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第13話 無限地獄♾️最終関門!無限掃除!

木道を渡り、池の反対側へたどり着いた茶助、レン、コウタ。


そこには、古びた墓石が並ぶ小さな墓地があった。


ひゅうう……。


秋風が吹き抜ける。


落ち葉が、ひらひらと舞っている。


茶助は辺りを見回した。


「……墓地?」


すると、墓地の入口に大きな看板が立っていた。


『最終関門 無限掃除』


「…………」


茶助は看板を二度見した。


「無限掃除?」


レンも眉をひそめる。


「掃除が最終試練なのか?」


コウタは嬉しそうに、ほうきを一本拾った。


「お掃除だ!」


「お前は遠足気分か!」


そのとき、墓地の奥から、突然、無念和尚が現れた。


「最終関門は、墓地の掃除じゃ!」


「うわっ! いきなり出てくるなよ!」


「驚かせるつもりはなかったのじゃ」


和尚は咳払いをして、三人を見回した。


「おぬしたちが最後の試練に挑むと聞いてな。様子を見にきたのじゃ」


「見にきただけ?」


「もちろん、監督も兼ねておる」


「絶対、途中で逃げないように見張りにきたんだろ!」


和尚は聞こえなかったふりをした。


「さて、最終関門の説明じゃ」


和尚が杖を掲げると、墓地いっぱいに落ち葉が舞い始めた。


「この墓地には、本物の落ち葉と幻覚の落ち葉が混ざっておる」


「……幻覚?」


茶助が首をかしげた、その瞬間。


ひらひらひらひら……。


一枚の落ち葉が目の前に落ちてきた。


茶助はほうきでサッと掃いた。


「よし、一枚!」


ところが――


ひらひらひらひらひらひら……。


「…………」


落ち葉が三枚になった。


「増えたぁぁぁ!!」


茶助は慌てて掃く。


サッ!


一枚。


ひらひらひら。


三枚。


「なんでだよ!」


さらに掃く。


サッ!


三枚。


ひらひらひらひらひらひらひらひらひら。


「また増えたぁぁぁ!!」


レンが冷静に言った。


「茶助。お前、掃除が下手なんじゃないか?」


「違うわ!」


コウタが落ち葉を一枚拾い上げる。


「この葉っぱ、ちょっと変だよ」


「何が?」


「触れない」


コウタの指が落ち葉をすり抜けた。


茶助は固まった。


「……幻覚?」


その瞬間、墓地いっぱいに落ち葉が舞い始めた。


ひらひら。


ひらひら。


ひらひらひらひら――。


その一枚一枚から、茶助の声が聞こえてくる。


『学校に帰りたい!』


『おいしいもの食べたい!』


『女の子にモテたい!』


『タワマン住みたい!』


『金が欲しい!』


「俺の欲望じゃねえかぁぁぁ!!」


茶助は頭を抱えた。


掃いても掃いても、落ち葉は増えていく。


一枚を消そうとすれば、三枚になる。


三枚を消そうとすれば、十枚になる。


目の前の落ち葉だけでなく、頭の中の欲望まで、次々と増えていくようだった。


「学校に帰りたい! 腹が減った! 金が欲しい! モテたい! 全部、全部なくさなきゃ……!」


茶助は夢中でほうきを振り回した。


サッ、サッ、サッ!


しかし、掃くたびに落ち葉は増えた。


足元は埋まり、視界まで落ち葉で覆われていく。


「なくならない……!」


息が切れ、腕が重くなる。


それでも茶助は、ほうきを止められなかった。


止めたら、欲望に負ける気がした。


全部消さなければ、自分は駄目なままなのだと思った。


「こんなの無理だ!」


ついに茶助は、ほうきを投げ出そうとした。


その手を、レンが静かに止めた。


「茶助」


「何だよ!」


「お前は、何をそんなに焦っている?」


「何って……この落ち葉を全部なくさなきゃだろ!」


「全部?」


レンは茶助の足元に落ちている一枚を見た。


「本当に、全部なくす必要があるのか?」


茶助は言葉に詰まった。


目の前には、まだ無数の落ち葉が舞っている。


どれだけ掃いても、次から次へと現れる。


全部なくそうとする限り、終わりは来ない。


茶助は、これまでの自分を思い返した。


腹が減れば、うまいものを食べたいと思った。


学校に帰りたくなれば、帰りたいと願った。


誰かに認められたければ、モテたいと思った。


そんな気持ちを、茶助はずっと「消さなければいけないもの」だと思っていた。


欲望があるから苦しむ。


欲望があるから失敗する。


だから、全部なくしてしまえば楽になれる。


けれど、なくそうとするほど、欲望は大きくなっていった。


まるで、落ち葉と同じだった。


茶助は、ふとほうきを見つめた。


「……俺、欲望を全部なくそうとしてたのかもしれない」


レンは何も言わず、茶助の隣に落ちてきた一枚の葉を、静かに掃いた。


サッ。


「なくならないなら、なくそうとしなければいい」


「……え?」


レンはもう一枚、落ち葉を掃いた。


サッ。


「一度に全部やろうとするから、苦しくなる」


サッ。


「目の前の一枚だけ見ればいい」


茶助は、レンが掃いた場所を見た。


そこには、ほんの小さな空間ができていた。


すぐに別の落ち葉が舞い落ちてきたが、その空間が消えたわけではない。


一瞬でも、確かに掃けていた。


茶助はゆっくりと、足元の落ち葉を一枚拾った。


「……モテたい」


サッ。


「学校に帰りたい」


サッ。


「うまい飯が食いたい」


サッ。


「金も欲しい」


サッ。


欲望を口にするたび、茶助の胸は少しずつ軽くなっていった。


消えたわけではない。


けれど、無理に消そうとしなくてもいい。


そう思うだけで、落ち葉の山に押しつぶされていた心に、わずかな隙間ができた。


「欲望があること自体が、悪いわけじゃないんだな」


茶助は、また一枚掃いた。


「ただ、欲望に振り回されるんじゃなくて……一つずつ見ればいい」


サッ。


「今は、これ」


サッ。


「次は、これ」


サッ。


いつの間にか、茶助は無言で落ち葉を掃いていた。


もちろん、掃いても掃いても落ち葉は舞ってくる。


それでも、さっきのように焦ってはいなかった。


コウタが笑う。


「茶助、まだいっぱいあるよ」


「ああ」


茶助はほうきを握り直した。


「だったら、一枚ずつ掃けばいい」


その瞬間――


墓地を覆っていた霧が、すっと消えた。


無念和尚が大きくうなずく。


「よくぞ最終関門を突破した!」


茶助は額の汗をぬぐった。


「和尚……俺、悟ったのかな?」


「うむ」


和尚は深くうなずいた。


「欲望は、決してなくならん」


「……」


「じゃが――」


和尚はニヤリと笑った。


「一つ一つ、向き合うことはできる」


茶助は空を見上げた。


秋の空から、一枚の落ち葉が舞い落ちてくる。


ひらひら。


茶助はそれを見て――


「……まだあんのかよ!」


サッ!


落ち葉を掃く。


しかし――


ひらひらひら。


「三枚になったぁぁぁ!!」


レンがため息をついた。


「修行は、まだまだ続くな」


コウタが笑う。


「茶助、頑張って!」


すると、無念和尚が杖をトンッと地面に突いた。


「さて、これで最終関門は終わりじゃ」


茶助はほうきを置き、ほっと息をついた。


「やっと終わりか……。これで無限地獄から出られるんだな?」


「何を言っておる」


和尚はにっこり笑った。


「無限地獄の刑は、最初の約束どおり一週間じゃ」


「……え?」


「第1関門、第2関門、第3関門。この三つを、一週間、毎日やるのじゃー!」


「毎日ぃぃぃ!?」


茶助の叫び声が墓地中に響き渡る。


レンは静かに空を見上げた。


「つまり、今日で終わりではない、と」


「そういうことじゃ」


コウタは嬉しそうにほうきを握り直した。


「明日もお掃除?」


「もちろんじゃ!」


「いやぁぁぁぁぁ!!」


和尚の笑い声と、茶助の悲鳴が、秋の墓地に響き渡った。


――最終関門『無限掃除』。


欲望は、なくならない。


だからこそ、一枚ずつ掃いていく。


そして茶助たちは、これから一週間、三つの関門を毎日繰り返すことになった。


無限地獄は、まだ終わらない。

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