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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第3章 

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第54話 何かずれてない?











 街の中心部にそびえたつ巨大な教会。

 ここが、現在のマガツヒ教の総本部……とされている場所だ。

 そして、天使教からやってきたイリアたちは、その前に立っていた。

 何とも忌々しい建物だ。

 本来であれば、ここには天使教の教会が立っていた。

 それを取り壊し、その上にマガツヒ教の教会をたてていることから、その反目的な意図が伝わってくる。

 今すぐにでも打ち壊してやりたいが、何とかそれをこらえる。

 しかし、荘厳な見た目だ。

 マガツヒ教がどれほど虚栄心に満ちているかが分かる。


「……立派な教会で何よりですね」

「そのようなお褒めの言葉を吐かれるのは、いかがなものかと思いますよ。イリア神聖騎士」

「マルシル……」


 イリアの独り言に答えたのは、彼女とともにやってきた天使教信者、マルシルであった。

 彼は神聖騎士ではないものの、実力行使の際には重宝される実力を持つ男だった。

 今回も、荒事に発展することを見越して連れてきていた。

 そんな彼は、イリアに苦言を呈する。


「今のは褒めたのではありません。客観的に見た現状を呟いただけです。勘違いしないように」

「いえいえ、承知しておりますとも。むろん、私も冗談です。篤い信仰心をお持ちのイリア殿に限って、まさか邪教を褒めるなんてことは、あるはずがありません。なにせ、天使様にも認められた、神聖騎士なのですから」

「ええ、その通りです」


 コクリと無表情でうなずくイリア。

 厭味ったらしい言葉に対しても、特に堪えた様子は見せない。

 面白く思わないマルセルは、内心で舌打ちをする。

 そんな彼に、イリアは冷たい目を向けた。


「マルシル。あなたはとてもよく頑張っていると思います。神聖騎士になりたいようですね」

「……ええ」


 笑みを浮かべて頷くマルセル。

 神聖騎士は、熱心な天使教信者ならば誰しもが憧れ、目標とする立場だ。

 高い能力と篤い信仰心を天使に認められ、ようやくたどり着くことができる地位。

 そこには、上層部に媚を売ることや賄賂を渡すことは、一切効果を発揮しない。

 ひとえに、天使から認められるかどうか。それだけだ。

 だからこそ、そこを狙う者も多い。

 しかし、神聖騎士として選ばれる者は多くはなく、狭き門だった。

 その先達者が、冷たくマルセルを見下ろした。


「であれば、私を引きずり落そうとするのではなく、ただひたむきに努力と信仰を重ね、天使様に認めてもらえるよう精進するべきです。あなたのやっている行為は、無駄でしかありませんからね」

「…………まさか。私がそのようなことをするはずがありません。ですが、余計な心配をかけさせてしまったこと、謝罪させていただきます」

「受け入れます。あなたも精進するように。では、行きますよ」


 そう言ってスタスタと歩いて行ってしまうイリア。

 彼女に、他の面々も従ってついていく。

 マルセルも遅れながら、そのあとについていくのであった。


「…………ちっ」










◆


 立派な教会の内部を歩く。

 武装したマガツヒ教の信者がいるのはご愛敬だ。

 鋭い目は飛んでくるが、逆に言えばそれだけだ。

 直接的に何か攻撃を仕掛けてくることもないし、そもそも一定の距離をとって監視されている。

 それは当然のことだと思うし、あちらから攻撃を仕掛けてこなければ反撃もしない。

 一応ではあるが、今回は平和的な会談のために来ているのだから。

 そして、教会の中を進むと、ついに目的の人物が目の前に現れた。

 マガツヒ教教祖ライアー。聖女ユーリエ。


「ようこそおいでくださいました。遠いところ、大変だったでしょう(誰が来てくれと頼んだよ。早く帰れ。塩撒け、塩)」


 にこやかな笑みを浮かべるライアー。

 少なくとも味方ではない天使教の使者である自分たちに対しても丁寧な対応。

 なるほど、ただのバカではないらしい。

 それにこたえるように、イリアも頭を下げた。


「いえ、お気遣いなく。会談はこちらから申し出たこと。むしろ、お時間をとっていただき、ありがとうございます」

「そうですか。色々と話も弾ませたいところですが……どうやら、あまりお時間がないご様子。早速ですが、用件に入っていただけますか? (こっちをジロジロ睨みつけてくるクソ男をどうにかしてよ。マジで不敬。死刑よ、死刑)」


 気まずそうにユーリエが目を向ける先には、イリアの背後にいるマルセルがいた。

 彼が剣呑な雰囲気を醸し出していることは、当然ながら彼女も理解していた。

 それを抑えにかかる。


「マルセル、控えなさい」

「と、申されましても。私は何もしていません。そもそも、天使教以外の異教に配慮をする理由もありませんがね」

「申し訳ありません。あとでしっかりと言っておきますので……」


 悪びれる様子を見せないマルセルに代わり、イリアが謝罪する。

 とはいえ、それがどこまで本当に心が込められているのか。

 少なくとも、表情は冷たい無表情のままだった。


「お気になさらず。それで、ご用件は? (本当に謝罪する意思があるんだったら、さっさと帰れよ。かーえーれ、かーえーれ)」

「先日の、街でのマガツヒ教の暴挙についてです」


 ピリッと空気が固まった。

 ライアーとユーリエは困惑した表情を見せているが、怒りをあらわにしているのはほかのマガツヒ教徒たちだ。

 敵意どころか殺意を感じるが、その程度でひるむのであれば、神聖騎士にはなれない。

 後ろで天使教の同僚たちが脂汗を浮かばせる中、イリアは冷静に口を開く。


「どのような意図があるにせよ、治めていた貴族を弑し、街を支配するのはいかがなものかと。また、その際に天使教を締め出し、無理やりの布教。これは、到底認めるわけにはいきません」

「私たちも、何も自分たちのことを考えて行動を起こしたのではありません。多くの人々を救うため、やむを得ずとった手段となります。ですので、正しく民に優しい貴族が現れれば、すぐにでも明け渡す準備は整っています(てか、早く引き取ってくれ、マジで。このままだと、マジでよくないから。俺にとって)」

「それを聞いて安心しました。あまり目立つ動きはされない方がいいと思いますが……」


 決して表には出さないが、イリアは困惑していた。

 ライアーの言葉は、その声音や表情、空気からして嘘でないことが分かった。

 だからこそ、理解が及ばない。

 であれば、なぜ今回のようなクーデターを企て、実行に移したのか。

 ただ、おとなしく言う通りにマガツヒ教の勢力を抑えるのであれば、今回の目論見の一つは達成される。

 そう考えていたイリアに、ユーリエがライアーの言葉を引き取って続けた。


「ですが、やはり以前のような領主が来られると、こちらとしてもそうそう引き下がるわけにはいきません。その点はご留意いただけたら……(今すぐ無条件で街を解放したいけど、そうしたらここにいるダリアたちが怖いのよね。こうして面子を立ててやったら、多少はマシでしょ。だから、わたしだけは助けて)」


 困ったように頬に手を当てるユーリエ。

 なるほど、そういうことか。

 簡単にはこの街を手放すつもりはないらしい。

 さて、どうしたものかとイリアが考えていると、彼女の背後から声が飛ぶ。


「そんな言葉を聞きたくてこちらはわざわざこんな薄汚い場所に足を運んだわけではないのだよ、邪教の輩め」

「マルセル」


 何もマガツヒ教をかばうつもりは微塵もないが、この場で戦闘になると少々面倒くさい。

 なにせ、ここはマガツヒ教の本拠地。

 そして、自分たちを招き入れているということは、いざという時の備えもしており、万が一にもライアーたちに危険が及ばないことを確信しているということ。

 さすがに分が悪い。

 だというのに、マルセルはむしろイリアを小ばかにしたように笑った。


「イリア殿も随分とお優しいことで。信仰心が薄れてしまったのではないかと、邪推してしまいますよ。天使教の教義、お忘れか?」

「…………」

「邪教は一切認めない。マガツヒ教は、恐れ多くも天使教に牙をむいた悍ましい集団。今すぐにここで貴様らを殺してやってもいいのを、こうして言葉で解決してやろうとしているのだ。おとなしくこの街から去れ」


 はあ、とため息を吐く。

 もちろん、その教義を忘れるはずもない。

 天使教の中でも熱心な信者なら、誰もが知っていることだ。

 実際、その教義に従って行動し、今ではほとんどの目立つ宗教は消滅している。

 その心意気は否定しないが、この場でいうことではないだろう。

 マガツヒ教も、自分たちのために街を一つ落とすほどの狂信レベルだ。

 こんな事を、しかも教祖たちの前で言えば……。


「あらあら。随分と過ぎた言葉を吐くバカが来たんですね」


 当然、敵対的な反応が出る。

 しかし、思っていた以上に柔らかな声だった。

 一歩前に出たのは、ニコニコとほほ笑むシスター。

 清楚な女で柔和そうに見えるが、もちろんその見た目通りでないことは、イリアには伝わってきていた。

 そして何よりも、彼女が既知の相手だったことに、少しだけ驚きを抱いていた。


「なんだと?」

「あなたは……」


 マルセルは怒りを、そしてイリアは驚きを彼女――――ダリアに向けた。

 二つの感情をぶつけられるダリアは、いつもの笑顔をそのまま張り付け、そして視線をイリアに向ける。

 ちなみに、マルセルには一切視線がいかなかった。

 彼女は、イリアに対してにこやかに声をかけた。


「お久しぶりです、イリア先生」

(シスターばっかりだな、この空間)

『何かずれてない?』



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