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第10話 邪鬼!月明かりの三本勝負!

「……長い」


茶助は、畳の上で正座しながらため息をついた。


謹慎初日。


部屋から出ることは禁止。


そして、与えられた修行は――写経。


茶助は筆を握り、目の前の本を見つめた。


『無欲になった私』


「これ……お経じゃないよな?」


「和尚の著書だ」


隣ではレンが黙々と筆を走らせている。


「五百ページあるぞ」


「……地獄だ」


そのとき――


コンコン。


窓に何かが当たった。


茶助が窓を開けると、足元に一枚の紙が落ちていた。


「果たし状……?」


そこには、乱暴な字でこう書かれていた。


『今夜十二時、鐘の下で待つ』


差出人――煩悩寺邪鬼。


「……あいつ」


茶助の目が鋭くなる。


「行くのか?」


「当然だ!」


「謹慎中だぞ」


「……」


茶助は果たし状を握りしめた。


「それでも行く!」


「やっぱりな」


――午前零時。


月明かりに照らされた鐘楼。


その下に、邪鬼が立っていた。


「来たな、新入り!」


「お前が呼んだんだろ!」


邪鬼は拳を握りしめる。


「昨日の勝負はノーカウントだ!」


「お前、普通に負けただろ!」


「違う!」


邪鬼が地面を踏み鳴らす。


「昨日の俺は本気じゃなかった!」


「じゃあ今日は本気なんだな?」


「もちろんだ!」


邪鬼の目がギラリと光る。


「今夜こそ決着をつける!」


邪鬼は拳を突き出した。


「煩悩寺式――三煩悩勝負!!」


「三煩悩勝負!?」


「三つの勝負を行い、先に二勝した者が勝者!」


「普通に三番勝負でいいだろ!」


「名前が違えば強さも違う!」


「意味分からん!」


邪鬼が吠える。


「第一戦!」


――坐禅対決!!


二人は向かい合って座った。


頭の上には、火のついた蝋燭の皿。


「皿を落としたら負けだ!」


「分かった」


「この勝負、俺は絶対に動かん!」


邪鬼が目を閉じる。


「無心……無心……!」


茶助も目を閉じる。


「俺も……無心……!」


風が吹く。


蝋燭の炎が揺れる。


二人の額から汗が流れる。


そして――


ガシャーン!!


「熱っ!!」


「三秒!?」


茶助の皿が落ちた。


「よっしゃあああ!!」


邪鬼が立ち上がる。


「俺の勝ちだ!!」


「まだ何もしてないのに……」


「勝負とは、そういうものだ!」


「いや、お前が勝ったのは事実だけど!」


――第一戦、邪鬼の勝利!


「第二戦!」


邪鬼が筆を取り出した。


「筆対決だ!」


「何するんだよ?」


「相手の背中に、先に○を書いたほうが勝ち!」


「なんだ、その勝負!?」


「俺が今、考えた!」


「ルールを今作るな!」


二人が向かい合う。


「始め!!」


シュッ!


茶助の筆が走った。


「できた!」


邪鬼が振り返る。


背中には――見事な○。


「なぜだぁぁぁ!!」


「習字だけは得意なんだ!」


「なぜ習字が得意なんだ!」


「知らないよ!」


「くそぉぉぉ!!」


――第二戦、茶助の勝利!


一勝一敗。


邪鬼が拳を握りしめる。


「ここまで来たか……」


月明かりの下、二人が向かい合う。


「最終戦だ」


邪鬼がゆっくりと拳を構えた。


「最後は――」


「……」


「純粋な殴り合いだ!!」


ドン!!


「それ最初からやれよ!!」


茶助も拳を握る。


「望むところだ!」


「行くぞ、茶助ぇぇぇ!!」


「来い、邪鬼ぃぃぃ!!」


二人が同時に踏み込む。


その瞬間――


ゴーン……


寺の鐘が鳴り響いた。


「そこまでじゃ」


「!?」


二人の拳が止まった。


いつの間にか、和尚が鐘楼の前に立っている。


「お、和尚!?」


和尚は静かに二人を見る。


「謹慎中の者が、何をしておる」


茶助とレンは顔を見合わせる。


「……すみません」


邪鬼が慌てて叫ぶ。


「違う! これは勝負ではない! 修行だ!」


「果たし状を書いたのは、おぬしじゃろう」


「……はい」


「邪鬼、おぬしは謹慎じゃ」


「えっ!?」


「でも俺はまだ――」


「謹慎じゃ」


「まだ勝負は終わって――」


「謹慎じゃ」


「俺は負けてない!」


「謹慎じゃ」


「三回も言うなぁぁぁ!!」


邪鬼が頭を抱える。


和尚は茶助とレンを見る。


「そして、おぬしたちは――」


二人の顔が青ざめる。


「明日から一週間、無限地獄の刑じゃ!!」


「無限地獄!?」


「なんですか、それ!?」


邪鬼が食いつく。


「待て! 俺は謹慎で、こいつらは無限地獄!?」


「そうじゃ」


「不公平だ!」


「おぬしも謹慎じゃ」


「なら俺も無限地獄にしろ!」


「なぜ自分から罰を重くするんだよ!」


和尚が不敵に笑う。


「無限地獄とは――」


三人が息をのむ。


「明日、詳しく説明する」


「今言えよぉぉぉ!!」


月明かりの下、三人の叫び声が寺中に響き渡った。


――初日から謹慎。


そして謹慎破り。


茶助の修行は、ますます悟りから遠ざかっていく。

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