉を掲げる。
「待った! 答えは縄だ!」
茶助も縄を掲げた。
「糸も絡み合っている!」
「でも、縄は繊維がまとまって強くなっている!」
「糸だって絡み合っているだろう!」
言い争う二人の間に、レンが入った。
「どちらもヒントには当てはまる。和尚、正解はどちらだ?」
和尚は糸玉と縄を見比べた。
「答えは、縄だ」
「やった!」
茶助が拳を握る。
「なぜだ!?」
邪鬼が叫ぶ。
「糸も絡み合っている。だが、この縄は複数の繊維がより合わさり、一本の強いものになっている。今回のヒントに、よりふさわしい」
和尚は縄を茶助から受け取った。
「そして、これが無心寺の秘宝だ」
茶助は縄を見つめた。
「……これが?」
「そうだ」
「宝石じゃなくて?」
「宝石ではない」
「金の仏像でもなくて?」
「違う」
「じゃあ、縄の中に何か入ってるとか?」
「入っていない」
茶助は縄を見つめたまま、力なくつぶやいた。
「……ただの縄じゃん!」
「ただの縄ではない」
和尚は縄を両手で持ち上げた。
「一本の繊維では、すぐに切れてしまう。だが、何本もの繊維が絡み合い、互いに支え合うことで、強く丈夫な一本の縄になる」
レンがうなずく。
「一つ一つは弱くても、力を合わせれば強くなるということか」
「その通りだ。この縄は、無心寺の僧たちが代々、修行の合間に編み続けてきたもの。何人もの力と時間が重なって、今の形になっている」
茶助は少し感動したように縄を見つめた。
「高価だから秘宝なんじゃなくて、積み重ねられた思いと、受け継がれた力があるから秘宝なんだな……」
「その通りだ」
「つまり、俺の勝ち!」
茶助が胸を張る。
「ただし、邪鬼の答えも間違いではない」
「……惜しかったということか」
邪鬼が糸玉を見つめる。
和尚は縄を手に取った。
「禍福糾える縄の如し」
茶助が首をかしげる。
「……それって、どういう意味?」
和尚は少し考えた。
「まあ……人生、いろいろあるということだ」
「ざっくりしすぎ!」
茶助がツッコむ。
その瞬間――。
邪鬼の足が縄に引っかかった。
「うわっ!」
邪鬼が転び、縄が宙に跳ね上がる。
縄は茶助の首にすぽんと入った。
「えっ、俺!?」
茶助が慌てて縄を引っ張ると、反対側がレンの腕に絡みついた。
「茶助、引くな!」
「引いてない! 勝手に絡まったんだ!」
邪鬼が立ち上がろうとすると、縄がさらに引っ張られた。
「お前が引いているのだろう!」
「俺は引っ張られているんだ!」
「二人とも、動くな!」
レンが制止した直後、茶助が足を滑らせた。
「動くなって言われると、動きたくなるんだよ!」
「なるな!」
茶助が倒れ、レンが巻き込まれ、邪鬼まで引きずり込まれる。
三人は縄に絡まり、地面を転がった。
「俺の足を踏むな!」
「踏んでない! 縄だ!」
「誰か、縄の端を探せ!」
「どこにあるんだ!?」
「私の背中の下だ!」
「それは俺の背中だ!」
三人は最後には団子のようにひとまとまりになった。
和尚はその様子を静かに見下ろしていた。
「……なるほど」
三人が顔を上げる。
「何が?」
和尚は真顔で答えた。
「お前たちは、まだ煩悩と仲良しのようだな」
「うまいこと言ってないで助けて!」
茶助の叫び声が、裏山に響き渡った。
――無心寺の修行は、まだまだ続く。




