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第12話 無限地獄♾️第ニ関門!誘惑の間!

誘惑の森を抜けた茶助とレンは、池のほとりにたどり着いた。


そこには、古びた小さな庵がひっそりと建っていた。


入口には一枚の札。


『第二関門 誘惑の間』


茶助は札を見上げた。


「……また誘惑?」


「どうせくだらん試練だろう」


レンは腕を組む。


すると、庵の奥からコウタが顔を出した。


「ここでは坐禅をする」


「坐禅?」


「うん。三十分」


「三十分!?」


茶助の顔が引きつった。


「長すぎるだろ!」


「誘惑の森では、欲しいものを追いかけた。ここでは、戻りたいものに追いかけられる」


コウタは淡々と続けた。


「何が見えても、何が聞こえても、三十分は動かない」


「心を無にするってことか?」


「違う」


コウタは茶助をまっすぐ見た。


「心に何が浮かんでも、それを追いかけない」


茶助は少しだけ黙った。


「……それ、できるのか?」


「やってみれば分かるよ」


二人は庵の中に入り、並んで坐禅を組んだ。


コウタが鐘を鳴らす。


カーン――。


静寂。


茶助は目を閉じた。


十秒。


二十秒。


そのときだった。


「茶助くん」


聞き覚えのある声がした。


茶助が目を開ける。


そこには、みさきが立っていた。


「こんなところで何してるの?」


「み、みさき!?」


「学校に帰ろうよ。みんな待ってるよ?」


みさきは笑って手を差し出した。


茶助の胸が大きく揺れる。


帰りたい。


みさきに会いたい。


いつもの学校に戻りたい。


その気持ちは、誘惑の森で見た宝物よりもずっと強かった。


「……学校」


茶助は思わず立ち上がった。


一歩、踏み出した瞬間――


ドボン!!


「うわあああああ!!」


池に落ちた。


びしょ濡れで庵に戻ると、コウタが一言。


「幻覚だよ」


「先に言えよ!」


「言ったら修行にならないからね」


「それはそうだけど!」


茶助はぶつぶつ言いながら、もう一度坐禅を組んだ。


今度はアカギ先生が現れた。


「茶助! 学校に戻るぞ!」


続いて薔薇園教頭。


「あなたたち! 学校をサボるなんて許しませんわ!」


さらに、大勢の女子たち。


「茶助くーん!」


「レン様ー!」


「学校に戻ってきてー!」


「うおおおお!」


茶助が立ち上がる。


レンも立ち上がる。


二人そろって――


ドボン!!


「またかよぉぉぉ!!」




しばらくして。


茶助は三度目の坐禅を組んでいた。


服はびしょ濡れ、髪からは水が滴っている。


「誘惑の森は、『欲しい』だったよな……」


茶助がぽつりと言った。


「そうだね」


「でも、こっちは……」


茶助は目を閉じる。


「『戻りたい』なんだ」


コウタは黙ってうなずいた。


茶助の中に、学校の景色が浮かぶ。


教室。


廊下。


みさきの笑顔。


くだらない毎日。


危険な修行なんてない、普通の高校生活。


それらを思い出すほど、胸が苦しくなった。


「俺、本当に帰りたいんだな……」


茶助は初めて、その気持ちを認めた。


レンも目を閉じた。


女子たちが現れる。


「レン君、一緒に帰ろう?」


レンは目を開けない。


やがて幻は消えた。


次に現れたのは、学園長、教師、友人たち。


そして最後に――茶助。


「レン、一緒に学校へ帰ろうぜ」


レンの眉がピクリと動く。


「……帰りたいと思うことと、今すぐ帰ることは別だ」


レンは静かに言った。


茶助も目を閉じたまま、うなずく。


「うん。帰りたい。でも、今はまだ進む」


やがて――


カーン……。


鐘が鳴った。


三十分。


二人は静かに目を開けた。


「終了」


コウタが言った。


茶助は大きく息を吐く。


「……疲れた」


レンも立ち上がる。


「くだらん幻覚だった」


コウタが二人を見る。


「学校に帰りたい?」


二人は顔を見合わせた。


「帰りたい」


「私もだ」


コウタは小さく笑った。


「それでいい。欲望がなくなったわけじゃない。大切なのは、その気持ちに連れていかれるかどうかだよ」


茶助はうなずいた。


「よし。じゃあ、次の関門へ行こう!」


二人が庵の外へ出ると、池の向こう岸に続く細い木道が目に入った。


その先には、小さな看板が立っている。


『第二関門突破』


茶助は看板を見つめた。


「……あれ? 出口、向こう岸なのか?」


「そうみたいだね」


コウタは庵の入口脇に置かれた二本の長い板を指差した。


「その木道を渡って、向こう岸まで行けばいい」


茶助は板を手に取った。


「最初からこれを使えばよかったんじゃねえか?」


「修行だからね」


「便利な言葉だな!」


レンが木道を見下ろす。


「この道、ずいぶん細いな」


「落ちるなよ」


茶助が注意した直後、レンの足が滑った。


「むっ」


「レン!」


茶助が手を伸ばす。


しかし、勢い余って二人とも木道から転げ落ちた。


バシャーン!!


池の水面が大きく揺れる。


コウタは岸から手を振った。


「二人とも、ちゃんと前に進んでるね!」


「進んでねえ! 落ちてるだけだぁぁぁ!!」


レンが水面から顔を出す。


「私は泳げん」


「えっ!?」


「だから、茶助。私を背負え」


「なんで俺が!?」


――第二関門『誘惑の間』。


二人は欲望に振り回されない心を学んだ。


ただし、池には三回落ちた。

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